ダークプリンセスナイト
――ゴォォォォッ!!
ゴーレムの体を、一瞬にして闇の炎が包む。
まとわりつく炎を振り払おうと、巨体は身を踊らせるが、火の勢いはさらに激しくなっていく。
ひとりきり体を焼かれた後、ゴーレムはズシン、と膝を崩し両手を地につけたまま、動かなくなった。
ブスブスと煙を吐くゴーレムを、宙に浮かぶアムがご満悦そうに見下ろす。
「くっくっく、あっけない。またつまらんものを燃やしてしまった」
早くも勝利宣言をするアム。
確かにアムの魔法は口先だけでなく、とんでもない威力だった。
まるで炎自身が意思を持つかのように、相手を捕らえて焼き尽くした。
さすがのゴーレムもこれではひとたまりもないだろう。
そう思った矢先、黙念と頭を垂れていたゴーレムが、がばっと身を起こした。
なんと、仲間にしてほしそうに……ではなく、少し様子がおかしい。
「グウォォォォオオオッ!!!!」
ゴーレムはいきなり頭をもたげて、謎の雄叫びを発した。
コイツ声出せたんかい、と驚く間もなく、ゴーレムはいきなりあさっての方角に向かって突進しはじめた。
「ひ、ひぃいいいいっ!?」
「うわああああっ!!」
その先ですぐさま悲鳴が上がる。
ゴーレムは周りに集まってきていた魔族たちを見境なしに蹴散らし、暴れだした。
野次馬には魔族だけでなく、一応人間の兵士達もいるようだが、誰ひとりとしてゴーレムに立ち向かおうとするものはいない。
そりゃあんなのが我を忘れて突っ込んできたら、逃げるの一択だろう。
観衆は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、広間は一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈しだした。
「と、止まれゴーレムよ! クっ、なぜだ、なぜ制御がきかんのだ!」
マシューが手にした水晶玉に向かい、必死に念じているが何も変化はない。
どうやら、というかやっぱりゴーレムが暴走したようだ。
ありがちなパターンだがこれは地味に迷惑。
動きが遅いのがまだ救いではあるが……。
「レナハート様、ここは危険ですぞ! 後はトウジ殿に任せて、隅の方へ避難を!」
「う、うん! トウジは無敵だし大丈夫だよね」
何か聞こえてくるぞ、人に後始末をぶん投げて退散しようとする輩の声が。
ていうかここあんたらの城だろ。
いつの間にか意識を取り戻したセバスが、相変わらずみの虫状態のレナを担ぎ上げて、ゴーレムから逃げるように離れていく。
あのジジイくたばったかと思ったが意外にタフだ。
やっぱりあの鎧が強いのかもしれない。
セバスが身に着けているのは、前にレナが身に着けていたセイクレッドメイルとかいう無駄に露出の高い防具だ。
今まで触れまいとあえてスルーしてきたけど、もう限界。
あれって女性用の装備じゃなかったのかよ。
半裸に近いおっさんが縛られた女の子を持ち去って行く危険な図を見送っていると、アムがフワフワと浮きながらこちらに近寄ってきた。
アムは遠目から何度か魔法を打ち込んでいたようだが、ゴーレムは依然目につく相手をかたっぱしから追いかけ回していて、止まる気配はない。
「う~む、意外にしぶといのう。どうやら魔法全般の耐性が高いようじゃな」
「おい、大丈夫なのか!? 早くなんとかして止めないと……」
「と言っても手加減が難しいんじゃ。この城ごと吹き飛ばしてしまっていいなら造作もないんじゃが……それでゴーレムだけ生き残ってたら笑えるしのう!」
「笑えねーよ! お前それはやめろよ? フリじゃねえからな!?」
「となると物理攻撃か……じゃがわらわは魔法以外は苦手じゃしのう……ふぅむ、仕方ない……」
アムは一息をつくと、空中を飛んですぐ俺の目の前にまでやってきた。
「おいトージ、アレを見よ」
「なんだよ」
そう言ってアムが指差したほうにわずかに目線をそらした瞬間、アムがぐわっと飛びついてきた。
すかさず首筋に軽く痛みが走る。
「いっ!」
――これは……まさか噛まれた?
