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第2話「魔王だった」

「ここが私の家です」


 助けた場所から歩くこと30分、森の中、少し開けた空間に小さな小屋のような家があった。

 お世辞にも立派とは言えないが、この世界の基準がわからないのでこれが普通なのかもしれない。それでも生活感があり、なかなかいい雰囲気だ。


「メイさんはここで一人で暮らしてるんだっけ?」

「はい、もう一年になります。それと、メイと呼び捨てでいいですよユウト様」

「そしたら俺のことも呼び捨てでいいよ。敬語も必要ないし」

「それはできません、命の恩人であるユウト様にそのような言葉遣いなど…」

「ならせめて、様付けはやめてっ。そしたら俺もメイって呼ぶから」

「わかりました、そしたらユウトさ…んと呼ぶことにします」

「う、うん、もうそれでいいよ」


 ここへ到着するまで自己紹介とともに、そんな他愛もない話をしながらいろいろな話を聞いた。

 

 彼女の名前はメイといい、妖狐族という種族らしい。その証拠に、フードの下には狐のような耳があり、狐の尻尾も生えていた。それ以外は金髪の美少女にしか見えないのだから不思議だ、改めて異世界へ来たことを実感させられる。

 そして、メイは比較的低めの身長のようだが、似つかわしくないほど発育がいいようだ、どことは言わないが。これも異世界クオリティなのだろうか。

 

 それだけでなく、家に到着した直後にはこの森に関することも聞くことができた。

 この森は千年以上前から特殊な結界が張られており、メイの住んでいる家から100メートルほど進むと結界域に入ってしまうらしい。結界の中では方向感覚が狂い、偶然結界の外に出られることもあれば二度と戻ってこられないものもいるため『迷宮森林』と呼ばれているそうだ。また、迷宮森林の中心には何かとてつもないものが封印されていると言い伝えられているらしい。

 メイは嗅覚がとても優れているらしく、家の匂いが届く範囲であれば結界内からでも戻ってこられるそうだ。そのため男達を結界内で撒こうとしたようだが、なぜか今日は結界内でも方向感覚が狂わず窮地に陥ってしまったらしい。


「今までは猛獣や山賊、さっきのような盗賊に襲われても結界を利用して逃げ切れていたのですが、今日のようなことは初めてです。もしかすると結界が消えたのかもしれません」


 メイに聞いた迷宮森林の中心方向と走ってきた方向は何となく一致する。中心はもしかすると墓石のようなものがあった場所なのかもしれない。そして、墓石が割れていたことと結界が消えたことはタイミング的にも関係がありそうだ。つまり、結界が消えた原因は転生による可能性が非常に高い。


「あ、まだ外なのに話し込んでしまってすみません。汚いところですが、遠慮なくあがってください。一応ユウトさんに合いそうな服があったはずですので、持ってきますね」

「あ、うん、お邪魔します。あと、ちょっと俺からも話したいことがあるんだけど」


 自分の転生が原因で窮地に陥ってしまったのなら、故意でないとはいえお礼なんてもらえない。

 まだ出会って間もないが、少なくとも悪人ではないようだし、メイもなぜ迷宮にいたのか気になっているようだったので、すべてを話すことにした。


「えっと、何か重要なお話みたいですね、ひとまず座ってください」

「うん、ありがとう」


 背もたれのない木の幹のような椅子に腰かけ、話し始める。

 異世界、前世、閻魔大王、転生、墓石、アルビノ…この数時間で怒涛のように起きた奇怪な出来事をすべて包み隠さず話した。そして、聞き終えたメイの表情には疑いの様子はない。


「話といていうのもおかしいけど、もしかして信じてくれるの?」

「当然です。ユウトさんが平然と嘘をつくような人じゃないことは、出会って間もないですけどわかります」


 どうやらメイもこの短期間で信頼できる人物だと思ってくれていたみたいだ。美少女に信頼されて嬉しくない男などいない、葉っぱ(着るもの)を見つけた時以上の嬉しさがこみ上げてくる。当然か


「それに、結界があるから大丈夫だろうと自信過剰になっていた自分が一番悪いので、自業自得です。ユウトさんの責任は一切ありません。ですから、改めてありがとうございました。ユウトさんがいなければ今頃奴隷にされ、命どころか女性の尊厳すら奪わえていたかもしれません」

「そう言ってくれるとありがたいよ。それと、こちらこそありがとうね、話せて少し気が楽になったよ」


 1人で抱えていた秘密を打ち明けられたおかげで本当に気持ちが楽になった。


「それでは、この世界のことはほとんどわからないのですか?」

「うん、恥ずかしながら、さっきメイが教えてくれた森のことくらいしかわからないんだ」

「そうですか、それなら私の知っていることであれば出来る限りお教えしますよ!命を救っていただいたお礼が服だけなんてとんでもないお話ですし」

「いやいや、服だけでも充分なんだけどね、もともと俺のせいかもしれないんだし」

「それは違います。先ほども言いましたが、私の自業自得でユウトさんの責任は一切ありません。なので、ユウトさんには感謝しかありません!」


 礼儀正しく律儀な子だ、その言葉に甘え、父親のおさがりだという服をもらった。


「ぴったりですね、お似合いですよ」

「いいの?お父さんの服をもらっちゃって」

「いいんです、もう…いませんので」


 盛大に地雷を踏んでしまった。


「ご、ごめん」

「いえいえ!気にしないでください。もう、昔のことですし、一応心に区切りはつけているので。それよりもこの世界、アークのことお話ししますね」


 こんな森の中に一人で住んでいる時点で何か事情があるだろうに、気にはなるが、また地雷を踏むことになりかねないので、『アーク』と呼ばれるこの世界についての説明に耳を傾ける。


