プロローグに似た別のなにか
不定期更新ですがよろしくお願いします
唐突だが、4月10日。この日は俺の入学式である。
桜乃森高等学校、駅から徒歩20分。若干街中から外れた小高い丘の上にあって、名前通り丘一面に桜が植えられた面白愉快な高校だ。
時季もあってか花見に来てる人達がいて、その人達に見送られながらの登校は何かと気恥ずかしいものがあった。終いには朝から出来上がってるおっさんに絡まれ、時間ギリギリになる始末。おっさんは敵だ。
受付に間に合った俺は名前を聞かれて、噛まないように注意しながらはっきり答える。
「南原悠哉です。あ、普通科です」
「はい、南原さんですね。あちらの生徒が案内するので着いていってください」
受付係の生徒が指す先に「こっちだよー」っと手を上げてアピールする女性がいた。
人混みをかき分け、なんとか目的の場所に到達する。
「あ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね。 でももう少し待ってね、ある程度集まってから席に案内するから」
桜乃森高校は学科が結構分かれてるから俺ら新入生が違う科の席に座らないための措置なんだろう。
えっと、普通科、商業科、工業科があって、さらにそっからコースという分け方をしてあって。普通科だったら文理コース、英数コース、そして俺が選んだ未来創造コースみたいな感じに。工業科は電気、機械、自動車ってな感じに分かれてる。
うん、案内ないと絶対間違える人いるよね、これ。
俺が着なれていない制服の身なりを整えていると、案内の女性から声をかけられた。
「君、結構おっきいよね。やっぱり何か部活とかやってたの?」
当たり障りのないありきたりな質問だった。まぁ、話を広げたいのだろうけど、俺って帰宅部なんですよ。
「いえいえ、自分は部活とかやってなかったですよ。スポーツはこれといって苦手なものはないんですけど、得意なのもないですね」
「そっかー。あ、ボクは高見沢祐希。よろしくね!」
一瞬頭が真っ白になった。え? ボクっ娘?
つい容姿を改めて上から下まで観てしまった。
女性にしては短めの髪、パチリと開いた大きな瞳。リップしてるのか薄桃色の艶のある小さな唇。うわ、凄い美少女じゃん。制服も女性もの。胸も少なからずちゃんとある。これで懸念であった男の娘である可能性は消えた。そしてボクっ娘。
なにこれ最強じゃん。
「あ……、やっぱりボクっていうの変だった?」
「いえいえいえ、こちらこそジロジロ見てしまってごめんなさい。あまり聞き慣れない一人称だったので。
あ、聞こえていたかもしれませんけどもう一度。俺……じゃなくて、自分は南原悠哉です」
「あはは硬くならなくていいよー、
―――今日から同じ一年生じゃないか♪」
…………ん?
「……一年生?」
俺は祐希さんを指差しながら。
「うん、一年生」
祐希さんは自分を指差しながら。
そして俺と祐希さんを交互に指しながら……
「ボクたち同級生」
んんんんん? あれれー? おかしいぞー
「あれ、案内の先輩なんじゃないの?」
「いやいや、ちょっとお手洗いに抜けて、戻ってきたら誰もいなかったからそれっぽくやってみようかと………こういうことってやってみたくなるよね?」
「ならねえよ!!」
心の底からの叫びを上げて、周囲から注目される。流石にここでは公開処刑だと入り口から離れたところに祐希さんを引っ張った。
「あ、ボク未来創造コースだよ。なんだ悠哉くん席に案内してくれるの?」
違う、そうじゃない。
ちょっと入り口を出て左側。人は疎らだしこの辺でいいか。
「――なんで係員の真似事してるんだよぉぉぉぉぉ!」
色々言いたいがまずそこだ、何故やった。
「え、だからやr「普通はやりたくならないから! 人が混乱するだろうが俺みたいに!!」
……。
…………。
………………おお!!」
「おい、まさか今気がついたとか抜かすんじゃないだろうな?」
「ち、ちが………………そ、そうだ。同じ科の人を集めてたんだよ。ほ、ほら、先輩が楽できるようにね」
「まったく困るなー、せっかく人を集めてたのに邪魔しちゃあ」などとほざく祐希さん――いや、祐希をジト目で睨む。
こいつに対して丁寧な言葉で接する必要はないと俺の中の線引きが完了した瞬間でもあった。
「……はぁ、戻るかボクっ娘。受付の人にもう一度聞きに行くぞ」
「あれ、ボクへの態度が変わりすぎじゃない?」
「自分の胸に手を当てて考えるんだな」
「せ、セクハラだぁ!」
「グー○ルで言葉の意味を調べろ」
「あ、ちょっとまってね。……罪ややましさについて自問自答するさま。だって! やましさってなんだっけ?」
ああ、もういいです。
その後、受付の人に聞いて無事に入学式を迎えることができたよ。隣は祐希だったけどな!!