何事かと気が動転しながらも、アムを体から引き剥がし振りほどく。
「なっ、なにを……」
「むっふっふっふ。光栄に思えトージよ。お前は今をもって、わらわの選ばれた下僕となったのじゃ」
「なに?」
妙な違和感を覚えた俺は、首元を押さえながら、体を見下ろす。
すぐに飛び込んできたのは、腕に刻まれた不思議な文様。
両腕に、黒いタトゥーのようなものが入っていた。
「な、なんだよこれ……」
「無事転職できたようじゃのう。今からお主は、プリンセスナイト改めダークプリンセスナイトじゃ!」
「はあ?」
まさか……今ので転職させられたってことか?
俺は慌ててカードを取り出し、ステータスを確認する。
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トウジ・ミシマ
冒険者ランク F
ジョブ ダークプリンセスナイト
レベル 1
HP 800/800(+3200)
MP 320/320(+31680)
筋力 102(+204)
体力 82 (+164)
敏捷 95 (+190)
知力 121(+1089)
運 30
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マジでなっていた。
しかもこれは、レナの時より強い……のか?
それに……。
軽く力を込めると、手の中に黒い炎が生まれた。
先ほどアムが放ったものと非常によく似ている。
やっぱりだ。魔法が使えるようになっている。
理屈は分からないが、不思議なことになぜか使い方がわかる。
これはリアルダークフレイムマスターごっこができる……なんて言ってる場合じゃない。
「お、お前、勝手になんてことすんだよ!」
「なんじゃ? 魔姫従騎士と言えばレア中のレアジョブじゃぞ? 泣いて喜ぶことはあっても、文句を言われる筋合いはない」
「いやそういう問題じゃなくてだな、色々と立場が……」
「めんどくさいのう……む? 聖剣が……」
とその時、俺の手にした聖剣が、白い光と黒い光、交互に明滅を繰り返しはじめた。
こんな状態は見たことがない。
「どうなっておる? 本来、ダークナイトに聖剣が装備できるはずがないのじゃが……?」
「ああ、神スキルの効果か」
どうやら神スキルの「聖剣装備」によって、聖剣が装備可能になっているようだ。
「……ぬぅ? まあよい、よくわからんが素晴らしいぞ! ダークナイトが聖剣を扱えたら無敵ではないか! それでこそわが下僕!」
「誰が下僕だ」
「それならわらわがわざわざ魔法剣をこしらえる必要もないし……ダークナイトの固有スキル『ダークマジックウェポン(MP消費攻撃大)』でさらに攻撃力大幅アップに闇属性付与じゃ!」
一方的なのが少し気に入らないが、強くなって魔法が使えておまけに聖剣も扱えるなら、割と悪くないかもしれないな。
プリンセスナイトのような面倒なしがらみもなさそうだし……。
「さあ、ゴーレムを倒すのじゃ! 正面から突っ込め!」
「バカ言え、正面からなんて……って、え? 勝手に体が……」
「ふっ、お前に反論に余地はない。魔姫従騎士は、主の命令には絶対に逆らえんのじゃ」
「は?」
前言撤回。
コイツの命令に従わければならないとか、ドがつくブラックジョブじゃねえか。
とか言ってる間にも、俺の体は勝手に暴走ゴーレムに向かって走り出していた。
目の前でモブ魔族が殴られて、凄まじい勢いでふっとんでいったがいかんでしょこれ。
「ゴアアアアアッ!!!」
荒ぶるゴーレムが、次なる標的を俺に決めたらしくこちらに向き直る。
図らずも真っ向勝負の一騎打ちとなってしまった。
だが回れ右することもできず、俺の体は勝手に剣を両手に構えて、ゴーレムの正面に飛び込んだ。
すかさずそれを叩き潰そうと、振り下ろされるゴーレムのいかつい拳。
――キィィン……!
衝突寸前で、耳鳴りがする。
その刹那、横合いから目にも止まらずスピードで飛んできた闇の矢が、ゴーレムを腕を射止めていた。
「グアアアッ!!」
バランスを崩したゴーレムに向かって、剣が振り下ろされる。
二色に輝く刃は、見るからに頑強そうな鈍色の体を、抵抗なく斬り裂いていく。
さらに袈裟懸けにした切り口から、光の炎と闇の炎が燻りだし、徐々に燃え上がる。
グラリ、と前のめりになったゴーレムの頭部に、もう一閃。
聖剣がきらめくと、その頭は胴体から離れ、ゴゥっと混ざり合う炎に包まれた。




