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第16話「本当にいるんだな、竜」





「また、女の子ですか…」


 あの後、目撃情報を辿るとすぐに2人が見つかった。

 メイとサラは『月光の妖女』と『陽光の聖女』呼ばれ、美少女2人組として有名になりつつある。

 既に2人のファンクラブが出来ているほどだ。なので、街の中にいればすぐに見つかる。


「ユウトさんのそういう所は、すき…素敵だと思います。ですけど、偶然助けた相手が可愛い女の子ばかりというのはどうなんですか?」

「いや、選んでるわけじゃなくて…」

「言い訳は聞きません」


 そして、合流して事情を話し、メイに褒められつつ叱られているというわけだ。

 時間も無いという事で説教は数分で済み、メイとサラも自己紹介を終え、支度を始めた。




「準備は終わりましたなのです」

「こっちも終わりました」

「よし、それじゃあ行くとしようか」


 アカリ達の話によると、村があるのはいつも修行に使っている森の近くらしい。

 サラの転移魔術ですぐに行ける距離だ。


 しばらくは戻れないと思うので、宿の主人にハラルドさんへの伝言を頼んでおいた。

 これで出発できる。




「そしたらサラ、頼むよ」

「はいなのです。我が命に応じ、彼の地へと道を繋げたまえ、『遠転移(ハイテレポート)』なのです!」


 サラの『遠転移(ハイテレポート)』で修行場まで無事転移した。


「凄い、アルツまで5日はかかる距離を一瞬で…」

「本当ですぅ、何回かに分けて転移するのかと思ってましたぁ…」


 アルツまでは直線距離で100キロなので、山を避けるように通る街道を進むともっと長い。

 転移する事は伝えていたが、一度で転移できるとは思っていなかったのだろう。

 サラの魔術に2人は唖然としている。


「案内してもらってもいい?」

「あ、はい!こちらです!」


 唖然としているアカリ達を急かし、2人の住む『シチノ村』への案内を頼んだ。

 一気に近づいたとは言え、ここからでも『シチノ村』までは歩いて数時間はかかる。その間にアカリとモモから『シチノ村』と謎の病について聞く事にした。


「シチノ村は、500年前の大戦で人界へ攻めてきた魔人種の生き残りが作った村なんです」


 この世界(アーク)は大きな大陸が2つあり、片方が人間族や亜人種が住む『人界』、片方が魔人種の住む『魔界』と言われている。

 500年前、『魔王』が魔人種を率いて『人界』を攻めた大戦があったらしく、その生き残りによって出来た村なのだそうだ。当初、7つの種族が集まって生まれたため、『シチノ村』という名前が付いたらしい。


「ユウトさんが『種のようなもの』があると言っていたので、流行り病の原因は村の近くに住み着いた『竜』の仕業かもしれません」


 最近、シチノ村の近くに凶暴な『竜』が住み着いたらしい。

 『竜』は戦闘力が相当高く、危険な魔物なのだそうだ。

 さすがはファンタジー世界。少し怖いが見てみたい気はする。


「その『竜』が植物を操る力を持っているのですぅ。なので、私のお腹にあった種もその『竜』の仕業かもしれないですぅ」


 『竜』は何度か村に攻めてきたそうなのだが、その度に村の戦士達が追い返したらしい。

 そして、竜が攻めてくるのを止めた途端に流行り病が起こり、村人が次々と倒れていったそうだ。


「タイミング的にその『竜』が原因である可能性は高そうですね」

「その辺も含めて村に着いたら調べてみるか」

「何から何まで、本当にありがとうございます。村には特有の美味しい果実がなっていますので、ここまで来てくださったお礼に食事だけでも堪能していってください」

「是非とも堪能するのです!」


 歩き疲れていたサラが急に元気になった。現金なやつだ。


 モモは病み上がりなので、無理をさせないように休憩を挟みつつ村への歩みを進めた。

 予定より少し遅れたが、夕日が沈む前には村へ着く事ができた。




「ようこそシチノ村へ。儂はこの村の村長のシノじゃ」


 村へ着くと同時に戦士達に囲まれたが、アカリが紹介してくれたお陰でなんとか矛を収めてくれた。

 そして、村長のシノさんと挨拶を交わしている。


 シノさんは笑顔の似合う可愛いお婆さんで良い人そうなのだが、先程からメイの事をチラチラと見ている。妖狐族だとバレたのだろうか?

