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この仕事量はおかしい!!


 保健室の件から三日がたった。無理矢理練り込まれた生徒会長との約束の日である。

 え、クラス替えはどうなったのかって? 顔ぶれは変わったけど隣は祐希のままっていうね。どこまでこの腐れ縁は続くのか。

 それはひとまず置いておくとして、俺は今生徒会室の扉の前に立っている。俺たちの教室の真下だからすぐわかった。生徒会長が登ってきたって言ってたし。

 放課後になって暫く経っているからか辺りに人はいない。……というより二、三年生はここを意図的に避けてる節がある。前任の生徒会長はそれほどやばかったみたいだ。本当になんで引き継いだのかワケわからないぞ。


 とりあえずのノック。

 ……返事がない。再びノック。

 …………やはり返事はない。居ないのか?

 ドアに力を入れると突っ掛かることなくスムーズにスライドした。

 開いてるし……。


 中を覗くと、予想外に広くて驚いた。空き教室丸々一つ使われている。黒板や、教卓前の段差などですぐ解った。こんなに広い意味ないだろ。

 若干呆然としつつ中に入ると、まず目に入ってきたのは二列の向かい合わせた机に置かれた紙の山。

 と、それに囲まれ居眠りをしている生徒会長。


「あ、寝てる……」

 起こさないよう忍び足で近づき、紙の一枚を手に取る。どんなことが書かれてるのか純粋に興味があったから。

 ……これは部活動の今年の予算と昨年の決算が書かれてるのか。

 別の紙を手に取る。今度は各学年の年間予定が書かれていた。所々空白が目立つ。まだ終わっていないらしい。

 その他に生徒会の印が必要な書類がどっさりと……。

 これを一人でやってたのか!? それ以前に明らかに生徒に任せるのがおかしい書類が混ざってる。

 なんで誰にも頼らないんだよ、なんで誰も手伝わない!!

 言い知れない怒りがわいてきて拳を握る。


「って……、俺も一緒か……」

 思わず力が入っていた拳をゆっくりほどいた。

 結局俺も関わりたくないと避けようとしていたし、今日ここに来たのも断るためだった。

 断るため……。


「整理くらいしていてくれよ……」


 ぼそりと起こさない程度に愚痴を吐いて書類を大まかな分類に分けた。結構ごちゃごちゃしてたからこれで見やすくなるはず。

 書類分けしていると、所々に丸がつけられた学校の地図。それとポスターや学内新聞などの掲示物があった。これは別くくりだな。


 そんなこんなで書類分けだけで三十分ちかくかかった。

 座っていた椅子にもたれ掛かり一息つく。向かいにはうっすらとくまのある生徒会長が、まだ腕枕をしたまま夢の世界を旅している。そんな姿をぼーっと眺めていた。


 ……俺は同情しているのかもしれない。


 こんなことしても偽善でしかないのはわかってる。別に誰かから感謝されたいわけでもない。ただ、今見てみぬ振りをすると必ず後悔することになる。そう思うと自然に体が動いていた。

