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第11話「友達ですから」




「メイよ、あの店は何なのだ?」

「私もよく知りませんが…」

「では行ってみるとしよう、ついて参れ!」



「……どうしてこんな事に」





 時間はユウトが宿屋を出たところまで遡る。





「さてと、もしもの時のために杖を売れるところを探すとしますか」


 宿でこのまま待機していても無駄なので、杖を装備して街へと繰り出す事にしました。






「思った以上に広いけど…楽しいです」


 迷いそうになるくらいの街並みに少し困惑しながらも、初めて訪れた街に興奮を隠せないでいました。


「ユウトさんと回れたらもっと良かったんですけど…」


 出て行くユウトさんをもっと強く引きとめていれば、あるいは自分も付いていけばと少し後悔しました。ですが、過ぎたことは仕方ない、後で一緒に回る機会もあるでしょう。


 そう思いながらお昼を摘まみつつ何気なく歩き回っていると、僅かに響く戦闘音に気付きました。


(微かにですが、使い込まれた武器の匂いもします。誰かが争っているのでしょうか)


 状況を確かめるために路地裏を進み建物の陰から覗き込むと、私と同じくらいの背丈の少年?1人と冒険者らしき男女2人が対峙しています。


(なんでしょう、この状況は)


 場面だけ見れば青年を虐める冒険者の様にも見えますが、その認識は少し違います。


 観察すると、青年は何か叫びながらデタラメに剣を振り回しており、冒険者は仕方なく相手をしているといった様子なのです。

 冒険者の強さはDランクの上位といった所でしょうが、少年はどう見てもEランク…この状況にはなんらかの事情があるのでしょう。


(一体どうすれば…)


 少し悩みつつも、ユウトさんなら間違いなく助けに入るだろうと考え、仕方なく行動を開始したのでした。







「くそっ、何故当たらない!」


 この蛮族共に余の強さを見せつけてやろうと思ったのだが、思いの外手練れだったようだ。

 しかし、ここからが本番だ。剣術はあまり上達していないが、先生から体力は一流だと言われていた。

 奴らも相当疲れが溜まってきた頃だろう、ここで華麗な逆転劇をーーー


「あの〜、大丈夫ですか?」

「ん?誰だ嬢ちゃん」

「む、貴様何者だ?!」


 思わず叫んでしまったが、奴らの援軍か?!しかし奴らも知らない様子だ。

 だが、本当に援軍だとすると少し厄介だ。さて、どうするかーーー


「ここは任せていいのか?」

「大丈夫ですよ。勘違いなのでしょうから、第三者の私のほうが話しやすいでしょうし」

「ありがとう。今度会ったら何か奢らせて、私達は冒険者ギルドによく居るから」

「はい、その時は宜しくお願いします」


 ん?何かを話しているようだが、仲間という雰囲気ではない…のか?


「おいボウズ、この嬢ちゃんの言う事ちゃんと聞くんだぞ!」

「私達は用事があるから、それじゃあね」

「む?貴様ら、逃げるのか!まてっ!」

「あの〜…」

「む、貴様は誰だ、奴らの仲間か?」


 よくよく見るとただの少女ではないか、こいつが1人で余と戦うというのか?

 それでは弱い者いじめになってしまう。それだけはだめだ!


「貴様では未熟だ、今すぐ引くならば……」

「ちょっとお話をしましょう」

「…お話し?」







 