 まぁ、何かされそうになったら全力でメイを守ればいい。そう考えながら挨拶を終えた。



「長旅で疲れてるところ悪いんじゃが、早速皆の治療をお願いできるかの」

「分かりました、患者のところまでお願いします」


 村長のシノさんに連れられ、一階建ての大きな家屋に連れていかれた。


「ここは村の会議に使われる一番大きな家屋なんじゃ、ここで皆を寝かせておる」

 

 シノさんとアカリさんに続いてメイ達と共に家屋へ入ると、先に居たモモが忙しなく働いていた。

 病み上がりなのに、頑張り屋さんだ。


 家屋の中には大きな広間があり、100人近い村人が倒れている。

 広間の四方と入り口には村の戦士達が立っており、こちらを警戒しているようだ。


「すみません。迫害された者達が集まってできた村だから、魔人種ではない余所者に少し厳しいんです」


 アカリが説明してくれた。別に気にしてないので問題ない。

 とにかく今は村人達を救う事だけに集中する。

 そう決意し、患者に触れようとしたのだが、赤髪の戦士に腕を掴まれた。


「ちょっとハドル、何をしているの!?」

「いくらシノ様とアカリ様が認められたとはいえ、我々はやはりこの者達を信用出来ません」

「えっと、あのー」

「こいつはハドル、この村の戦士長じゃ」


 何が起きたのかと困っていると、村長のシノさんが彼の事を教えてくれた。

 彼はこの村の戦士長らしい。つまり、この村で最も強い戦士なのだそうだ。


「少年よ、私と剣を交えろ。私を認めさせる事が出来ればこの村の戦士達も貴様の事を認めるだろう」

「ハドル!」

「申し訳ありませんが、こればかりはいくらアカリ様と言えども譲れません」


 つまり、戦って認めさせなければ治療はさせてくれないと言う事か。なんじゃそりゃ?

 そう思っていると、俺の手を掴むハドルの手をメイが掴んだ。


「ユウトさんから手を離してください、私があなたを認めさせます」


 え?ちょっ!


「自分の代わりに女に戦わせる卑怯者を認める訳にはいかん」

「ユウトさんは魔術師です。魔術師と剣を交えようとする剣士は卑怯ではないんですか?」


 意表を突かれて戸惑っている間にも話は進んでいく。


「いいだろう、貴様も中々の剣士のようだ。受けて立とう」


 話がまとまってしまった。










 先ほど戦士達のクラスを確認したが、平均『C-3』の強者揃いだった。

 さらに、その戦士達を率いるハドルのクラスは『A-3』であり、今の俺よりも強い。

 『C-1』のメイとはさらに次元が違うため、普通に戦えば到底勝ち目はない。

 なので、ハンデとしてハドルは木刀で戦い、メイは護を使って一撃でも入れれば勝利というルールになった。


「メイ、本当に大丈夫?」

「はい、絶対に勝って認めさせます」

「本当にすまんのう、ハドルは頑固なんじゃ」

「大丈夫です、絶対に勝って認めさせます」


 メイもさすがに緊張してるのか、さっきから似た感じの返答しかできていない。

 緊張をほぐすためにも、メイの体に少しだけ魔力を流す。


「ユウトさん?」

「格上と戦うんだから、これくらいは許されるでしょ」


 この技も修行中に編み出した。

 俺の体はとても丈夫で怪力なのだが、その理由は溢れ出ている魔力によって体が自然と強化されているからだと気付いた。

 そこで、他の人の体に魔力を纏わせてあげれば強化してあげられるのではと思い、この技が生まれたのだ。

 

