表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第13話「ブラックホールか?」




「よし!今日の分はこれくらいでいいかな」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れなのです!」


 本日分の砂糖と塩作りが終わり、メイとサラはそれを瓶に詰めている。



 何故こんな事をしてるかというと。


 トロダケ討伐の翌朝、サラが金がないと泣きついてきたのだ。

 朝まで金に糸目をつけずに色々な料理を食べ続け、金貨1枚丸々使い果たしたらしい。

 仕方なくメイに紹介して同じ宿屋に泊め、しばらく行動を共にすることにしたのだ。

 

 紹介した直後メイにはジト目で睨まれたが、その話は置いておこう。


 何故か気が合うようで、サラとは直ぐに仲良くなったみたいだし。




「それにしても、ユウトさんの『構成(クラフト)』で作った物は消えないなんて、未だに信じられないです」

「俺もだよ、『雷球(サンダーボール)』や『風球(エアボール)』もそうだけど、なんでおかしな事になるんだろう?」

「でもそのお陰で助かってるので、私はありがたく思いますけどね。それではハラルドさんの所へ届けに行ってきます」

「私も行くのです」



 俺の『構成(クラフト)』で作った物は何日経っても崩れない事が判明した。

 そこで、これは売れるのではないかとハラルドさんを見つけ出し、崩れない事を数日間一緒に確認して販売へと至ったのだ。


 もともとハラルドさんは、支店を出す準備のためにアルツへ来ていたらしく、「良い目玉商品が出来ました!」と喜んで話を受けてくれた。


 アルツでは、1kgあたりの塩の売値は銀貨5枚、砂糖は銀貨10枚もする。地域によって変わるらしいが、商業都市であるアルツの価格は全国的な基準らしい。

 どれも不純物が混ざった質の悪い物なのにだ。


 だからこそ、真っ白で質のいい砂糖と塩は上流貴族や王家しか手に入れられない貴重品なので、とんでもなく高い。



「ふっふっふ、これでまたお金ががっぽり手に入るのです!」

「全部メイに渡せよ、お前の金銭感覚は信用ならん」

「んなっ、なのです!」



 真っ白な砂糖と塩は1kgあたり金貨1枚以上で売られるらしく、ハラルドさんとの取引では砂糖と塩合わせて2kgほどを金貨1枚で買い取ってもらっている。

 頼めばもっと貰えそうだが、ハラルドさんにはここ数日迷惑をかけた上に材料がほぼ無料で手に入る材木なので、この価格で取引してもらったのだ。

 

 それでも毎日金貨1枚…10万円ほどの収入になる、なんの不満も無い。



「少しだけでも、遊ぶ金が欲しいのです」

「犯罪者の言い訳みたいな事言ってんじゃねぇよ。買い物はメイの許可をもらってからだ」


 このバカにはやむを得ない場合以外では金を持たせないようにしている。

 砂糖と塩のお陰で金欠も解消できたため充分な資金はあるが、こういうバカは甘やかすとろくな事にならない。なので、砂糖と塩作りを手伝わせつつメイと共に教育しているのだ。


 こうして結果的に3人パーティとなり、一番しっかりしているメイがお金を管理してくれている。

 


「サラ、早くハラルドさんの所に届けますよ。早く届ければお茶菓子を出してくれるかもしれません」

「お茶菓子なのです?!行くのです、早く届けるのです!」


 メイはすっかりサラの扱いに慣れている。

 ひとまず今日の仕事はこれにて終了だ。









 場所は変わり、街の外にある人気の無い少し開けた場所に3人で来ている。

 サラの『遠転移(ハイテレポート)』と言う無属性魔術でアルツから飛んできたのだ。


「周囲に人の匂いはしないです、ここなら大丈夫そうですね」

「いいとこっぽいな、ここはアルツからどれ位離れてるんだ?」

「ん〜。少しだけ魔力が減ったので、多分100kmくらいなのです」

「「100キロ!?」」


 さりげなくとんでもない事を言っている。


 個人差はあるが、『魔術師』の上位職である『魔導師』でも数キロ先に飛ぶだけで半分近い魔力を失うそうだ。だが、サラは全然平気らしい。


「お前、本当に『拳闘士』なんだよな?」

「ふっふっふっ、これが才能というものなのです。ただ、長距離は得意なのですが、近距離は苦手なのです」


 普通は逆だと思うのだが、調子に乗らせると面倒なのでこれ以上突っ込むのは止めておく。

 


「気を取り直して、修行開始だな」


 魔物や盗賊など、この世界には危険が多い。だからこそ、自衛のためにも力は必要という事で修行を定期的に行う事になったのだ。




 修行するに当たって、ここ数日でわかった事がある。それは、俺の魔力量は人よりも遥かに多いという事だ。


 通常は、発動した魔術の影響力に消費魔力は比例するので竜巻や電撃は相当な魔力が必要らしいのだが、ジーク達を救った時に使用後の倦怠感はなかった。


(緊張が解けて気絶はしたが…)