 俺はどうしたいんだ? ここには断りに来たんだろう? ……いや、下らない自問自答はもうやめよう。答えならもう出ている。


 さっき見つけた掲示物を貼ってこよう。それでもまだ寝てるようなら流石にやることないから起こすか。

 どっさりある紙束をダンボールに詰めて持ち抱え、その上に画ビョウなどの必要な小道具を乗せて生徒会室を出た。


「さてと、どのルートが一番早いかなっと…………っと……こういけば一周ですむか」

 ダンボールの上に地図を広げて、線を付け足していると後ろから声をかけられた。


「君、そんなところに座ってどうしたんだい?」

「あ、えっと……」

 振り返るとそこにはスーツを着こなしたイケメンがいた。それはもう、ミーハーな女子たちが『キャー☆』とか奇声をあげて後をついてくるくらいくらいのイケメンだ。

 イケメンは無条件で嫌いだが、そのなかでも群を抜いて馬の会わないタイプだと直感した。俺はなんとか表情が変わることなく対応。頬がひきつらなかったこと誉めてほしい。

「生徒会室にあった掲示物を貼ってこようかと思いまして。それで地図を出してルートを書き足してたんです」

「生徒会? 香が良く入会を許可したね」

「いえ、スカウトされたというのが正しいですね。まだ入ってませんが」


 とたん、イケメンの目が急に鋭くなり眉間にシワを寄せた。

「……あの、なにか?」

「あ、ああごめん急に頭痛がして……。

 それより香は中にいるのかい?」


 ……香って、下の名前を呼ぶのかよ。鳥肌たったわ。別にそれとは関係ないんだが、あの疲れきった会長を起こすのは気がはばかられる。


「……いえ、職員室に用事だとか。すれ違ったかもしれませんね。何か用事なら伝えますが?」

「大丈夫だよ、ちょっとしたことだからね。出直すとするよ」

 それだけ言うとイケメン教師はUターンして歩いていった。なんか、こう……なんだかなぁ。




 さて、じゃあ運b――「あーーー! 悠哉くん!!」なんで狙ったかのように妨害要因が来るかなぁ……。振り向かなくてもわかる。このうるさい声は祐希しかいない。


「なんで狙ったかのように妨害要因が来るかなぁ……って顔してるね」

「おうそうだ、良く解ったな。帰れ」

「ずばりお答えしよう」

「聞けよ!」

「飛び出すタイミングをはかってたからに他ならないよ!」

「わざとだったのかよ……」

「わざとだったのだよ。で、これはなに?」


 祐希は俺の前にあるダンボールを両手でバシバシ叩く。おいやめろ掲示物にシワができたらどうしてくれる!

「それの中身は学校新聞とかだ。今から貼りにいく」

「如月さんのお手伝い? すごい量だね」

「まぁ、そんなもんだ……。ん? 如月さん?」

「うん、会長とか呼ぶとあまり嬉しそうじゃなかったから」

「へぇそうなのか……、良くみてるんだな」


 人の感情の機微に敏感というのか、祐希にはそういったところがある。だからか入学式からまだ数日なのに既にクラスでは人気者だ。


「ねぇねぇそれよりさ、悠哉くん。孫の手も借りたいくらい忙しいでしょ? 手伝うよ」

「いいえて妙なたとえだな。痒いところに手がとどかないくらいの忙しさ。そこにほしい孫の手! てな」


「う、うん。ソウダヨネー」


「…………お前まさか素で間違えたのか?」

「ソンナコトナイヨー、ニホンゴジョウズダモン」

 素で間違えてやがった。





 成り行きで二人で掲示物を張り回った。上級生のクラス前とかでは物珍しげに見られたが別段呼び止められることはなかった。


「悠哉くーん、ボクたち結構貼ったと思うんだけどまだあるのー?」

「別に付き合う必要はなかったんだぞ? と言ってもあと一ヶ所だけどな」

「おお! あと少し!!」


 俺達は軽くなったダンボール(祐希は小道具)を抱えて廊下を歩く。


「……なぁ、祐希。お前この学校の生徒会の噂知ってるか?」

 祐希はしばらく無言のまま画ビョウケースをいじっていたがやがてこくりとうなずいた。


「どう思った?」

「普通じゃないね。先輩たちは生徒会そのものに嫌悪感を持ってるし、クラスのみんなにも噂が広まって変な空気だし。

 ……ボクね、如月さんに助けてもらったことがあるの。まだ中学生のころにね」

「同じ学校だったのか?」

「うんん、違うよ。落とし物をね、一緒に探してくれたの。多分如月さんは覚えてないと思うけど……。

 だからね、今度はボクが如月さんを助けたいんだ」


 そう言う祐希の目は強い決意に満ちていた。澄んだ大きな瞳だ。


「悠哉くんも入るんでしょ? 生徒会」




「…………………………あぁ、そのつもりだ」

 



『のわぁぁぁぁぁぁ!! こ、これは……』

 最後の場所に貼り終えて生徒会室の前まで戻ると、扉の向こうから奇声が聞こえてきた。

 祐希と二人、顔を見合わせる。

「この声会長か?」

「そうみたいだね?」

『私が寝てしまった間にいったいなにがあったのだ……。

 はっ!? これはまさか靴の妖精とかそういった類いの仕業!!』


 んなわけあるかと、扉に手をかける。


『靴じゃないのか……』

「なんで残念そうなんだよ!!」


 扉を開けざまつっこみをいれて中に入る。

「ヒャイ! な、南原悠哉!? お、驚かせないでくれまったく。それと祐希ちゃん、いらっしゃい」

「えへへ、おじゃましまーす」


 ホント、急に親しくなったんだなー。


「書類を整理した人にその対応はあんまりじゃないですかね」

「君が整理してくれたのか……その、すまない」

「会長の寝顔を横目にしましたからね。役得ってものですよ」

「んなっ……!! きき、き、君は、ふ、ふしだらだぞ!!」

「それはボクもちょっとひくなー」

「……無理のしすぎですよ、嫌だったら少しくらい体を休めてください」


 抱えていたダンボールを入り口近くにおいて、生徒会長の向かいの席に座る。隣に同じように祐希も座った。

 会長はキョトンとした顔で俺らを見ている。


「どうしたんですか会長。書類は後にして下さいよ」

「……いや、そうではなく」

「如月さん、早く早く――」


「「――始めましょうよ定例会議」」


 数秒の沈黙のあと、ようやく意味を理解したのか固まっていた顔を動かした。

「ああっ! 始めようっ!!」

 それはとても魅力的な、人を引き付ける笑顔だった。



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