第15話「魔樹種(パラシール)」
「てやっ!なのです」
「おいおい、これじゃ商売上がったりだぜ」
アルツ誕生祭2日目、今日は3人で石像屋のゴーレム退治に来ている。
石像屋と言っても、鉱石をあしらったアクセサリーや石像型魔具などの商品が揃っているので、石像屋と言うより雑貨屋だ。
メイがここの店主と知り合っていたらしく、面白そうな出し物なので訪れたのだ。
頭の後ろにあるスイッチを押すと停止するゴーレムを倒すと、店の割引券が貰えるという出し物らしい。
「ふぅ、終わったのです」
「お疲れ」
「お疲れ様」
店主が頭を抱えている。
申し訳ないが、当然の結果だ。3人の中で一番弱いサラですら『D-1』の実力がある。
割引券3人分ゲットだ。
「2人とも、武器の調子はどうだった?」
「久しぶりに使ったのですが、ブルーアークネスは最高なのです!」
サラのグローブはブルーアークネスと言う名前らしく、相当いいグローブだ。
閻魔の目で見てみたいが、怒られそうなのでやめておく。
「護もとても良いです。まるで長年使っていたかのように馴染みます」
メイと護も調子が良いようだ。
ゴーレム相手では刀を抜く事すら無かったので、スキルはまだ試していないらしい。だが、使い方が感覚でわかると言っていた。
やはり、メイが主として認められているからなのだろうか?本当に不思議な刀だ。
そして、そんな凄い刀に認められるメイ自身も相当凄いのだが…メイ自身には刀に選ばれる心当たりが無いらしい。
少し謎は残るが、とにかく今は素直に喜ぼうという事になった。
店ではサラが食当たり用に『解毒の腕輪』を買い、俺とメイは店長一押しの『お揃いの指輪』を買った。
メイは赤、俺のは青の色違いの鉱石が嵌められた指輪であり、効果は秘密だとニヤニヤしながら店長が言っていた。
後で『閻魔の目』で調べてやる。
指輪を嵌めている時にサラが不機嫌になっていたが、メイが昼飯を奢ると言うと機嫌を取り戻した。
流石はメイ、サラの扱いにも大分慣れた様だ。
「そしたら2人で食事でもしてきなよ」
「何か用事があるんですか?」
「ハラルドさんも出店してるみたいだから、挨拶でもと思ってね。俺の作った雑貨をメインに売るって言ってたから、売れ行きも気になるし。売れてるなら補充してあげたいし」
「分かりました、そしたらサラが満足した後にハラルドさんのところへ行きますね」
一旦メイ達とは分かれ、ハラルドさんの出店へ向かう事にした。
◇
「おい、なんで魔族がこんなとこいやがるんだ?」
「別にいちゃ悪いなんて法律ないでしょ」
厳つい大男が絡んできた、大男の後ろには3人の男達が控えている。人通りの少ない路地裏のため、衛兵を呼ぶことも出来ない。
「その気持ち悪い角が目障りなんだよ、さっさとこの街から出てけや!」
「目立たない様にフードで隠してたのに、ナンパ目的で無理やり剥いできたのはそっちじゃない!それと、ちゃんと門番の審査を通って入って来たんだから、出て行く謂れはないわ!」
大男は理不尽な暴言を発してくるけど、引くわけにはいかない。後ろにはモモがいる。
4対2だけど、モモは戦いが得意ではないので実質4対1だ。
「チッ、穢らわしい魔族が!」
大男は腰に差していた剣を抜き、斬りかかってきた。
「くっ!」
モモを庇いながらでも何とか避けれるけど、防戦一方だ。
厳つい見た目の通り、大男は中々のクラスらしい。武器も無く、モモを庇いながら戦うのは分が悪い。
「アカリ様、ごめんなさいですぅ。私が足手纏いなばかりにぃ」
「大丈夫よ、こんな奴らに遅れは取らないわ」
モモを不安にさせないために強がったけど、正直厳しい。
「へっ、お前らも手伝え!顔と体は上玉だ、捕らえて奴隷商に売っぱらってやる!」
本当にまずい、このままではやられる。そう思った次の瞬間ーーー
「「あばばばばばっ」」
左右から背後に回り込もうとした男2人が、煙を上げて倒れた。
「大丈夫?」
その声に導かれるまま振り向くと、そこには雷を纏った黒髪の青年が立っていた。
◇
それにしても、何てテンプレな状況なんだ。