 なので、限界まで『構成(クラフト)』を使い続けようと挑戦したのだが、結局日が暮れるまで倦怠感が現れることはなかった。



 その時に作った人形や雑貨は、ハラルドさんの店で密かな人気を得ているらしい。



 だからこそ今日の修行では、自分の魔力量を計ることが第一目標だったのだがーーー


「す、凄まじいのです…」

「地形が変わっているんですけど…」


 2人が目を見開き、絶句している。

 1時間以上竜巻と電撃を連発しているが、一向に疲れが来ない。それどころか、少し開けた場所が大分開けた場所になってしまった。


「もう止めとこう」


 周囲に生き物は居ないみたいだが、自然破壊のしすぎで良心が痛む。



「ていうか、メイとサラは修行しなくて良いのか?」

「素振りは何処でもできるので、今日はユウトさんの魔術を見ていたいです」


 メイは数日前に『戦士』になると宣言し、その直後に職業(ジョブ)が『戦士』になった。


 通常、職業(ジョブ)の変更には長い期間の鍛錬が必要なので、メイ自身も「あり得ない…」と呟いていた。だが異常はそれだけに止まらず、半日素振りをしただけで『戦士』の上位職業(ジョブ)である『剣士』に至ったのだ。わずか数日で圧倒的な剣術の才能を見せつけている。


 しかし本人は、「『魔道士』には10年以上も鍛錬してなれなかったのに…」と絶望していた。

 

 ちなみに、メイはクラスもメキメキと上がり、今ではC-3になっている。



「私は近距離の空間魔術を練習するのです」


 サラは家出の為に遠距離移動用の空間魔術だけを練習してたので、近距離の移動が得意ではない。

 空間魔術による戦いとは、敵の背後を取ったり相手の攻撃の向きを変えたりするのが定跡らしいので、長距離移動よりも近距離の正確な移動技術の方が重要だ。



「だったら修行すれば?」

「さっきからしてるのですよ」

「え?」

「ユウトさんの竜巻の一部とかを飛ばしていたのです」


 前に戦った空間魔術使いの女、ティアと似たようなことをしていたらしい。


「ただ、ユウトさんの魔術は魔力が濃いのでほんの一部しか飛ばせなかったのです」


 ティアと同じ事を言っている、やはり俺の魔術は人よりも魔力が濃い?らしい。



「そういえば思ったんだが、空間魔術で直接相手を真っ二つとかは出来ないのか?」

「それは無理なのです。空間魔術は、範囲指定と場所指定という二つの工程があるのです」


 サラが言うには、範囲指定で大きさを決め、場所指定で飛ばす、と言う二つの工程に分かれているらしい。

 範囲指定に納まらない物は切り取る形で無理矢理飛ばせると言う。しかし、その切り取る工程には大量の魔力が必要とのことだ。


「つまり、人や物は切り取る工程で莫大な魔力が必要なので、とんでもない魔力量がないと無理なのです。魔術自体はそれに比べると楽に切り取れるのですが、込められた魔力量に比例した魔力が必要なのです」

「なるほど」


 逆にいえば、とんでもない魔力量があれば出来るという事でもある。まぁ、空間魔術の才能があるサラが出来ないなら普通は無理なのだろう。

 空間魔術は便利だが、思った以上に危険な魔術のようだ。


「範囲指定にも結構な魔力が必要な上に精密な魔力操作も必要なので、空間魔術はどれも中級魔術に指定されているのです」

「これ上級魔術だったのか」


 上級の上である超級は伝説だ。なので、初級、下級、中級、上級の中で最上位に位置する魔術である。

 まさかサラが使えるとは思わなかった。


「ふっふっふっ、これも才能に溺れない鍛錬の賜物なのです」


 やばい、調子に乗らせてしまった。


「俺も練習してみるかな」

「ユウトさんならすぐ出来そうですね」

「なっ、私のアイデンティティが無くなるのです!」


 サラを調子に乗らせると面倒だ、それにテレポートは本当に便利なので覚えたい。


 空間は重力で曲がるとか聞いたことがあるが、そこからテレポートに繋げる原理がよく分からない。でもまぁ、ひとまずやってみるとする。


「確か詠唱は、我が命に応じ、彼の地へと道を繋げたまえ、『遠転移(ハイテレポート)』」


 範囲指定は手の平の小石、場所指定は数メートル先。

 手のひらに魔力とは違う、見えない力の流れを感じる。それを一点に集める様に、小石を包み込む様にーーー


「小石が消えたのです!」

「成功したんですか?」

「いや…」


 成功ではない、目を凝らさないと見えないほど小さな黒い球体が手の平に出現している。そして、その球体が周囲の空気を吸い込んでいる感覚がある。

 もしかしてこれ、ブラックホールか?


「嫌な予感がするのです…」

「さっきから危険な香りがしてます」


 2人に同感だ。前世よりも鋭敏な身体の感覚が、全力で警告を発している。

 今は針先程の大きさだが、魔力や周囲の空気をどんどん吸って徐々に膨れ上がっているようだ。


「2人とも離れて!」


 重力を前方に発生させるイメージで球を射出する。成功するか分からなかったが、上手くいった。そして、数百メートルは離れたと感じたところで魔力の伝達を止める。するとーーー


「「なっ!!??」」

「うおおっ?!」


 とてつもない爆風が吹き荒れ、半径20メートル程のクレーターが出来上がってしまった。


「「……」」


 2人は無言のまま、驚愕の表情で固まっている。


「ははは…」


 俺の乾いた笑いだけが響き渡り、ステータスカードには『B-1』の文字が浮かび上がった。




 この後、こっ酷く叱られた。


2017/4/21

 魔術の段階設定を初級、下級、中級、上級、超級の五段階に変更しました。

 

 これからも設定を一部変える可能性があります。ご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