 サラよりもメイの方が俺の魔力が馴染むらしく、体が強化される上に気持ちも落ち着くと言っていた。


「メイ、負けてもいいから、気楽にね」

「はい!」


 こうして、治療を受けてもらうための戦いが始まった。






「始め!」


 シノさんの合図と共に先手を取ったのはメイだ。

 あっという間に距離を詰め、凄まじい斬撃を浴びせる。しかし、木刀を傷付けないように(まもり)の腹を弾く事でハドルは全ての斬撃を受け流している。


「なるほど、筋はいい。だが、技に拙さが残るな」

「剣を始めたのは1週間ほど前ですので」

「ほう…」


 なんらかのアドバイスでもしたのだろうか。

 2人が何を話しているのかは分からないが、ハドルさんの目の色が明らかに変わった。

 そして、そこからはハドルさんも攻撃に移る。

 剣速はメイの方が速いが、ハドルさんの一振りは砂を巻き上げるほどの剣圧が込められている。

 どうやらパワータイプの剣士らしい。

 木刀であっても、当たりどころが悪ければ命に関わるだろう。


「ならばっ!」


 メイが鞘を左手に持ち、ハドルさんの受け流しを真似て木刀の腹を弾き始めた。

 左手の鞘による防御と右手の護による攻撃でハドルさんを押している。


「あの一瞬で私の技を盗むとはな。ならば、私も少し本気を出そう」


 ハドルさんが木刀を両手で握り直すとメイの有利が消え、また互角の剣戟へと戻ってしまった。

 だが、この戦いを見ている村人や戦士達から歓声が上がる。


「メイさんは、凄い剣士ですね。あのハドルに両手を使わせる人を初めて見ました」


 アカリさんが驚きながら解説してくれた。

 目の前の戦いと同じ条件で村の戦士達もハドルさんに稽古をつけてもらっているが、誰も両手を使わせた事が無いらしい。

 こちらからすれば、俺の魔力と護のスキルによる強化を受けているメイと木刀で互角というほうが凄いと思う。


「『幻術(ミラージュ)』!」


 均衡はすぐに崩れ、次第に押され始めたメイが魔術名を叫んだ。

 すると、煙がメイを覆い、4人のメイが現れた。普通にすげえ!


 メイは幻系の魔術を無詠唱で唱えられるため、咄嗟に分身を作り出したのだろう。


「無詠唱で魔術を使えるとは、驚いたぞ。だが、所詮は幻だ!」


 分身を見た瞬間、ハドルさんは地面に拳を突き刺し、すくい上げるようにして礫を飛ばした。

 メイは鞘と護で軽々と弾き落としたが、分身は礫がすり抜けるので本体がバレてしまった。


「次からは弾き落としているように見える幻(・・・・・・・)も見せるようにするといい」


 そう呟きながら、ハドルさんは礫を防いでいるメイの本体へ距離を詰め、木刀でメイを斬りつけた。

 するとーーー


「幻!?」


 ハドルさんの一撃はメイをすり抜け、空を斬った。


「それが弾き落としているように見える幻(・・・・・・・)です」


 その呟きと共に地面に擬態していたメイがハドルさんの背後を取った。しかし、ハドルさんも凄まじい反射神経で木刀を構える。


「まだです、『選断』!」


 『選断』はメイの持つ『護』のスキルの一つだ。

 切りたいものを選ぶ事ができるのだが、切りたく無いものを通過させる事もできる。

 ハドルさんがガードの為に構えた木刀を、メイの斬撃が通過する。


「そのような技が!」


 ハドルさんは驚きつつもガードの為に構えた木刀で攻撃に転じ、2人の剣がお互いの首に添えられる形で止まった。


「そこまで!この勝負、引き分けじゃ!」


 シノさんの掛け声と共に戦いは終わった。

 そして、溢れんばかりの歓声が響き渡った。






「いやー嬢ちゃんすげえな!」

「まさか旦那と引き分けるたぁ思わなかったぜ」

「お姉さまと呼ばせてください!」


 メイは、群がってきた村人や戦士達の質問と称賛攻めにあっている。

 そんな中、ハドルさんがこちらに歩いてきた。


「先程はすまなかった、ああしなければ戦士達の不安を取り除く事ができなかったのだ。アカリ様も、申し訳ありませんでした」

 

 周りの人達には聞こえない声量で謝ってきた。

 あのまま治療を行い、万が一にも失敗してしまった場合。村人や戦士達の不満が俺に向く可能性があった。

 なので、そうさせない為にハドルさんは勝負を挑み、治療の前に皆に認めさせる場を作ったらしい。


「本来であれば、ある程度立ち合った後に私が両手を使う事で認めたと知らしめる予定でした。しかし、彼女は本当に強いですね。久しぶりに本気を引き出されました。手心をと思っていた自分が恥ずかしいです」

 

