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前の生徒会長もおかしかった!!


 ウチの学校はなにかと迷いやすい。それは俺がまだ通い始めたばかりと言うこともあるが、それを踏まえずとも複雑な造りだと思う。ざっくりと校舎の形を表すなら英数字の8の字みたいだ。校舎自体は三階建てとそんなに高くない。因みに屋上には出れないのであしからず。

 だから中庭も二つあるという何とも変な造りだ。片方は工業科の機械実習などに使われるらしいので、まぁその為かもしれない。

 今日は最初の授業と言うこともあって午前中の全時間見事にオリエンテーションで潰れた。午後はいよいよクラス替えらしい。未来創造コース(という名の普通科)は三クラスあるので確率的にあのクラスの三分の二の顔ぶれは変わるわけだ。

 昼休み、特にすることもない俺は隣の祐希と駄弁っていた。そこに現れたのは担任の田中信博先生である。自己紹介の時の衝撃は今でも忘れられない。

 でだ、午後の授業で配布するプリントの数が多いので手伝ってほしいとのこと。まぁ紙って束だと重いし祐希も女の子、流石に任せるわけにはいかない。とか言わない。人間皆平等なのだ。

 てなわけで祐希に丸投げしたら田中先生から別の仕事をふられた。……人間皆平等なのだ。


 で、冒頭で迷いやすいなんて言っていたがなんのことはない、絶賛迷っている。いや、まぁ来た道戻れば帰れるから迷ってはいないのか?

 ともかくふられた手伝いは保健室から先生が忘れた学級日誌を持ってくること。どうして保健室に忘れたのかを激しく問い質したいところではあるが長くなりそうなのでやめた。


 ……あ。

 そういや保健室って体育館から俺のクラスまでのルートにあったな。入学式に祐希がはしゃいでた記憶がある。

 まさかあいつに助けられる日が来ようとはな。

 ってことは一階か。二階を探しても見つかるはずないじゃん。私ってほんとバカ。







 保健室の扉をノックしてから室内を覗く。

「……はい、どうぞー」

 教室と変わらないくらいの広さの部屋は、ベットが四つ。うち一つにはカーテンがされているのでだれかが使っているらしい。

 その他に薬品棚や書類が詰まった棚などがところ狭しと並び、窮屈なイメージが沸いてくる。


 なんだかやる気を感じさせない声の主はというと部屋の奥の業務机に肘をつき、バインダーに挟んだ資料らしきものを眺めながら入室をすすめてきた。

「失礼します」

 見られてはないものの断りをいれて入る。

 先の女性教諭はバインダーを机上に雑に放り、目を押さえる仕草をして、それから初めて顔を会わせる。

 肩までかかる髪はさらさらしてそうではあるが、所々跳ねっ返りがあり、やつれてみえる。肌も病的なまでに白く、目の下のクマがすごく目立つ。白衣を着ていることも相まって、ものすごく………マッドな雰囲気を醸し出してる。美人なんだが、なんかこう、安心できない感じ。

「見ない顔……ってことは新入生か。名前は?」

 手で机を挟む形であるイスに勧められたので座る。

「南原悠哉です。田中先生が学級日誌をここに置いてきてしまったらしくて取りに来ました」

「ほぅ、君が南原君か」

 少し驚いたような顔をして、ズイィと顔を近づけてくる。まつ毛を数えられそうなほどの距離にこられるものだから反射的に顔を後ろに傾け、危うくイスごと地面に落ちるところだった。


「き、急になにするんですか!!」

「いやいやつい先程君の名前を耳にしてね、どんな人物かと興味を持ってたんだよ」

「はぁ……、俺の名前ですか?」

 いまだバクバク鳴る心臓を押さえつつ聞き返す。

「そうそう、そこで今寝ている――「ごほっ! ごほっごほっ! ……う、ぅぇ、ごほっ……」……子は風邪が辛そうだから静かに頼むよ?」

 逆に喉を痛めそうな咳したけど本当に大丈夫だろうか?