「なるほど、余の勘違いであったわけか」

「はい、冒険者ギルドのクエストだったみたいですね」


 事の顛末はただの勘違いだったようです。


 今去って行った2人の冒険者は冒険者ギルドで仲間を待っていたところ、迷子の風船ネコを捜すという小遣い稼ぎのクエストが貼り出されたので暇潰しに受注。

 女性冒険者の魔術で簡単に見つけられたのですが、この少年が邪魔をしてきたとの事でした。


「風船ネコを無理やり捕らえようとする蛮族かと思ったが…彼等には悪い事をしたようだな」

「まぁ、気にしていなかったようですから大丈夫ですよ。風船ネコも魔術で直ぐ見つけられると思いますし」

「魔術…か。すまないな、彼等に会った時悪かったと伝えておいてくれ」

「わかりました、伝えておきます」


 良かったです、これでひとまず一件落着。

 もう昼過ぎですが、今からお店を探しても日が暮れるまでには見つかる事でしょう。


「彼等にはいずれ詫びの品でも贈るとして、其方は何か望みはあるか?詫びとして叶えてやるぞ」

「え?」




 そして冒頭に戻る。




「どうしてこんな事に…」


 お金を貰うのも申し訳ないので、一緒に武器屋を探して欲しいと頼んだのですが、あれから3時間以上何の進展もありません。


「メイよ、この装飾品はどうだ?似合うか?」

「はぁ、まぁ、似合ってますよ」

「そうか!よし店主よ、これとこれをくれ!」

「かしこまりました〜」


 お互いに自己紹介を終えて、武器屋探しを始めてからずっとこの調子です。

 彼の名前はフィーリスと言って私と同じ15歳らしいです。様子を見る限り貴族か何かなのでしょう、世間の事をよく知らないみたいなので。

 

「おお!あの店は何なのだ?!」

「うっ、私も分からないです…」

「では行ってみようぞ!」


 まぁ、私も人の事を言えた義理ではないのですが…。



「メイよ、腕試しでゴーレムに勝てば何か貰えるらしいぞ。挑戦してみようではないか!」


 この店は石像屋みたいですね。

 どうやらアルツではお祭りが近いみたいで、その時の出し物としてゴーレム退治をするらしく、その実験に付き合ってくれる人を募集してるようでした。


「こいつぁ俺が趣味で作った自慢のゴーレムだ、頭の後ろのスイッチを押せば止まるから、押せばあんたらの勝利ってわけだ。まぁ、気楽に頼むわ」

「うむ、把握した。それでは挑むとしよう」

「勝手に…まぁ良いですけど」


 ゴーレムとは様々な魔術陣を各部に埋め込んだ人形で、注いだ魔力によって動くらしいです。


 見たところ岩石と鉄を組み合わせて作られており、大きさは2メートルほどで、四角い岩のブロックを組み合わせたような形をしています。右腕には刃の潰された大剣を装備していますね。

 耐久性と攻撃力は凄そうですが、スイッチを押すだけなら何とかなりそうです。


「余が斬り伏せる、その隙にメイはスイッチを押してくれ」

「はぁ、気をつけて下さいね」


 場所は石像屋の大きな倉庫の中です。入口が大きいので通行人からは丸見えですね。

 そうして、ゴーレムとの戦いは始まりました。


「てやぁ!」


 フィーリスの斬撃はことごとく空を切り、ゴーレムの遅い斬撃に軽々と吹っ飛ばされています。


「まだまだぁ!」


 それでもフィーリスは防御と体力が優秀なようで、かれこれ10分以上も飛ばされ続けているのですが、臆さず果敢に挑んでますね。

 

「はぁはぁ、中々やるではないか」


 まぁ、見た感じゴーレムの強さはEランク上位と言ったところでしょう。 

 互角ということは、やっぱりフィーリスもEランクなのでしょうね。


「くはっ、まだ…まだぁ…」


 そんな事を考えていると、そろそろフィーリスが限界そうですね。本人も充分楽しんだようですから、そろそろ終わりにしましょう。


「よいしょっと」


 大振りの横薙ぎを杖で受け流し、そのまま肩に着地してスイッチを押します。


「これで終わりです」


 ゴーレムは見事に停止し、いつの間にか倉庫の入り口に集まっていたギャラリーから割れんばかりの歓声が上がりました。


「うおー!いいぞ嬢ちゃん!」

「坊やもカッコよかったわよー!」


「店主の狙いは最初からこれだったんですね」

「ガッハッハ!嬢ちゃんには負けたぜ、長引かせてくれた分は報酬に上乗せするから勘弁してくれや」


 ゴーレムの起動実験は本当なのでしょうが、わざと倉庫の入り口を開けっぱなしにして通行人に見せつけたのは宣伝も兼ねての事だったのでしょう。

 この盛況ぶりなら祭りの当日は相当盛り上がるでしょうね。


「フィーリス君、大丈夫ですか?」

「ああ、上手く隙を作れなくてすまなかった」

「いえ、見事な戦いでしたよ。ギャラリーの皆さんも魅入っていました」


 強くはないですが、これだけのギャラリーを集めたのはフィーリスの成果ですから、そういう意味では本当に見事な戦いでした。


「ありがとう。だがやはり…いや、何でもない」

「?」


 

