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ウチの生徒会顧問がおかしい!!


 俺、何してたっけ? つーかここどこだ?

 鼻を抜ける消毒液の独特の匂い、目を動かせばベッドとの視界を遮るカーテン。なぜだか隣に転がっているゴミ箱。ひとまずここが保健室であることは把握した。ゴミ箱は知らん。

 ……ベッドから降りるか。

 このままなのもアレなのでとりあえずカーテンを引き、奥の様子を見る。不思議なことに身体の調子がかつてないほど最高潮。今なら溜まっているあのプリントの山を一人でなんとかできそうなくらいだ。


 カーテンの先は先日見た保健室で間違いなさそうだ。本来保健室の先生が座る席に会長が座り、おそらくあの書類の山の一部であろうプリントを読んでいた。

 こう観ているとホント、様になってるな。すぐ横に違和感の塊があること以外は。カーテンの音で会長がこちらに目を向け、安心したように笑みをこぼす。心臓がドクンと跳ね上がった……かもしれなかったな、違和感の塊がなければ。

「む、目覚めたか南原悠哉。身体に違和感など……いや、それ以前に私が誰だか分かるか?」


 異様なオーラを放つ違和感の塊は放置で。どうせ後でつっこむことになるだろうしな。会長も会長でおかしなことを聞いてくるし本当に何があったんだ?

「如月香生徒会長でしょう? いきなりどうしたんですか」

「……その、生徒会長とは私的な場ではあまり使ってほしくないのだ。堅苦しくて息が詰まる」

 そういえばあまり生徒会長と呼ばれたくないらしいって祐希が言ってたな。


「――香さん、ではどうでしょうか」

「いきなり下の名前で呼ぶか。ふふ、知っているかい女性を口説く時には下の名前を呼ぶ方が成功率が高いそうだ……。もしや君もその口か?」

「んなっ!? は、初耳ですよそんな事!! ちが、俺はそんなつもりじゃなくてですね」

「そう全力で否定しなくても良いだろうに……。私も一応年頃の女性なのだぞ?」

「あ…………、その、えっと、すみません」

「なに冗談だ。南原悠哉は意外と女性に慣れてないんだな」

 クスクスと笑う香さんに苦笑いで返す。


「香さんこそ俺のことフルネームで呼ぶのやめてくれませんか」

「おおっ、言われるまで気が付かなかった。つい呼びやすくてな」

 呼びやすいって……やっぱりこの人の感性は独特すぎる。

「そうだな、私も下の名で呼ばれるのだ。君のこともこれから悠哉と呼ぼう」

「はいよろしくお願いします」

「それで悠哉。身体に違和感……というのかいつもと違う感覚みたいなのを感じないか?」

「いつもより調子が良いくらいです。あの、俺はどうして保健室に?」

 すると香さんは今まで放置してた違和感の塊に目を向ける。


 違和感の塊。それは手足が縛られた状態で置いてあるウサギのきぐるみである。保健室に何故あるのか、手足が縛られてる理由は? とかすげー聞きたくてそして聞きたくなかった。矛盾してるが実際そんな心境なんだから仕方ない。

「……もしかしなくても中に人、入ってますよね」

「ああ私が押し込んだ。横峰涼華、この保健室の責任者だな」

「はぁ!? ちょ、あんた何やってんだよ!!」

「因みに君が毒まがいの薬品を飲んでここに運ばれた元凶だ」

「いいぞもっとやれ!!」

 はっ、口がかってに……。


「というか毒ってどう言うことです? 俺いつ飲みました?」

「君が舐めた飴だよ。涼華先生はその……薬を作るのが趣味というのか、特技というのか。そして作ったよくわからない薬を人に飲ませるのが生きがいの少々困った人でな」

 少々じゃ済まないんですがその趣味とか生きがいとか。

「私に飲ませるつもりで度々飴などに混ぜていたりしてな。危険なので入れ物を分けていたのだが君たちへ説明を忘れていた。申し訳ない」

 頭を深々と下げる香さん。いや、香さんが謝ることじゃないですから。

「ということはあのおかしな言動も薬のせいなのか?」

「おかしいか? 人の記憶に残るにはインパクトが大事だろう?」

 独り言が聞こえたのか答える香さん。あ、それは結局素なのね。


「俺、飴っぽい薬舐めてしばらくしてからの記憶がないんですが」

「ゴミ箱が友だなどとぼやいていたな。どうやら幻覚作用があったようだ」

 幻覚作用ってなんだよ!! 危険すぎるだろその薬!!

