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第4話「魔力って何なんだ」

 爆音が鳴り響き、竜巻が吹き荒れ、閃光が煌めく。


「なぜ、こうなってしまうのでしょう…」


 小一時間メイから魔術を教わり、魔王職業(ジョブ)のお陰か魔術の発動は難なく行えた。しかし、結果としてはうまく使うことができなかった。


 基礎と言われる初級魔術をいくつか教えてもらったのだが、どうしても想像と違う結果となってしまう。

 

 火の玉を放つ『火球(ファイアーボール)』は、こまめに爆発する爆炎の玉が掌に出来上がる。だが、飛ばせないので熱い。

 水の玉を放つ『水球(ウォーターボール)』は、大量の水が掌から溢れ出て止まらなくなる。玉にすらならない。

 電気の玉を放つ『雷球(サンダーボール)』は、玉にはならないものの電撃として放つことは出来た。しかし、意図しない方向へ飛んでいく上に、電撃を作り出すと同時に周囲の物質が崩壊する。

 石の玉を放つ『石球(ストーンボール)』は、足元の土が石ころになるだけだ。

 風の玉を放つ『風球(エアボール)』は、玉には出来ないものの、突風を巻き起こすことはできた。しかし、操作がきかず竜巻が発生する。

 連続して一通り使ってみたが

どれもうまくいかない。


「たぶん、魔力って一体何なのか理解できてないんだと思う。あと、元いた世界の理屈に縛られてるのかな」


 確認のため、もう一度『火球(ファイアーボール)』と『雷球(サンダーボール)』を使ってみた、やはり間違いないだろう。

 

 『火球(ファイアーボール)』を放つ際は、「空気中にいきなり火の玉ができるはずがない」と少しだけ考えてしまう。そこから、「水素と酸素は空気中にもあるから、その燃焼なら可能かも」という思考に移り、爆炎の玉ができる。

 『雷球(サンダーボール)』も同様に、「いきなり電気ができるはずないけど、周囲の物質から電子をかき集めれば可能なのかな?」と思ってしまい、周囲の物質が崩壊する。


「たしかに、そうかもしれませんね。物心ついた時から魔力はどういったものなのか感覚的に知っているので、教えるのが難しいです。どう伝えればいいのか…ひとまず、このままだと[幻術(ミラージュ)]を覚えることはできないかもです」


 そう、この魔術講座の目標は、初級の無属性魔術である『幻術(ミラージュ)』を覚えることだ。この魔術は名前の通り相手に幻覚を見せる魔術らしく、うまく使えばステータスカードを誤魔化せるらしい。しかし、無属性魔術は魔力の性質を知っていなければ使えないのだという。


「やっぱり、魔力への理解がまず必要なんだね」

「はい、無属性魔術は自分の力だけで行わなければならないので…でも、小一時間で魔術が使えるようになる時点で相当すごいことですけどね」

「うん、ありがとね」


 命を救ったとはいえ、メイにはお世話になりすぎている気がする。いつまでも頼ってはいられない、自立を考えなければいけないだろう。この世界についてもっと知る必要もある、閻魔大王が「生きづらい世界」だと言っていたのだ、どんな危険があるのか、森に引きこもっていては知ることのできないことも多いはずだ。


「今日はもう遅いので、晩御飯を食べて寝ましょう。また明日練習ということで」

「わかった、明日もよろしくね」


 『幻術(ミラージュ)』が使えなければ面倒だろう。自立するにしても世界を知るにしても、村や街へ行く必要がある。はやく覚えなければいけない。


 その後、メイから干し肉と野草のスープをもらい一緒に食べた。調味料も満足にない環境だが、すごく美味い、メイには料理の才能があるようだ。だが、メイは俯いている、あまり良い出来ではなかったのかもしれない、美味しいのに。

 そして、清涼感のある樹液が出る枝で歯を磨き、寝ることとなった。


 こうして、ユウトの新たな人生の長い1日目は終わったのである。


 そういえば、寝る前にステータスを確認するとクラスC-1になっていた。魔術の練習でも経験値が得られるのだろうか?少しだけやる気が上がり、明日も頑張ろうと改めて心に誓うのだった。