 その後はギャラリーが解散するまでしばらく対応し、店主から報酬を貰いました。

 実験に付き合ってくれた報酬としてそれぞれに銀貨5枚、そして、盛り上げてくれたボーナスとしてお揃いの金属製ブレスレットを頂きました。

 ブレスレットには魔術陣が彫られています。


「そいつぁ防御の魔法陣がついたお守りだ。ブレスレット本体を守る程度の防御魔法しか展開出来ねぇから、ちょっと頑丈なブレスレットだと思ってくれ」


 との事らしいです。ちなみに、魔術陣を発動する魔力は付けている人物から漏れた魔力を使用しているので、魔力が減る事はないとの事でした。


 出来ればユウトさんとお揃いがよかったのですが、今回は我慢しましょう。


「色々とありがとうございました」

「此方こそだぜ、祭りの時は是非とも寄ってくれ!」


 石像屋の主人に武器屋の場所も聞き、今日の目的もちゃんと達成できました。

 臨時収入も入ったのであと1泊は大丈夫そうですし、今日はこれでお開きと思ったのですが…


「フィーリス君どうしたんですか?さっきから元気がないですけど」

「メイ…きみは、魔術師なのか?」


 今日、フィーリス君には色々な質問を受けましたが、この質問だけは、直ぐに答えを出す事が出来ませんでした。









 歴史上勇者は9人存在し、それぞれ使用武器や戦闘方法も異なっている。

 武器が異なると言っても、勇者だけが使える聖剣は使用者に最も適した形へと変化するため、正確には聖剣の形が異なっていると言うべきだろう。


 その中でも、世界中の人々が歴代最強だと謳うのが現勇者『ジーク・アークユート』、余の剣術の師匠だ。

 しかし、あまり知られていない事実だが、本人は歴代最強の称号を否定している。

 理由は分からないが師匠は2代目勇者の強さを知っており、「僕が10人居ても彼女には敵わないだろうね」と常々言っていた。


 師匠の話では、2代目の勇者は『剣王』という未だ師匠すらも到達出来ていない戦士職業(ジョブ)の頂点だったらしく、それに憧れた先生の心に反応し、聖剣も剣の形になったそうだ。


 歴代最強と謳われる勇者が憧れる、最強の勇者の話。そんな話を聞いて憧れないわけがない。



「余はこうして剣術を習う事に決めたのだ。だが、一流の剣士や勇者からいくら習っても先程のゴーレムすら倒せない始末。余には剣術の才能が全くないのだ」


 勇者の話も余の思いも、全て包み隠さずメイに話した。

 何故かは分からないが、彼女といると安心する。

 立場上弱さを見せてはいけないのに、全て話してしまった。


「私は、フィーリス君ほどちゃんとした思い出は無いですが、漠然と魔術師に憧れて魔術師職業(ジョブ)になりました。それでも、なりたいという思いの強さは負けてないと思います」

「ああ、思いを秘める者として、其方の憧れも普通では無いということは分かる」


 そう、同じ思い、悩みを抱える者として。


「でも、フィーリス君とは逆に私には魔術師の才能が無いみたいです」

「そうだろうな、先程の身のこなし、受け流しの技術。一流の剣術を山ほど見てきたが、其方からは剣士の才能を感じる」

「やっぱり、そうなんですね。この前も凄い剣士の方に同じ事を言われました。フィーリス君の頑丈さは魔力量に精通しているのでしょうね、ブレスレットの魔法陣の輝きが私のよりも強いです」

「ああ、余も凄い魔術師に同じ事を言われた。相当な魔術の才能があるとな」


 やはりメイも似た様な悩みを抱えていたのだろう、それを感じて余の悩みも話してしまったのかも知れない。

 