 まずこの世界(アーク)には、亜人種の森人族(エルフ)矮人族(ドワーフ)、獣人種の妖狐族や狼牙族など、多種多様な種族が存在し、時には争い、時には協力し合いながら暮らしているという。さらに、それぞれの種族は特筆した技術や能力である『種族技能』と呼ばれるものを種族ごとに持っているのだそうだ。世界(アーク)で最も栄えているのは人種人間族であり、『繁殖能力』という種族技能の恩恵によって繫栄しているという。


「ちなみにユウトさんは、亜人種カルマ族という種族ですね」

「カルマ族?]

「はい、全体的に整った顔立ちの方が多く、その見た目の美しさから女性のカルマ族は奴隷としての価値がものすごく高いそうです。非常に珍しい種族ですが、先ほどの盗賊達は見慣れているのでしょうね」

「なるほど、だから驚いてなかったし男だから価値が低くくて切りかかってきたのか。そういえば、カルマ族の特筆技能って何かわかる?」

「カルマ族はその行いによって髪や体の色が変わるそうですよ。判断の基準はわかりませんが、悪行を積めば全体的に黒く、善行を積めば白くなるらしいです。多少色の濃さに違いはありつつも灰色の髪に肌色が基本なので、普通は人間族と違いがわからないはずですが…ユウトさんは、すごく白いですね」

「俺のように真っ白なカルマ族は少ないの?」

「はい、少なくとも私は初めて見ます。それと、色によって何かしらの種族技能が得られると聞きますが、すみません、詳しくはわかりません」

「いや、充分だよ、ありがとう」


 次に、職業(ジョブ)、クラスといったステータス値がすべての人に存在することが分かった。

 職業(ジョブ)とは実際に勤めている職のことではなく、村人や戦士、魔術師といった恩恵のことだそうだ。こちらも様々な種類があり、その人の目標や才能、努力に応じて自然と変化するらしい。

 戦士であれば『剣術上達速度上昇』など、職業によって異なる効果が得られ、その職業に通ずる努力をすることで上位の職に変化することもあるのだそうだ。例えば、戦士として努力を欠かさなかったものは騎士となり、『剣術上達速度上昇』に加えて『剣術攻撃・防御上昇』といったように恩恵も増えるという。ちなみに、村人の職業はまだ目標の定まっていない者が多いらしく、『転職速度上昇』という恩恵だそうだ。ハローワークかよ。


「それと、私の職業(ジョブ)は魔術師です。恩恵は『魔術習得速度上昇』ですね」

「ええっ!?もしかして、何か魔術とか使えたりするの?」

「まだなり立てなので初級までのものだけですが…えっと、我が命に応じその姿を変えたまえ、『構成(クラフト)』」


 メイが呪文のようなものを唱えるとテーブルの一部が作り変わり、手のひらサイズの四角い箱ができた。さながら、金属の二つ名を持つ錬金術師のようだ。


「す、すごい!魔術って初めて見た!俺の世界にはたぶん存在しないから、ほんとに感動だよ!」

「喜んでいただけて何よりです。これは構成(クラフト)という土属性の初級魔術で、物を作り変えたりする魔術ですね。魔術には火、水、雷、土、風、無の6つの属性と初級、下級、中級、上級、超級の5つの階級がありまして、使える階級と職業(ジョブ)が魔術師の格となります。ですが、魔術師の上位職である賢者でも上級魔術がいくつか使える程度なので、階級は実質4段階ですね。超級は伝説と言われています」

「俺も頑張れば使えるようになるの?」

「ユウトさんも魔術を使いたいという目標をもって努力すればできるようになりますよ。魔術師以外の職業でも使えるようになりますが、あとで職業を確認してみましょう」

「わざわざ、本当にありがとうね」

「いえ!ユウトさんは命の恩人なので当然です!遠慮なんてしなくていいですよ。次は…クラスについて話しますか」


 クラスとは、魔物などの生き物と戦うことで経験値を得ることができ、それによって表される強さの目安らしい。ちなみに魔物とは、魔力を操り特有の魔術を扱える野生の生き物のことである。まるでRPGゲームのようだ。

 クラスが上がると同時に身体能力や魔力、体力も上がるらしいが、職業や種族、生まれ持っての才能や鍛え方によって上がり幅は異なるため、クラスが同じでも強さが異なる場合があるらしい。それでも、クラスから大まかな強さは把握できるそうだ。