 アカリへの説明で納得した。こちらの事を思っての行動だったらしい。頭の固そうな人かと思ったが、なかなか人情溢れる人物だったようだ。


 ま、気づいてたけどね。

 だからこそ、途中から呼び方もさん付けにしていたし。


「それでは、もう治療を行っても大丈夫ですか?」

「ああ、よろしく頼む!」


 ハドルさんは頭を下げながらお願いしてきた。

 メイも頑張ってくれた事だし、俺も全力で治療に励むとする。







「『構成(クラフト)』」


 ぎゅるるるとお腹を鳴らしながら、最後の患者が村人に連れられ、便所へ駆けて行った。


「まさか、本当に治るとは…」

「モモの治療を見てたけど、この人数を一度に治せるなんて…」


 アカリとハルドさんは治療を見て相当驚いているが、自分も少し驚いている。100人近い村人を治療したにも関わらず、倦怠感が全くない。

 改めて自分の魔力量の多さを実感した。


「皆も感謝しておった、本当に…ありがとう」


 俺の治療を目を見開きながら観察していたシノさんが、代表してお礼を言ってきた。

 シノさんは治療中、驚愕しながら何かを呟いていたので気分でも悪いのかと思ったが、気のせいだったようだ。


「外では宴会の準備が行われてますぅ、こちらですぅ」


 モモが家屋の外へ案内してくれた。外には大きな茣蓙(ござ)が敷かれ、大勢の村人が料理や酒を持ち寄って宴会の準備が行われている。


「うちの息子を助けてくれて、本当にありがとうございます」

「救世主様じゃ」

「ありがとうございます」


 外に出ると、村人達から次々とお礼を言われた。少しむず痒い。

 それと、形や本数は違うが、みんな頭に角のような物が生えている。全員『魔人種』なのだろう。


 茣蓙の上には色とりどりの果物が並べられた皿があったが、どれも見た事がない果物ばかりだ。

 宿では調理後の物しか出てこなかったので特に気にしていなかったが、興味本位で本当に大丈夫か調べてみる。するとーーー



『シチノの実』(寄生)

 実は甘く、種はしょっぱい。種ごと食べる事で絶妙な甘味と塩味を味わえる果実。

 微量だが、魔力の補給が可能。



 寄生!?

 まさか…



魔樹種(パラシード)

 魔樹の種。魔力を吸収し、成長する。



 原因見つけた!



「シノさん、この実は何ですか!?」

「お?これは『シチノの実』と言っての、ここに住む魔人種による魔力の影響で突然変異した果実じゃ。魔力を宿しておるから、魔力回復にも使えるんじゃ。美味しいぞ」


 確かに美味しそうだけど、今はやめておく。


 急いでシノさんに事情を話し、村にある食べ物を集めさせた。

 結果、村にあるほとんどの『シチノの実』が寄生されてる事がわかった。

 実の中にはBB弾くらいの小さな『魔樹種(パラシード)』が入っており、これを噛まずに食べてしまった者の消化器に入り込んで寄生していたらしい。


「まさか、シチノの実が原因だったなんて…」

「そうじゃな、どうりで患者を隔離しても倒れる者が現れるわけじゃ」

「おそらく、森に住み着いた竜の仕業でしょう。あの竜は植物を操り、魔力を吸う能力を保有してました」


 事態を知った後、アカリ達はすぐに村長宅で会議を始めた。会議には俺とメイ、サラも参加させてもらっている。


 予想通り『竜』が今回の流行り病の原因のようだ。


「こうなれば、あの竜の討伐しかありません」

「しかし…」


 ハルドさんが討伐案を出すが、アカリとシノさんは賛成ではないらしい。


「討伐してはいけないんですか?」


 俺の質問にアカリとハルドさんが答えてくれた。


「討伐は以前行おうとした事があるんです。しかし、ハルド率いる精鋭戦士達でもあの竜を狩る事は出来ませんでした」

「そんなに強いんですか?」

「ああ、私が直に戦って確認したが、脳も心臓も無く、ゴーレムのように核によって動き、竜の戦闘力に加えてトレントの再生能力を保有した個体で多くの戦士達が犠牲になった。見た目から『竜』と呼んでいるが、あんな魔物は見た事がない」


 アカリとハルドさんが真剣な表情で教えてくれた。聞く限りでは厄介そうだが、その核が弱点な筈だ。


「ハドル達も弱点であろう核を狙ったんじゃが、防御力は竜のように硬い上に瞬く間に再生してしまう。攻撃が核まで届かせる事すらできんのじゃ」

「それに、ゴーレムと似ているのなら核も相当硬い筈です」


 つまり、高い防御と再生を突破して硬い核を破壊しなければならない訳か。

 ハドルさんが敵わなかったという事はクラスも相当高そうだし、化け物すぎる。


「そういえばサラって龍人なんだろ?説得とかできないの?」


 俺が考えている間にも会議は進んでいるため、会議の邪魔にならないように小声で話す。


「竜なんかと一緒にしないで欲しいのです。龍は知能が高いのですけど、竜はただの魔物なのです。ドラゴンとワイバーンは別の生き物なのです!」


 サラに怒られてしまった。

 てっきり仲間なのかと思ってたが、違ったようだ。猿と人間を比べるような、そんな感じなのか?