「え、俺って大丈夫なんですか? 副作用とか依存性とか!」

「それはおそらく大丈夫だと思うが、詳しくは先生に聞いてくれ。概ね起きているだろうしな」

 きぐるみはビクリと震えた。やっぱり中にいるのかマッドな先生。


「……副作用と依存性は問題ない。あれは元々香の疲労を取るための薬だ。南原君、身体の調子はどうだ? 疲れが取れているだろう」

「ええ、まぁ確かに……」

 この先生から聞いた香さんの話。あの時の先生は香さんをとても心配しているようだった。だから薬をこっそりと入れてでも休ませようと……。

 うん無理。共感できないわ。

「これ以上身体に異常はないと?」

「幻覚が副作用だ。それ以上はない」

 何故か誇らしげに見えたからとりあえず蹴っておいた。


「痛っ! ちょ、何をする止めろ!」

「いえ、少々腹が立ったものですから」

 まったく最近の若者はなどとブツブツ言っているのを無視して香さんに目を向ける。

「きぐるみ(これ)、日当たりの良い場所に干しませんか?」

「君が持つと言うなら屋上の鍵を開けよう。四月とはいえ屋上の日当たりは良好だぞ。おまけに今日は風も弱い。きぐるみの中は面白いことになりそうだ」

 両手できぐるみを持ち上げてみる。

「このくらいならなんとかなりそうです」

 香さんと顔を見合わせる。

「「……よし」」


「よくなぁぁぁぁぁい!! 君たちはアレか!? 私を殺すつもりなのか? そんなことをすればあれだぞ……私泣くぞ!!」

 きぐるみでくごもっていても分かるすこし潤んだ声。何だこの人、本当に大人かよ。カリスマがブレイクしてるぞ。

「悠哉、報復はここまででいいんじゃないか?」

「俺もここまで効くとは思ってませんでした。まぁ、本当に異常が起こらないならこれ以上は不毛なことですからね」

「先生、悠哉も恨んでいないようなので今回はこれで見逃しますが酷いようだと屋上に放り出して一日ほど閉め出しますので」

「……はい、薬は今後合意を得てから出します」

「よし」

 いや、よしじゃないだろ香さん。


「おお、そうだった涼華先生は生徒会の顧問だ。なので今後も顔を合わせる機会が多いから注意しておいたほうがいいぞ」

「あんたが顧問なのかよ!!」











 あれから涼華先生をきぐるみから引っ張り出し、半泣きで自己弁護を始めた先生を無視して保健室を出た。因みにあのきぐるみは演劇部から借りたらしい。帰りに返しに行ったが演劇部の部員は凄く嫌そうな顔をしていた。

 生徒会って嫌われてるなー。

 そんなこんなで生徒会室前。

「祐希ちゃん、すまなかったな少々時間が――」

「祐希、ゴミ箱の件は忘れて――」

 ドアを開けた俺らは言葉を飲み込んだ。


「そっかー、ということは君はボクの妹になるのかー」

 そこにはフタの開いた小物入れと、ペンに向かって話しかける祐希の姿があった。

「……俺もあんなだったんですね」

「……いや、君はもっと酷かったぞ」

 うへぇ……マジかよ。絶対危険だろこの薬!!

「…………俺が保健室に連れていきますよ」

「……頼んだ」


 なんだろう……生徒会には奇人が集まる呪いでもあるんだろうか? そう思う一日になった。




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