マジック・ウィンドウ
俺とレナが同時に声を上げる。
落下したスマホが、ちょうど地面から盛り出た石にぶつかり、バキっと嫌な音がした。
「レ、レナ殿っ!」
後ろからセバスの叫び声がした。
俺は一刻も早くスマホの無事を確かめたかったが、ここでそれは空気読めてないだろう。
というか、レナはびたんっとすごいコケ方をしたので、実際心配でもあった。
すぐに近寄って声をかける。
「大丈夫!?」
「う、うん、へーき。それより……」
レナは身を起こしながら、前方に転がったスマホに視線を送る。
俺はいいよ、と手で制しながら、スマホを拾い上げた。
「げっ……」
だがその惨状を見て、変な声が口から出てしまう。
スマホの画面には、がっつり表面に大きなヒビが入っていた。
「あっ、それ……ごっ、ごめん、ごめんなさいっ!」
呆然とする俺に、レナが必死に頭を下げてくる。
本当だよ、いきなりなんてことしてくれてんだ。
まったく、そんなでかいおっぱいしてるから落とすんだよ。
……などという発言は紳士の俺にはできない。
まあ紳士っていうか、ただのヘタレなんですがね。
だがいくら可愛いからって、謝れば許されると思って……、
「ごめん、ごめんね?」
レナは目を潤ませながら、腕に手を絡ませてくる。
泣きそうな顔で、上目遣いをしてくるという反則技。
ヤバイ、かわいい……。
しかもなぜかエロい。妙にエロい。
その上さらに腕におっぱいがあたっている。激しく当たっている。
……うん、許そう。きれいさっぱり許そう。
レナもこうして懸命に謝っていることだし。
「いやぁ、はは……大丈夫大丈夫、気にしないで……それより大丈夫だった? ケガは……」
レナの目を直視できなかった俺は、おっぱいに向かって言った。
「うん、私は全然大丈夫だから……。ホントーにごめんなさい。あの、私ができることならば、なんでも……」
ん? 今なんでもって……。
なんてやってる場合じゃない。
急いでスマホの状態を確認する。
画面に大きなヒビが入ってしまったが、中身はやられていないようだ。
動くには動く。だがいつ壊れるかわかったもんじゃない。
しかしどうすんだこれ、もし壊れたら……。
というか、電池だって切れたら終わりじゃないのか?
充電なんてできそうもないし。
今更ながらの疑問。
魔物だなんだって、ゴタゴタしていたのもあるが……。
やっぱりこれはあの幼女にハメられたか?
スキルストアが使えなくなったら、ほぼ詰みじゃねーか。
ガチで異世界でも底辺生活始まっちゃうぜ?
くっそマジかよ……。
充電残り27%。
俺は藁にもすがる思いで、スキルストアで検索をかけた。
『スマホ 電池』
本当にダメもとだった。
だが、目的のものはすんなりと見つかった。
―――――――――――――――――――――
スキル名 無限バッテリー
作成者 無念の神@マゾゲー好き
概要
今回の無念な方は、
早々に電池が切れてお亡くなりになった転生者Aさん。
そんな彼の死に様から、スキル作成のヒントを得ました。
本人のコメントを紹介します。
「異世界転生したと思ったら、充電残り2%って……」
500GP
シークレットスキル
―――――――――――――――――――――
マジか、こんなのもあるのかよ。
俺は速攻でスキルを落とした。
するとバッテリーの残り表示が∞に変わった。
すげえな、始めて見たぞこんなの。
これで電池の問題は解決した。そしたら次は耐久を……、
だが今度は検索するまでもなく、それらしいものが見つかった。
無限バッテリーの詳細画面の、これを落とした人はこれも落としています。
というリンクを辿る。
―――――――――――――――――――――
スキル名 ディスプレイをマジック・ウィンドウ化
作成者 無念の神@マゾゲー好き
概要
このスキルの作成にあたり、
ケータイを池に落として積んだ転生者Sさんをはじめ、
盗まれたBさん、壊されたTさん、ガラケーだったDさん、
などなど、大勢の無念な方から無念なご意見をいただきました。
ヒットスキル『無限バッテリー』からの正統超進化。
おかげさまで、前年度「このスキルがすごい! 十選」に選ばれました。
ほっくほくです。
2000GP
スキル内課金有り
シークレットスキル
―――――――――――――――――――――
この説明だけだとわかりにくいが、相当便利らしい。
ダウンロードして、スキルを発動する。
すると。
目の前に半透明のウィンドウが展開し、そこにスマホに映っているものと同じ画面が表示された。
「おおっ?」
思わず声が出てしまった。
これがマジックウィンドウ? すごいぞこれ……。
せいぜい6インチ程度だった画面が、30型のテレビぐらいの大きさに変わった。
しかも体の向きを変えても、勝手にウィンドウもついてくる。
指を触れると、タッチするエフェクトが発生し、画面のスクロールができた。
もちろん入力もできる。
かなり見やすくなった上に、これなら両手が使える。
それに半透明になっているので、画面が邪魔になるということもない。
二人は「ケガはないですかレナ殿っ!」なんてやってるが、俺以外にはこのスクリーンは見えてないようだ。
なんだよこれ、こんな便利なスキルあったのかよ。
だったら先に言ってくれよな。まったくこれだから幼女は。
にしても、やった、これでもうスマホいらないじゃん。
あれ、でもこれ、どうやって画面起動するんだ……?
スキル詳細を確認する。
えーとなになに……、
スクリーン起動には、左乳首長押し。
…………。
俺は無言でスキルを外した。
次回、課金してちゃんとカスタムできます。