 仕切られたカーテンの方に目を向けていると、横から厚紙のようなもので叩かれた。

「こら、気になるのは分かるが余り見るものじゃないよ。女子生徒なんだから」

「あ……すみません」

 マッドな先生が叩いた厚紙のようなそれは学級日誌だった。

「田中先生に伝えておいて、私はカウンセリング担当じゃないんだからってね」

 田中先生愚痴ってたのか。まぁ結構疲れてる顔してるしあり得そうである。

 用が済んだので立ち上がろうとすると、手で待ってくれと留められた。


「一つ聞きたいんだけどいい?」

「はい、なんでしょうか」

「生徒会のことなんだけど……今の役員の人数知ってる?」

「役員数が足りないとは聞いてましたが人数までは知りませんよ? 五人とかですか?」

 マッドな先生は首をふり苦笑する。流石に少なすぎたかも。学生手帳には生徒会の役職がズラリと並んでいる。生徒会長に、副会長が二人、会計、書記。大概の学校はこの五人で済むが、ウチの学校はこれだけじゃ終わらない。各委員の長も生徒会に含まれてる。例えば図書委員長とか。総数は約三〇人ほどにもなる。流石に低く見積もりすぎたよな。


「実はね……一人なんだよ」

「ふぁ!?」

 ちょっと待って変な声でた。

「今の生徒会の役職は生徒会長たった一人で全部支えてるの」

 開いた口が塞がらない。声も出ない。ただただ愕然とするしかなかった。

 他の生徒は? なんで誰も立候補しなかったんだ?

「他の役員のことかい? それは去年までの生徒会長が概ねクビにしてたね。曰く、上に立つ人の器じゃないんだとさ」

 いや……けど……ねぇ?


「ウチの学校は生徒会の力が強いらしいですけど……流石に先生方が止めたんじゃ」

「去年までの会長はねぇ……。なんというか……理事長の親族だったって言えば分かるかしら?」

 権力者の親族、教諭達の態度、生徒会の権能――あ(察し)。

「入学が今年でよかったなぁ……」

 割とマジな方で。

「……もう終わった話だし、私も思い出したくないからもういいのよ。それより問題は今年の方。去年までの生徒会を知っている二、三年生の中で、果たして生徒会に関わりたいと思う人はどのくらいいるでしょうね?」

「……どんだけ横暴だったんだよ生徒会」

 だから生徒会長は一年生への募集に力を入れていたと……。まぁ勧誘方法はアレだったけど。


「…………そろそろ戻った方がいいんじゃない? それ、田中先生に渡すんでしょ?」

「あ……」

 少し考え込んでしまっていたみたいだ。

 慌てて時計を見ると、既にここにきてから十分も過ぎていた。貴重な昼休みをこれ以上削りたくない。

 マッドな保健室の先生に退室を告げ、廊下に出た。

 教室までの帰り道、俺はずっと生徒会長のことばかり考えていた。

「…………なんで降りなかったんだろう、今の会長なんて席、居心地最悪だろうに」

 もちろん返ってくる言葉などなく俺の独り言は昼休みの喧騒に溶けて消えた。












 悠哉が退室し、眠りを誘うCDの音楽だけが流れる保健室。

 マッドな先生こと横峰涼華よこみねすずかは悠哉の足音が聞こえなくなると、カーテンで仕切られたベットの方へ声をかける。

「……もう出てきても大丈夫よ」

「あー、ビックリした。噂をすればってやつも侮れないなぁ……あと凄く喉が痛い」

「あんな無理な誤魔化し方するからね」

 横峰涼華は白衣のポケットからフィルムに包まれた怪しげな錠剤を取り出すと、ベットから降りてきた女子生徒に差し出す。

 女子生徒は嫌そうな顔をしながら一応とばかりに質問する。


「……先生、これは?」

「のど飴だよ」

「サプリメントサイズですよ?」

「……のど飴だよ」

「錠剤にしか見えません」

「…………のど飴だよ」

「あ、私のど飴持ってました。なので結構です」

「……ちっデータが取れなかった(ぼそっ」

「聞こえてますからね先生」


 女子生徒は横峰涼華が怪しげな錠剤を片付けるのを待ってから口を開く。

「さっきの続きですけど、もっと生徒会長らしく振る舞えば新入生も興味を持ってくれると思うんです。そして生徒会に入ってもらって、より良い学園生活をおくれる様に意見交換なんかもしちゃったりして……ふふふ、夢が広がリングです」


 この女子生徒、実は如月香なのである。普段の奇人じみた発言と行動は如月香自身がよかれと思い、行動した結果である。


「そう上手く行かないだろう。特にお前の場合はな」

「ふぇ? なにか言いました?」

「なんでもないよ」

 この子ほど助言が空回りする子はいないだろうと横峰涼華は苦笑いする。

 まさか勧誘にインパクトが大事だと助言して、窓から入るなんて横峰涼華も想像すらしていなかった。

 バカと天才は紙一重とは良く言ったものだ。


 この子のことを理解し、導いてくれるような人物が生徒会に入れば、この子が置かれている状況を打破出来るかもしれない。

 そんな人物が現れるなんて万に一もないだろうと横峰涼華は分析してながらも望んでいた。

 去年までの生徒会、その闇を払う光を待ち焦がれていた。




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