エデン獲ったど~!!
ゴトっと床に転がったゴーレムの頭が、跡形もなく燃やしつくされる。
すると残されたゴーレムの巨体は、人の形を失いガラガラと崩れ、すぐさま砂粒状に変化し消滅した。
皆が息を呑む一瞬の静寂の後、わーっと歓声が上がる。
「うおおおおっ、やりやがったぁ!!」
「マジかよアイツなにもんだ!? とんでもねえな!」
「がはははは、さすがわが下僕じゃ~!」
周囲の声に紛れて、アムのバカ笑いがひときわ目立つ。
当の俺はあまりにもすんなりいってしまって少し戸惑っていた。
「な、なんと……あのゴーレムを、こうもあっさりと……!」
オブジェから飛び降りたマシューが、残った焼け跡をまじまじと見つめだす。
すかさずアムが背中の羽を小さく動かして宙を移動し、呆然とするマシューへ接近。
はっと身構えるマシューへ、アムが上から余裕の笑みを投げる。
「おいマシューよ。今土下座して謝れば、許してやらんこともなくはないぞ」
「そ、そんな、今更謝るなど……バカな、私はもう、決めたのです!」
口では強がっているがコイツ一瞬迷ったな。敬語に戻ってるし。
まあ、許してやらんこともなくはないって、どの道許す気はなさそうだが。
元から悪いマシューの顔色がさらに悪くなっている。
その表情から察するに、もう打つ手はないらしい。
これはエクストリームDOGEZAしかないかと見守っていると、マシューは意を決するように両拳を握り、片膝をついて頭を下げた。
「あ、アムリル様! 無礼を承知で、諫言させていただきます! あ、あなたの傍若無人な振る舞いのせいで……もう魔族領はメチャクチャだ! 王は王ですっかりアムリル様の言いなりで……その時の気分次第で法や規律が変わり……このままだと魔族はダメになります!」
ガタガタの謝罪会見が始まるのかと思いきや、意外なまでに力強い声の響きに、広間は水を打ったように静まり返る。
マシューは顔を上げるとカっと瞳を見開き、まっすぐアムに訴えた。
「過去に一度争いがあって以来、エデンとは持ちつ持たれつでやってきたはずなのに、あなたが王に急に侵攻をけしかけて……結果謎の術で王はすっかり弱られてしまった。やはり無駄に事を起こすべきではなかったのです」
ゴメン、ケツバットは俺のせいなんだけどさ。
そんなトラウマになるほどにキツイなんて思ってなかったから。
「三魔族はじめ、現体制に不満を持つものがどれほどいるか、これでおわかりになったでしょう。みな変革を望んでおります。……今回のことは、私がすべて責任を取ります。いかような処分も受けるつもりです。ですがアムリル様、どうか、私が事を起こした意図を汲んで……」
どうやらマシューは割とまっとうなことを言っているようだ。
毅然として主を諌める真摯な姿勢に、嘘やごまかしを言っているのではないというのが、部外者の俺にも見て取れる。
なによりもアムが好き勝手やっている映像が容易に頭に浮かぶし。
覚悟の決まったマシューの言葉に、アムは黙って聞き入っていた。
自ら体を張って主を諌める部下の言葉が、心に響いたか。
アムはしばらく無言で、ひたすら頭を垂れるマシューを見下ろしていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「そ・れ・で?」
「……は?」
「か~ら~の?」
ごめんなさいは? と言わせんばかりのこの迫りっぷり。
そこには説得に心を打たれて改心したアムの姿はなかった。
いつもの上から目線で、眉を吊り上げる。
「そんなくだらん理由で、このわらわを亡き者にしようとしたのか、この愚か者め! アホ、ボケ!」
ドンマイマシュー。
そんな忠告を聞くようなやつじゃなかった。
さすがに今ので少しは効いたかと思ったが……。
「お前、救いようのないクズだな……」
「ふん、最近少しやりすぎたかもしれんというのは、言われんでもわかっとるわ。それよりわらわが気に入らんのは……なにやら背後に、きな臭いものを感じるんじゃ。マシューよ、正直に答えよ。あのゴーレムといいこの鼻センといい……一体どこで手に入れたんじゃ?」
「そ、それは……グレンと名乗る魔人が、突然協力を申し出てきて……」
「やはりか……魔物の神に、魔人……なにがあろうとヤツらに従うのは絶対に反対じゃ」
どうやら裏で変なのが絡んでいたらしい。
魔人とかかっこいい響きだけど、ただ鼻センを配っただけか。
「ヤツらに付け込まれたら、わらわや魔王といえどもどうなるかわからん。それこそ魔族がどうなるか、わかるか? 魔族そのものが、なくなってしまうやもしれん」
「そ、そんな……。あ、アムリル様……まさか、そこまで見抜いて……」
「そうじゃそうじゃ! すべてお見通しじゃ! そんな簡単なこともわからんのかこの愚か者めが!」
「もっ、申し訳っ……わ、私めが、愚かでしたぁっ!! アムリル様、ど、どうかお許しをぉぉっ!!」
「ええい許さん、さんざん無礼な口を利きおってからに! おしおきターイム!!」
「ぎゃああああああっっ!!」
アムの魔法によって、燃やされたり凍らされたりと忙しい目にあうマシュー。
結局よくわからん内輪もめに、エデンが巻き込まれた感じか。
マシューは別にエデンを征服したいというわけではなく、アムがおとなしくなればそれで済む話だったわけだ。
やがてアムによるかわいがりが終わって、おしおきは終了。
プスプスと煙を上げながらぐったりと横たわるマシューを尻目に、アムが息をつく。
「さて、と」
どうやらこれで一件落着か……?