 胸の痛みに耐えながら、憂鬱な気分で4人の男達を引き連れ、森の中を歩いていた。

 

 彼、ライド=マクロは昔、国に仕える戦士団の戦士だった。人のいいライドは、戦いで死んだ友人の借金を背負うことで友人の家族を救った。しかし、財産をすべて失い、戦士団では尾ひれのついた悪い噂が流れ、職も失った。そこから彼の人生は大きく狂い始める。噂のせいでまともな職に就けず路頭に迷っているところを拾われ、気がつくとこの一帯を牛耳る盗賊組合(ギルド)の下っ端として働かされていた。

 初めは抵抗したが、ボスはライドの家族や友人の家族のことを調べ上げ、すべてを知っている。間接的に人質に取られているようなものだ。だからこそ逆らえない。ライドはまだクラスD-1だが、将来有望と言われた戦士だった。今思えば、悪い噂もすべてボスによるものだったのかもしれない。

 

 彼のすぐ後ろには、老け顔の弓使いの男ジスロと、スキンヘッドのナイフ使いの男クーラスがついてきている。彼らはライドが路頭に迷いながらも救った者達だ、ジスロは路地裏でリンチにあっているところを、クーラスは空腹と大怪我で死にかけていたところを助け、それ以来二人ともライドを慕い、どんなところへもついてきてくれる。言動は下品な時もあるが、根はいいやつらだ。

 さらに後ろには、大剣を担いだ大男リドと、ローブと(ロッド)を装備した細身の男ペリーがついてきている。増援だと勝手に付いてきた2人だ。

 見た目通り戦い方は戦士と魔術師だが、この世界(盗賊)が長いために二人の職業(ジョブ)は盗賊という不名誉なものである。『幻術(ミラージュ)』を使わなければ街にも入れない。それでも腕は立ち、二人ともクラスC超えの実力を持つため戦闘能力はこの組合(ギルド)でトップクラスだ。


「まだつかねぇのか!チッ、明日は大仕事が控えてるってのによぉ」

「まあまあ、新人の尻拭いは先輩の仕事ですし。それに、標的はあの『妖狐の美少女』なんですから、楽しみではないですか」

「ヘッ、そうだな。アジトへ連れてく前に壊さねぇよう気をつけて味見しねぇとな」

 

 二人はいい気分で下劣な会話を繰り広げている。それもそうだろう、今回の標的はこの先の迷宮森林に住む『妖狐の美少女』だ。一年ほど前に現れ、セミロングの金髪と幼さの残る美しい顔立ちから、ここら一帯の山賊や奴隷狩りが狙い続けている大物だ。


「新人が追い詰めたというのはいささか信じがたいですが、本当だとすれば今日が好機かもしれません」

「ああ、怪力のカルマ族ってのは気になるが、そいつさえぶっ飛ばせば問題ねぇ筈だからな。まぁ、嘘だったらテメェらをぶっ飛ばすけどな!」


 勝手に付いてきたくせに勝手なことを言っている。

 『妖狐の美少女』の家を見つけ、追い詰め、白いカルマ族に突き飛ばされた後、意識が回復してアジトに戻る途中にこいつらと出くわした。事情を話すと「今が好機だ、さっさと案内しろ!」と脅されたため、仕方なく連れて行くところだ。


「はぁ〜…」


 本当に気が乗らない、だが逆らえない。逆らえば故郷の家族や友人の家族に不幸が起きるだろう。しかし、それでも、妖狐の少女とカルマ族の青年の運命を考えると気が重い。

 白いカルマ族などとても珍しい、初めて見た。ジスロとクーラスはその価値に気づかなかったようだが、組織の奴らは気づくだろう。だからこそ、斬りかかった、殺そうとした、せめてもの救いに、と…。

 生きたまま捕まれば、想像するのも恐ろしいような運命が2人には待っている、ならば、どさくさに紛れて、止めを刺そう。改めて覚悟を決める。


「もうすぐ…です」


 家まではもう少しだ、まだ気づかれる距離ではないが、念のためここからは気配を消して慎重に忍び寄る必要がある。ジスロとクーラスは後ろの2人に気圧され静かだ、風下なので匂いも問題ない、このまま静かに近づけば・・・