ハラルドさんの所へ人通りの少ない路地裏から行こうとしたら、女の子2人が4人の男達に絡まれていた。
途中からしか分からないが、言動から男達の方が悪い奴っぽい。なので、ひとまず2人を気絶させた。
「あの、貴方は?」
「通りすがりの旅人…かな。状況を教えてもらえます?」
纏った雷を解き、話しかけてきた赤髪の女の子に状況を聞く。
要約すると、大男が絡んできて勝手にキレているようだ。
「この子がそう言っているんだけど、それで間違いない?」
大男に向けて問う。
「ああ!?なにカッコつけてんだガキが!そいつらは魔族のくせに堂々とこの街歩いてやがったんだ、だから痛い目合わせようとしてただけだよ!」
仲間が2人倒されて動揺してるのか、手は出さず、ガンガン叫んで反論してくる。うるさすぎ。
「魔族は街を歩いちゃダメなんですか?」
「いいえ、そんな法律はありません。ただ、魔族が嫌われているだけです」
赤髪の女の子が俯きながらそう返事をし、隣にいる桃色髪の女の子と共にフードを被った。側頭部から生えている小さな2本の角を隠したのだろう。
「こんなに可愛いのに…差別とか酷いな」
「「えっ?」」
思わず本音が漏れた。2人とも顔を赤くしているが、気にしないでおこう。今は目の前の大男を倒す事に集中する。
「へっ、英雄気取りかよ。ラッキーパンチで2人倒せたからって調子乗んな!俺はランク『C-3』だぞ!」
そう叫び、後ろの男と2人で向かってくる。先程『閻魔の目』で確認したが、言っている事は本当だ。他の3人は平均『E-1』だった。
仕方ない、もう一度使うか。
「雷を…纏ってる…」
「綺麗ですぅ」
2人から感嘆の声が聞こえる。
そうだろうそうだろう、ここまで使いこなすのに苦労したのだ。
「奇妙な技をぼぼぼぼぼぼぼ!」
「あばばばばば」
雷を纏った状態で2人の剣を避け、腕を掴んであげた。
この技は『雷球』の応用で、空気中の塵や水分から電子を取り出し、纏っている。
地面を分解しなくて良い上に、攻撃と防御を同時に行える便利な技なのだ。
この技にはさらに上の段階があるのだが、今は置いておこう。
「これで一件落着だな」
赤髪の娘は「Cクラスの相手をこんなに簡単に…」と唖然としている。
「助けていただいてありがとうございます。私はアカリ、こっちは…」
「モモですぅ」
赤髪の美女はアカリ、立派な双房を持つ桃色髪の娘はモモと言うらしい。覚えやすくて助かる。
「俺はユウトです、よろしく」
軽く挨拶を済ませて立ち去ろうと思ったところ、モモさんの気分が気分が悪そうだ。
「モモ、あなた!」
「…すみません、なのですぅ…街に到着した時に、気づいたのですぅ…」
大分衰弱しているようだ。
「何があったの?」
「私達の住む村の流行病にかかってしまっている様です。その薬が無いかとこの街に訪れたのですが、どの薬師に聞いても分からない病の様で…」
なるほど、村を救うために薬を探しに来たけど、まだ見つかってない上に連れが感染していたという訳か。
「ちょっと調べさせてもらうよ」
そう言って『閻魔の目』を発動する。
モモ・シープス(寄生)
クラス:『E-1』
種 族:『羊角族』
職 業:『薬師』
名前の横に『寄生』と書かれている。こんなのは初めて見た。
『寄生』の文字に意識を集中させる。
『魔樹種』
魔樹の種。魔力を吸収し、成長する。
なるほど、どうやら『魔樹種』とかいうやつに寄生されて衰弱しているらしい。それにしても、『閻魔の目』は本当に便利だ。
そう思い、モモさんの身体を見るとお腹にビー玉程度の小さな黒いモヤが見える。触ろうとしても触れない。だが感覚的にわかる、ここに『魔樹種』があるという事だろう。
腸の中に寄生しているみたいだ。
「さて、どうしたもんか…」
多分、こいつを倒すか身体から出すかすれば治りそうだが…
「そんな、モモ!しっかりして!」
アカリさんの悲痛な叫びをこれ以上聞いていられない。成功するかは分からないが、1つだけ方法が思い浮かんだ。
「この近くに俺が泊まっている宿があるから、ひとまずそこに連れて行きましょう」