「私も悩んでいました、このままの職業(ジョブ)で良いのかと、才能を無駄にして良いのかと。でも、この前決断したんです、戦士職業(ジョブ)に替えようと」

「良いのか?魔術師になりたいのではなかったのか?」

「良いんです、憧れよりも大切なものを見つけたので」

「憧れよりも大切なもの?」


 そう聞くと、メイは答えてくれた。


 メイには、大切な人、守りたい人が最近できたらしい。

 そして、その人を失うかも知れない程の出来事がこの前起こったそうだ。


「結局大丈夫だったのですが、もしもあの人を失っていたらと思ったら、意外と簡単に決断できました」


 大切な人、守りたい人…か。


「その事件のお陰で憧れよりも大切な人だと自覚できたんです。だから、私は才能を生かしてあの人を守れる様になろうと思いました」


 凄い奴だ、最初会った時にガキだと思ってしまった余の視野の狭さを反省せねばなるまい。


「メイよ、其方は本当に凄い奴だ…。よし!余は魔術師になるぞ!」

「ええ?!それこそ良いんですか?勇者に憧れてたんじゃ…」

「構わん、余にも大切な人や守りたい者は居る、そ奴らは余の憧れよりも大切な者たちだ。それに、魔術師も悪くない。なにせ、其方が憧れるほどの職業(ジョブ)なのだからな!」

「…ふふふっ、そうですね。私も戦士は悪くないです。なにせフィーリス君が憧れるほどの職業(ジョブ)ですから」


 そう、父や母、兄弟達、ハイド王国の国民達。皆、余の憧れよりも大切な者達だ。そしてーーー


「メイ、其方もだ」

「はい?」


 メイが余の国の国民かは知らぬが、関係ない。この者も余の大切な人、守りたい人だ。


「メイよ、其方は余と同い年だったな」

「はい、そうですけど…」

「なら敬語はやめよ、今から余と其方は友達だ!」

「友…達?」

「うむ…嫌か?」


 自ら言って恥ずかしくなってきたぞ。そう言えば、生まれてから友など一度も出来たことがない。立場の所為もあるが、友とはどう作るものなのだ?命令は多分ダメだ、だが、いつもの癖で命令口調で言ってしまった。しまった!余は何と愚かな!ダメだ、混乱してきた。メイは何を考えているのだ?この時間は何なのだ?


「…ふふっ、何を震えているんですかフィーリス君。一緒に買い物して、一緒に戦ったんだから、多分私達はもう友達ですよ」

「友…達、本当に友達なのだな!?」

「はい!まぁ、私も友達がいた事ないのでよく分からないですけどね。あの人は、恩人と言うか相棒というか、友達以上になりたい関係というか…ごにょごにょ…」


 最後は何を言ってるかよく聞き取れなかったが…。

 今日、余は初めての友達ができた。


「そ、それでは、よろしくなメイ!」

「うん!よろしくねフィーリス」



 上級貴族や他国の王、あらゆる者達と握手を交わしてきたが、この握手はそのどれをも上回る感動を感じた。












 もう日も暮れる。名残惜しいがメイとは別れ、アルツの門へ向かって歩いていた。

 きっとまた会える事だろう、なにせーーー



「フィーリス様、護衛の騎士達が大慌てでしたよ」

「む?ララか、迎えに来てくれたのだな」

「もう大変でしたよ。昨日やっと王都に戻って溜まってたギルドの事務処理に勤しんでたら、フィーリス様が行方不明になるんですから」

「それはすまなかったな、アルツを少し見て回りたかったのだ。護衛の者達にも後で謝らねば」

「あら?今日は随分と物分りが良いんですね」

「大切な者や守りたい者が分かったからな」

「?」

「ララよ」

「何ですか?」

「余に魔術を教えてくれ」









 剣術の才能があると言うのは勇者一行のガイルさんに言われた言葉でした。フィーリスが一流の剣術を見てきたのは本当だったみたいですね。

 師匠がジークさんだとも言っていましたし、正体は聞きそびれましたが相当地位の高い貴族とかなのでしょう。


 それよりも、もう1つ聞きそびれてしまいましたがーーー


「どうして男の振りをしていたのでしょうか?」


 本人が隠そうとしていたので合わせてましたが、次に会った時に聞くとしましょう。

 きっとまた会える事でしょう、友達ですからね。

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