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ネコ忍者


 ぎょっとして見ると、黒い装束に身を包んだ小柄な少女が、すっくと立ち上がった。

 赤毛交じりの長めの髪をたなびかせ、猫のような目をぎょろつかせる。

 

 ……なんだなんだ、今度はコスプレ忍者か? 

 こころなしかドヤ顔の忍者少女に、セバスが食ってかかった。


「イズナ! レナ殿の恩人に向かって、いきなりなにを言う……というかお前はなにやっとったんだ!」

「はい。命令どおり、レナハート様をしっかり見てました。バッチリです」

「アホか! なにがバッチリか! しっかり見ておけというのは、危険がないように助けろ、という意味じゃ!」

「違います、あたしはただ、レナハート様がゴブリンに捕まってあれやこれやされてくっ殺せ的な展開を……あいたっ!」

「何を意味不明なことを言っとるか! このバカ者めが、ええい、お前はまた減給じゃ!」 

「え、ええっ。そんなぁ……」


 頭をげんこつで叩かれて涙目になる忍者女。

 さらにボロクソに言われるところを、レナが間に入ってなだめる。


「もう、ぶつことないでしょセバスったら。イズナおいで、よしよし」

「はふぅ……レナハートさまぁ……」


 レナがイズナという少女を胸元に抱き寄せて、優しく頭を撫でる。

 あら^~いいですわねぇ。美少女が二人絡むと絵になるなぁ。 

 

 ていうか正直うらやましい。代わってほしい。

 心底そう思いながら眺めていると、胸に顔をうずめたイズナが、一瞬にやりと悪い笑みを浮かべてこっちを見た。


 まさにどうだうらやましいだろうと言わんばかりの。

 なんなんだあいつは……。


「ふにゃぁ……もっとナデナデしてくださいぃ……」


 とその時、イズナの髪がぴょこっと不自然に盛り上がった。

 今のは……耳? まるでネコの耳のようなものが頭から生えて……。 

  

「イズナ! いつまでやっとるか! もうよいお前は下がれ下がれ!」


 セバスに怒鳴られて、イズナはしぶしぶレナから体を離す。

 そして最後になぜか俺をひと睨みすると、再びシュバっと木の上に身を隠した。

 

「全く、どうも頭が固いというか、アホというか……。さて、レナ殿。そろそろ日も暮れますし、街に戻るとしましょうか。それと、トウジ殿はどうされますかな?」

「え? ああ、俺は……」


 街か。

 地図ぐらいはスキルでなんとかなるかもしれないけど、

 自力であれこれ探すのもめんどくさそうだし、ついていったほうがいいかな。


 相手は正体不明な感じだが、悪人には見えないし。


「トウジも一緒に行こうよ。お礼もしないとだし」


 少し迷っていると、レナが当然のように言って俺の手を引く。

 ちょっとこの子、さっきからボディタッチが露骨じゃないですかねえ……。


 女子に挨拶されただけであれこれと意識してしまう俺としては、どうしても反応に困る。

 結局されるがままに歩き出すと、レナはセバスほったらかしで、俺に怒涛の質問攻めをしてきた。


「ねえねえ、トウジってこの国の人? 何してる人? 珍しい服着てるね?」


 うーんどうしようかな、異世界転生してきたとか言っちゃっていいのかなこれ。

 でもまだ相手の正体もわからないし、むやみに話すのは危険な気もする。


 転生モノの小説とかでも、いいように利用されるパターンとかあるしな。

 考えた末に、とりあえず世界を放浪しているイケメン召喚士設定で行くことにした。


「い、いや~俺、実はその……し、召喚士なんだ。まあそれで、世界を放浪しているというか……」

「へ~そうなんだぁ。なんのために?」


 なんのため?

 知らんがな。なんかカッコよさそうだからじゃないの。

 

 ここは適当に冗談でかわすか。

 こういう時に軽口の一つでも言える男がモテたりするわけだ。

 

「そ、それはえーっと……。せ、世界平和のため……かな」


 いや~ないわ。

 さっきからレナの胸元とかふとももが気になってしょうがない奴が世界平和とか。

 

 俺が「も~ふざけないでよ~」という言葉を待っていると、レナは目を見張るようにして俺の顔を見つめてきた。

 ……えっ、なんだこの空気。


「えっ、いやあの、冗だ……」

「すごいよセバス! 世界平和だって!」

「うむうむ。お若いのに素晴らしい心がけ。我らが王にも爪の垢をせんじて飲ませたいぐらいですなぁ」


 感心した顔で、セバスもしきりにうなづく。

 おいおい本気かキミたち……ギャグに決まってるだろ世界平和とか……。 

  

 だが今さら嘘ぴょーんなんて言える雰囲気ではなくなったので、俺は逃げるようにスマホを取り出した。

 会話に困った時にスマホを眺めるというのは、無意識にやってしまうただのクセだ。


「あ、さっきの! 見せて見せて!」

「わっ、ちょ、ちょっと、ダメだって」

「なんでぇ、ちょっとぐらい、いいじゃん。けち」


 レナがぶぅーっと口を尖らせる。

 普通ならイラっとするところだが、この子がやると嫌な感じはしない。

 ていうか単純に可愛い。

 だがこのスマホはいわば俺の生命線なわけだから、うかつに人に見せることはしないほうがいいだろう。


「見たいな見たいな。ねえ~、おねがい」


 意外にしつこい。

 しかしそんな風にかわいらしくおねだりされると、思わず渡してしまいそうになる。

 

 これはいかんとスマホをしまおうとすると、突然目の前をシュッと黒い影が通り過ぎた。

 

「わ、ありがとっ。へえ~、なんかフシギな金属でできてる……?」

「えっ?」


 もの珍しそうに、歩きながらまじまじとスマホを眺めるレナ。

 俺の手にあったスマホは、いつの間にかレナの手元に移っていた。


 なんだ今の……、なにが起きた?

 あっけにとられた俺が慌ててスマホを取り返そうとすると、いきなりレナが何かにけつまずいた。


「きゃっ!?」 


 レナが派手に倒れこむ拍子に、スマホが手を離れ、宙を舞った。

 

「「あっ!」」

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