宿へ到着したが、モモさんは相当キツそうだ。アカリさんの持っていた『魔水』で魔力を補給する事で衰弱を抑えているが、対処療法でしかない。『魔水』が尽きれば終わりだ。
ベットに座らせたモモさんとアカネさんに話し掛ける。
「成功するかは分かりませんが、病を治せるかもしれません」
「本当ですか!?」
アカネさんが飛び上がる様に立ち上がった。
「ですが、本当に成功するかは分かりません。失敗した上に変な副作用が起きる可能性もあります」
正直に全て話す。
メイ達との修行中に魔術で色々な技を編み出したため、魔力操作に自信はある。だが、これから行う事は初めての試みだ。
死にはしないだろうが、それなりの覚悟はしてもらう必要がある。
「可能性があるなら…お願いしたいのですぅ…」
「モモに覚悟があるのなら、私からもお願いします。私にできる事なら、どんな望みでも叶えます!ですから、どうか、どうかモモを助けて下さい!」
「分かりました」
そう返してモモさんのお腹に手を当てる。
そして、僅かに魔力を流し、エコーの要領でお腹の中をスキャンする。
これも修行中に編み出した小技の1つだ。繊細な魔力操作が必要な上に手に触れたものしかスキャン出来ないので、広域探知とかは出来ない。
そしてーーー
「『構成』」
そう静かに呟き、手を離す。『閻魔の目』で確認すると、黒いモヤが消えている。ひとまず成功だ。
「終わりました」
「「え?」」
2人は何が起こったか分かっていない様子だ。
「あと、トイレは部屋を出て右手一番奥の扉です」
そう言うと同時にモモさんのお腹からギュルギュルとギャグ漫画の様な音が聞こえ、慌てて廊下へと駆け出していった。
「一体…何をされたんですか?」
「モモさんのお腹の中に魔力を吸う種?みたいなのが居たんで、それを分解しました。分解した種が悪い作用を及ぼすかもしれないので、ついでに下剤をお腹の中に作っておきました」
「あ、あの一瞬でそんな複雑な作業を!?しかも、無詠唱の『構成』一回だけでですか!?」
「はい」
そう短く返答すると、驚愕の表情で固まってしまった。
びっくり魔術にすっかり慣れたメイ達と一緒に居たので気づかなかったが、普通ではあり得ない技だったらしい。
次からはできるだけ自重する事にしよう。
(それにしても、カマってあんなに速効性がない気がするんだけど…これも魔術の補正力と関係あるのか?)
そんな疑問を抱きながら、モモさんを待つのだった。
「この度は助けて下さって、本当にありがとうございましたぁ。ですが、次からは、そのぉ…事前に教えていただけると幸いですぅ…」
「ごめんね、次からは気をつけるよ」
顔を真っ赤にしたモモから感謝とお叱りを受け、本当に一件落着となった。
魔力は減ったままだが体調に変化はないみたいだ。
そして、恩人なので敬語は使わないで欲しいと頼まれ、2人との会話はタメ口で行う事になった。
「それじゃあ俺は用があるんでこれで、宿の店主には言っとくから好きなだけ休んでていいよ」
そう言って部屋から出て行こうとした瞬間、2人に腕を掴まれ、全力で呼び止められた。
モモが掴む左腕が幸せに包まれる。
「モモを救っていただいたお礼も出来ていないうちに不躾だとは思いますが、どうか、村の皆も救ってはいただけないでしょうか!?」
「お願いしますぅ、お礼は何でも致しますので、どうか、どうかぁ…」
そう言えば村も大変だと言っていた。
ハラルドさんへのあいさつは後にしよう、人の命がかかっているならこちらの方が優先だ。
「大丈夫、そんなに頼まなくても見捨てたりはしないよ。仲間が2人いるから、合流したらその村へ行くよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ありがとうございますぅ!」
美女2人から感謝されるのは中々良いものだ。
あれ?何か悪い予感がするけど、気のせいだろうか?
ひとまずメイとサラを探しに行くとする。
酸化マグネシウムはあんなに強力ではありません。むしろ、比較的穏やかな便秘薬です。
なので、処方された方は怖がらないでくださいね。
ややこしい使い方をして申し訳ないです。