「なんですかあれは!?」


 ペリーが叫んだ。いったい何を考えているんだ。


「何考えてんだ!叫ぶんじゃねぇよ!」


 リドと意見が一致してしまった、最悪だ。あと、お前も叫ぶな。


「聞こえないんですか?感じないのですか?!」

「あん?何言ってやがんだ?」


 耳に意識を集中してみる、すると、家の方向から爆発音のようなものが微かに聞こえる。


「私のスキル、『魔力感知向上』では、爆発音の方から魔力を感じます。つまり、音の発生源は魔術です!」

「だから何なんだよ、爆発の魔術ぐらいあるだろ」

「最低難易度の爆発魔術は『爆炎球(ボムボール)』です。ですが、それは上級魔術なんですよ!」


 つまり、音の発生源には上級魔術を使える者がいるということか。


「間違いかもしれねぇだろ、様子だけでも見に行ってみようぜ」


 リドがそう言って踏み出した。しかし次の瞬間、眩い閃光がリドへ迫る。


「うおっ!電撃か?!」


 さすがはCクラスだ。咄嗟に大剣を盾のようにして電撃を受け止めた。

 雷属性の魔術は金属を伝わってくるため防ぐのが難しい。なので、上級の武器や防具には『雷電変換コーティング』という加工が施されており、雷魔術を魔力へと変換して霧散させることができる。あの大剣もその加工が施してあると自慢していた。しかし……


「ぐああああああ!!!!!」


 リドは一瞬にして黒焦げとなった。加工が施してあるにも関わらず、大剣はバチバチと帯電しながら転がっている。


「コーティングを貫くほどの雷魔術…いったい、どれほどの魔力が込められているというのですか」

「ぐ、あぁ…」


 ペリーは震え上がっている。リドからは呻き声が聞こえる、どうやら生きているようだ。

 しかし追い打ちをかけるように、衝撃的な光景が現れる。


「ひいっ!」

「なぁんだぁ!?」

「スゲェっすね」

「…竜巻、か?」


 細い竜巻が夜空へとのびている。星に照らされ、幻想的な美しさを感じる。しかし、それを見たペリーは、驚愕とともに体が小刻みに震えている。


「上級魔術の『竜巻(トルネード)』まで……怪力野郎1人じゃなかったんですか!こんな場所に居られるか!私は帰ります!」


 何か、言ってはいけなそうなセリフを吐いた瞬間、ペリーを閃光が貫いた。


「ぐああああああ!!!!!」


 ペリーも一瞬にして黒焦げとなり、意識を失った。


 静寂が場を包み込み、事の重大さに気がつく。おそらく、初めから全て計算の内だったのだろう。

 爆発音で脅かし場所を把握、雷撃で仕留める。

 竜巻で脅かし場所を把握、雷撃で仕留める。

 単純な策だが、実に効果的だ。しかし、こちらの心理を読み取った上で行わなければ成功しない策でもある。いや、それすらも容易く読み取れるほどの知恵の持ち主なのだろう。

 

 ライドの直感が全力で警告を発する。この先に居るやつは、相当ヤバイ、かなりの手練れだ。


「お前らはリドを担げ」


 ペリーを背負いながら小声で2人に指示を出す。


「静かに、逃げるぞ」

「あいよぉ」

「へ、へい」


 追撃が来ないことを祈りながら静かに来た道を戻っていく。その最中、走馬灯のように今までの人生が脳裏をよぎり、同時に後悔の念が押し寄せる。


(やはり、こんなことをしていたらダメだ、今日で目が覚めた。無事にアジトへ戻ることができたら、ボスを……)


 家族の為、自由の為、彼は決意する。たとえ刺し違えることになっても、自分の信念を貫こうと。

 ライドの瞳は戦士団に居た頃と変わらぬ輝きにまで戻っていた。


 

 しかし、彼はまだ知らない。その決意は杞憂に終わることを。

 

 読んでくださり有難うございます。

 

 スマホで 空 白 をつけられるようになりました!

 やはりタイピングは遅いので、これからもスマホで書いていこうと思います。段落わけなどおかしくなる時があるかもしれませんが、ご了承下さい。

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