「私はクラスがD-3です。基本的にはE-3からA-1までの15段階で強さが表されます」

「なるほど、そしたらメイは強いほうなの?」

「そうですね、年齢の割には強いと思います。ちなみに、才能のある方が生涯かけて到達できるクラスがAだと言われています。Cクラスを超えた時点で相当な実力者ですね」



 そして、最後はスキルについて。これは『種族技能』とも『職業(ジョブ)』とも違い、完全に個人が独自に持つ特殊能力のようなもので、先天的に持っている者もいれば後天的に獲得できる者もいるらしい。


「わたしも一応スキル持ちで、『嗅覚向上』というスキルを持っています。これは、単純な嗅覚向上だけじゃなくて嘘の匂いなんかも嗅ぎ取れる能力ですね」

「おおっ!メイってなんか、凄い存在なんだね!そのスキルがあるから異世界とか転生とか信じてくれたんだ」

「嘘をつくのが物凄く上手いと嗅ぎ取るのは難しいので、最後は直感ですけどね。内心は今も結構驚いてますよ。それと、スキルを二つ持つ『ダブル』や三つ以上持つ『マルチ』と呼ばれる方もいるそうです。そもそもスキル持ち自体がめずらしいので会ったことはないですが」

「なるほど、なんか、奴隷狩りとか魔物とかちょっと怖い世界だと思ったけど、少し好奇心がくすぐられるわ」

「ふふふ、ユウトさんも男の子なんですね。たしかに大変な世界かもですけど、楽しいこともたくさんあると思いますよ。それでは職業の確認ついでに他のステータスも一通り調べてみますか?」

「え?全部調べられるの?」

「はい、これを使えば簡単です」


 そう言ってメイは銀色で顔が反射するほどに磨かれた金属のカードを見せてきた。そこには文字が記載されている。


メイ

クラスD-3

職業:「魔術師」

スキル:「嗅覚向上」


「これは『ステータスカード』と言って、本人の魔力を流すことでステータスが表示される『アークファクト』です。今は隠してますが、本来なら種族名も表示されます」

「アークファクト?」

「あ、はい、この世界でとれる自然の素材には特殊な力や性質を持つものが沢山あります。そういったこの世界の恩恵が宿る素材をもとに作る道具を『アークファクト』というのです。この『ステータスカード』もそうですね」

「なるほど、便利だけど不思議だね。でも、電子機器も仕組みはわからないけど便利に使ってたから、似たようなものか」

「でんしきき?というものはよくわかりませんが、おそらく似たようなものでしょう。アークファクトの中には仕組みのわからないものも多いです。はるか昔に作られたアークファクトの中にはいまだに素材すら解明されていないものまで存在しますし。それでは、こっちのカードに魔力を流してみてください」


 メイが何も書かれていないステータスカードを差し出してくる。


「これを使っていいの?」

はい、余っていたものなので是非とも使ってください。ステータスカードは身分証代わりに誰もが持っているものですし、これからのためにも必要なはずですよ」

「魔力?を流せばいいんだよね」

「あ、そういえば魔力操作を知らないんですもんね。えっと、体内に流れている力を絞り出す感じです。ん~、すみません、これは人によって感覚も違うようなのでしばらく練習が必要かもですね」


 メイはどう教えればいいのか口元に手を当てて考えているようだ。しかし、実は転生してから体内や大気中に不思議な力が流れているのを感じていた。体内に流れる血のように熱い何か、おそらくこれが保有している魔力なのだろう。

 絞り出す感じ、指先に流れを集中させる。すると…


「ええっ!もう魔力操作ができるのですか!?」


 メイが驚いている中、ステータスカードに文字が浮き上がってくる。

 

 おそらく職業(ジョブ)は『村人』とかだろう、前世では特別な才能があったわけでもない。それでも、人を救う職に憧れを抱いていたので、それに精通した職業(ジョブ)だと嬉しいかもしれない。違っても努力で変えられるらしいので、せっかくならメイと同じ『魔術師』になって魔術を使えるようになってみたい。回復魔術もきっとあるはずだ、人助けにはなるだろう。

 クラスは少し期待できるかもしれない、先ほどの奴隷狩りがどれくらいの強さかはわからないが、メイが危なかったということはそれなりに強いはずだ。暴力は嫌いだが、強くて損はないだろう。


ユウト

クラスC-3

種族:『カルマ族(白)』

職業:『魔王』

スキル:『₺∪₢₭』『閻魔の目』



「…………」


 記載されたステータスを見た瞬間、メイは驚きすぎて池の鯉のように口をパクパクさせている。当然だ、今ステータスの説明を受けたばかりでさえ色々とおかしいと思う。ツッコミどころが多すぎる。


「えっと…『魔王』ってよくある職業なの?」

「そんなわけないじゃないですか!」


 我に返ったメイが叫ぶ。


「で、ですよね…」


 前世では特別な才能があったわけでもない。それでも、人を救う職に憧れを抱いていた青年の職業(ジョブ)は、魔王だった。

読んでくださりありがとうございます。

今回は説明回でしたが、次回も少しだけ説明がありそうです。イベントを交えながら書いていこうと思っているので、飽きずに読んでいただけたら幸いです。

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