 そもそもサラは人の形をしているし、そこらへんも含めてファンタジーすぎてよくわからん。



「大変です!竜がこちらへ向かってきています!」

「なんだと!?」


 村の警備をしていた戦士が駆け込んできた。竜が向かってきているらしい。


「まさか、種を取り除いた事に気付いたのでしょうか?」


 メイが予想を口にする。確かめる時間はないが、ありえる。

 『魔樹種(パラシード)』が竜の一部ならば、離れていても感覚が通じている可能性が高い。ファンタジー的に。


「戦闘態勢をとれ!戦える者は武器を持ち、戦えない者は森の奥へ逃すんだ!急げ!」


 ハルドさんが急いで指揮をとる。俺もみんなと一緒に外へ駆け出すと、遠くの空に竜が確認できた。


「本当にいるんだな、竜」


 不謹慎だが、僅かばかりの感動を覚えつつ『閻魔の目』で調べる。



キメラワイバーン・検体番号407

クラス:『S-3』

種 族:『キメラ』

スキル:『再生強化』『防御強化』



 スキルが2つもある上に『S-3』って…。しかも『検体番号』って…。突っ込みどころが多すぎるわ!


「ユウトさん、どうかしたんですか?」

「いや、あの竜を調べたんだけど、突っ込みどころが多すぎるというか…ひとまず『S-3』の化物だって事がわかった」

「『S-3』!?」


 メイへの説明を聞いたアカリが驚いている。アカリの声を聞いた戦士達にも緊張が走り、震えている者達までいる。


「皆、気を引きしめろ!たとえ奴がどんな化物であろうと、やる事は変わらん。村の皆を守る、ただそれだけだ!」

「「「「うおおおおおー!!」」」」


 ざわめく戦士達をハルドさんが一喝し、すぐに皆の闘志を戻した。流石は戦士長だ。


「ユウト殿、メイ殿、サラ殿、礼も出来てないうちにこんな事を頼むのは図々しいと分かっているのだが、竜の討伐に力を貸してはくれないだろうか?頼む…」

「もちろんです、ここまで来たら最後まで付き合います」

「私もユウトさんと同意見です」

「私もなのです!」


 頼まれずとも元々協力するつもりだったのだ。もちろん協力する。


「まずはあの竜を落とさなければいけませんね」


 アカリが空を見ながら呟く。

 竜は村から少し先の上空で旋回を続け、こちらの様子を伺っているようだ。


「そしたら俺が落とすよ」

「「え?」」


 アカリとハルドさんが驚きの声を上げる間に狙いを定めて魔術を発動する。


「『風球(エアボール)』!」


 竜の真横に竜巻を発生させ、鞭のようにしならせる。


「「「「!?」」」」


 竜巻を見た皆が目を見開いて驚いている。

 ふっふっふ、凄いだろう。

 どう見ても風の球ではないが、『風球(エアボール)』もめちゃくちゃ練習したのだ。

 作ろうと思えばハートマークの竜巻も作れる。

 そんな中、なぜかシノさんは柔らかな表情を浮かべている。竜巻が好きなのか?


 ひとまず、しならせた竜巻を竜へぶつけた。


「グガアアアアアアアアアアアア!!」


 地を揺らすほどの叫び声をあげながら、村の先にあるひらけた場所へと落ちていった。


「無詠唱であれほどの竜巻を…」

「す、凄い…」

「戦士達よ!行くぞ!」

「「「「は、はい!」」」」


 驚いている戦士達をハドルさんが急かし、竜の落下地点へと向かった。

 こうして竜との戦いが始まったのだ。











 竜との戦いが始まる2時間ほど前、ユウトが村の人達を治療している最中。その姿を見ていたシノが柔らかな声で、微かに呟いた。


「やはり貴方様でしたか…」


 その呟きは誰にも聞こえる事はなかった。

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