校長先生やお偉いさんのありがた迷惑な長い話も終わり、HRをして今日は下校になる。なので教室へ移動するのだが、なんの因果か祐希とは教室まで同じだった。
一時的なものらしく、一週間以内にまたクラスは変わるらしいけど。
「ほらほら、悠哉くんあそこが保健室でこっちが多目的教室。ここは……うわ、生徒指導室なのかぁ」
「列から離れて迷子になるなよ?」
そういうと不服そうな顔で睨んでくる祐希。
右手で彼女を適当にあしらいつつ、プレートに書かれた第一生徒指導室の文字に半ば困惑していた。
第一? 少なくとも第二まではあるんだよな。必要なのか?
「悠哉くん、みんな行っちゃうよ?」
「っと、ああすまん。今行く」
なんとなく後ろ髪を引かれる思いを切って祐希の隣に並ぶ。
「何か気になったの?」
「いや、大したことじゃない」
「そっかー。あ、見て! 中庭ひろーい」
この話はすぐに終わり、祐希の興味は他に移った。屈託のない祐希の笑顔を眺めながら小さな事にも幸せを見出だせそうな性格だよなと苦笑いする。
その後、教室まで特になにも起こらなかった。まぁ、逆に言えば教室で起こったんだけど。
HR中唐突にそいつは来た。
「失礼、生徒会だ」
ただし窓から。ここ、三階ですけど?
長い艶のある髪、モデルのようなプロポーション。10人中9人は振り向くであろう美貌。俺は、というよりクラス全員この人物を知っている。
ついさっき体育館で俺達新入生に挨拶していた在校生代表。生徒会役員生徒会長、如月香。
開いた口が塞がらないとはこういうことを指すのか。俺を含めた生徒のほぼ全員がポカーンとしているはず。
「すっごーい! 窓からなんて大胆だよね悠哉くん」
こいつは例外。
「HR中悪いな安城先生。生徒会役員が年々不足してきているので役員の募集をしようとな。――ついさきほど閃いた」
「さっきかよ!」
無意識のうちにつっこんでしまい、視線が俺に集中する。あ、またこのパターン……。
「ふむ、威勢のいい新入生だな。どうだ生徒会に「いえ、結構です」……そうかそうか、入ってくれるか」
いや、聞けよ!
「その話はおいておくとして、なんで窓から……」
おそらく、皆が聞きたいであろうこの惨状をいっそのこと質問する。
「なに、答えは単純だ。この教室の真下なのだ生徒会室が」
「階段使えよ! ――あっ……」
悲報、南原悠哉またもやらかす。
しかし生徒会長は気にすることなく少し考える仕草をとる。
「階段か……その手もあったな」
「この手しかありませんから」
何故だ。何故こうもつっこんでしまうんだ?
「あえて床を突き破る!」
「よしよし、お前は黙ってようか」
祐希まで参加すると俺がおかしくなる。
「君、中々に面白い意見だ。名前は?」
「高見沢祐希であります生徒会長殿!」
「高見沢祐希か、いい名前だな。祐希君生徒会に入らないか?」
「入りまーっす!」
なんでお前ノリと勢いだけで決められるの? 逆に凄いよ?
「HR中にすまなかった安城先生。では私は次の教室に」
そう告げ、ガラガラと戸を開け廊下に出ると、そのまま隣の教室に入っていった。
沈黙が教室に残った。
「そ、それではまず先生から自己紹介しますね」
真新しいチョークを取り黒板に文字を書いていく。
「私の名前は田中信博といいます。これから一年間よろしくお願いしますね」
「「「「「安城じゃなかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
この日初めてクラスが一つになった。