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プロローグ「裸の魔王様」

 

「きゃー!」


 通行人の悲鳴が響く中、横断歩道を渡る少女へ信号無視のトラックが迫っていく。トラックの運転手は何かに気を取られ、気づいていようだ。

 少女は驚いて動けないでいる。


「あぶないっ!」


 考えるよりも先に身体は動いていた。

 少女を道の端に突き飛ばし、自分も避けようと踏み出す。しかし、一歩遅かった。


 激しい衝撃とともに鈍い痛みが身体に響く、骨がきしみ、何かがちぎれる音がする。

 死が迫り、世界が遅くなっていく。


「ああ、もう少しだけ、長生きしたかったな・・・」


 そのつぶやきはトラックの轟音にかき消され、意識は闇へと落ちていった。













「ふむふむ、それなりに善行を積む人生を送ってきたようじゃが、学生時代にいじめを行っていた分の清算がまだ終わっておらんな、しばらく地獄で反省して来い!!」

「ヒィッ!」

「次!!」


 気が付くと大きな柱のそびえたつ巨大な空間に立っていた。床には赤い絨毯が敷かれており、その上に長い行列ができている。いつの間にか自分も並ばされているのだが、周りの人たちも状況がよく分かっていないようだ。よく見ると耳がとがっっている人や猫耳が付いている人も並んでいる。コスプレ・・・なのか?


「貴様は相当な悪事を働いてきたようじゃな、、多くの人々に憎まれておる。地獄の業火で存分に苦しむといい、次!!」


 絨毯の先には法廷のような設備があり、立派な髭を生やした大男が次々と列に並ぶ人を裁いている。裁かれた人は角の生えた屈強な男たちにどこかへ連れていかれているようだ。


(もしかして、あれって、閻魔大王?ここって天国か地獄かを決めるっていうあの世の裁判所とかなのか!?状況から考えてその可能性は高いけど、いや、夢の可能性のほうがはるかに高いか・・・)

 

 状況が呑み込めない中、考えを巡らせているているうちに順番がやってきてしまった。


「なるほど、16歳か、まだ若いの」

「え?あ、はい」


 目の前の閻魔大王らしき大男はそうつぶやいた。近くで見るとさらに大きい、椅子に腰かけているにもかかわらず見上げなければ目を合わせることができないほどだ、立ち上がれば5メートルは確実に超えるだろう。

 

「最近はどこの世界にも碌なやつがいないと思っておったが、この若さにしてこれほどの善行を積んでいるとは、さすがじゃ」

「・・・はい」

 

 確信はまだ無いが、目の前の大男はひとまず閻魔大王ということにしておこう。閻魔大王は何か手帳のようなものを読みながら話しかけてくる。おそらく、生前の行為などが書かれている閻魔帳というものなのだろう。そして、どうやら褒められているみたいだ。あまり自覚はないが、よく人に感謝をされていた気はする。それもこれも、医療従事者だった両親の教育によって、困っている人がいれば自然と身体が動いてしまうほどに教えを叩き込まれたせいだろう。トラブル体質も相まって、毎日何かしらの事件に巻き込まれては誰かを助けていたように思う。


「多くの者たちがそなたの死を悲しんでおるわ」

「…」


(悲しんでくれている人たちには、お別れくらい言いたかったな)

 少しだけ複雑な気持ちがこみ上げてくる。ここが本当にあの世だとすれば、その教えのせいで死んでしまったようなものでもある。だが、間違ったとは思っていない。

(もう一度人生をやり直せるとしても、たぶんこの生き方を貫くだろうな)

 そんなことを考えながら閻魔大王を見上げていた、すると


「やはり良い目をしておる」


 満面の笑みでこちらを見下ろしながら言ってくる。機嫌は良さそうだが、その巨体と強面の面構えのせいもあり、真顔よりもむしろ怖い。


「それに、-----」


 内心で少し怯えている間も閻魔大王は何かを話している。最後のほうはうまく聞き取れなかったが、どうやら気に入られたらしい。そして、側近と思われる角の生えた男と何かを話している。


「さてと、本来であれば天国へ送り浄化するところじゃが、そなたの魂は穢れもほとんどない。じゃから、特別に記憶を持ったままもう一度人生をやり直す機会を与えよう」

「え?やり直し、ですか?」

「そうじゃ。じゃが、そなたがもといた世界には良い器が無いようじゃの、なので別の世界への転生となってしまうが、それでもよいか?」

「別の世界・・・ですか?」


 天国?魂?別の世界?あまりにもオカルトな単語が続くせいで話がうまく入ってこない。しかし、死ぬ間際の自分の言葉がもう一度思い浮かぶ。

『ああ、もう少しだけ、長生きしたかったな・・・』

 特に夢や目標をもって生きているわけではなかったが、あれが自覚していない自分の本心だったのだろう。それに、どうせなら生きていた世界がいいが、悪い話ではないし、ここがあの世だと決まったわけでもない。夢の可能性もある。


「魂を浄化せずに転生を行うと、少しばかり数奇な人生となる恐れがある。そして、転生先の異世界はそなたの居た世界よりも生きづらいところじゃ。じゃから、転生を選ぶのであればわしの力の欠片も特別に授けてやろう」

「あ、ありがとうございます。そしたら、転生でお願いします」

「よかろう」


 きっと夢だろう。そう思いながら返答すると、次第に視界がぼやけていった。トラックにぶつかったときと同じ感覚だ、意識が闇へと落ちていく。

 

「感謝する」


 完全に意識が途絶える寸前、そんな声が聞こえた気がした。










 

 



 目が覚めると、空には満点の星空が見えた。


「綺麗だ」


 ゆっくりと立ち上がり、あたりを見回すと草木が風に揺れている。どうやらここは森の中で、芝生の上に寝ていたようだ。


「病院でも、道の真ん中でもない・・・」


 ひとまず状況の確認が必要だ。振り向くとすぐ後ろに真っ白な墓石のようなものがあった。真っ二つに砕けてしまっているが、夜空の光を反射して幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

「綺麗な石だな・・・」


 墓石へ近づくと、その横には小さな水たまりがある。


「うわっ、だれだこれ?」


 怪我をしていないか顔を確認しようと覗き込んでみる。するとそこには、どことなく自分の面影のある、髪が真っ白の青年が映り込んでいた。

 怪我どころか肌荒れもない。肌の色素は薄く、黒目だった目は青色に輝いている。まさに、神秘的という言葉が似合う姿となっている。


「なんか、白髪に合わせて顔だちが整ってる気がする・・・」


 彼女いない歴=年齢が物語るように、決してモテる顔立ちではなかった。16歳とは思えない童顔に165センチの身長も相まってマスコット的な人気はあったが、好きな子ができても恋愛にまで至ったことはないのだ。慣れない顔に戸惑いつつも、面影を残しながら整った顔に少しうれしく思いつつ、先ほどの夢の内容を思い出す。


「もしかして、本当に異世界に転生したのか!?」


 状況的に一番納得できる。だが、まだ情報が足りない、確認のためにも誰かに話を聞く必要があるだろう。

 言葉は通じるのか、近くに人は居るのか、そんな不安を抱えながら一歩を踏み出す。すると次の瞬間、それらの不安は一瞬にしてに消え去ることとなる。


「あ…素っ裸だ」


 まずは服の調達が必要だ。

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