何か忘れているような気もするが、もう早く帰って休みたい。
そう俺が気を抜いた瞬間、アムがいきなり半壊した玉座に向かってダッシュ。
そしてそのまま玉座に飛び乗るなり、大口を開けて笑いだした。
「ふははははっ! 獲ったぞ~エデン獲ったど~!! これで今からこの国はわらわのものじゃ! ふひゃひゃ!!」
「は、はああ!?」
「見たか、これぞ味方をも欺くわらわの鮮やかな手口! すべて計画どーり!」
「嘘つけ! ガチで裏切られてたじゃねーか!」
絶対にこれが計画通りなはずがない。
好き勝手にメチャクチャやって、偶然うまく行っただけだ。
「だまらっしゃい! 終わりよければすべてよし! さあ、魔族たちよ、暴れろ暴れろ~」
アムは両手でバンザイをして、謎の思念を送りはじめた。
するとそれまでおとなしかったはずの魔族達が、急に勢いづき出す。
「う、うぉおおおっ! なんかやる気がみなぎってきたぜ!! 暴れたくなってきた!!」
「す、すげええっ、ここまで計画通りだなんて、さすがアムリル様! やっぱマシューなんかじゃあダメだよな!」
「よっしゃあ、オレはまずあの目障りなジジイをやるぜ!」
う~ん、魔族もたいがいバカばっかりだな。
アムに魔族をバカにする力か何かがあるのかもしれないが。
アムの命令に従うように魔族が暴れだし、広間のあちこちで主に兵士たちの悲鳴やら、物が割れる音が響き出す。
「い、いかんですぞトージ殿! 外の魔族たちも暴れだしておる! このままではエデンが……!」
いきなり数人の魔族に追いかけ回されているセバスが、俺のすぐ横を走り過ぎていく。
大人気のようだが、奴をまず視界から消したいというのはわからないでもない。
セバスの言ったとおり、暴れだしたのは城の中にいる魔族だけではないようだ。
窓の外、遠くからもドカンドカンと爆発するような音が聞こえてくる。
どうやらアムの命令が、ここら一帯の魔族に伝わっている様子。
幸いダークナイトの俺は、仲間とみなされているのか襲われる気配がない。
俺は慌ててアムに詰め寄る。
アムは魔族たちを煽るように、玉座の上で変な踊りを始めていた。
「おいこら! なにやってんだ、やめさせろ!」
「なんじゃ? 下僕の分際で……。ほれほれトージよ、わらわの前にひざまづくがいい」
げっ、勝手に体が……。
アムの前でうやうやしく片膝をついてしまう。
「いい子じゃ、いい子じゃ、よしよし」
「て、てめえ……」
頭を撫でられるがうれしくもなんともない。
ヤバイ、この状況……もしやアムの独壇場?
鼻センがあるせいか、聖剣の力が通じない。
それに今はダーク聖剣になってしまっているので、そもそも効果がないのかもしれないが。
「さて、マシューのように生ぬるいことは言わずに、ニンゲンどもにはどちらが上かしっかりわからせてやらねばの~。心身ともに完全征服じゃ。トウジよ、お主は……そうじゃな……、よし、手始めにみなの前で聖女を犯すのじゃ! 象徴たる聖女がダークナイトに汚されれば、エデンの民衆共はいやがおうでも思い知るじゃろうて!」
そう言ってアムは満面の笑みを浮かべて、びしっと広間の隅っこに放置されたレナを指差した。




