降伏しちゃおっかな~
声量こそ小さいが、妙に響く。
何やら得体の知れない悪寒がして、声の方に視線を走らせる。
なぜか薄笑いを浮かべて立っていたのは、かのレナハート様だった。
謎の圧迫感と、不気味なオーラを纏っている。普通に怖い。
「うぅっ、なに……? 急にめまいが……」
「気持ちわるい……」
と急にサキュバス達の顔色が悪くなり、おのおのマウントを取っていた彼女たちは、ぐでっと横倒しに倒れこんだ。
同時に俺とアムが解放される。
「ひぃ、助かった……」
アムがほっと胸をなでおろして立ち上がる。
なので俺もそっくり真似して立ち上がったのだが……。
「い、いや~助かった」
「何が? ずいぶん楽しそうなことしてたみたいだけど?」
なぜ俺だけ睨まれるのか。
「そ、それが、突然魔族に襲われてだね……」
「やだもうトウジったら。プリンセスナイトになって、聖剣もあるんだから、魔族なんて簡単に○○○○できるでしょ?」
神聖なる聖女様はそんなこと言わない。
彼女の名誉のためにも、発言内容を伏せさせていただく。
「何してたの? 怒らないから正直に言って?」
「いやまだ何も……。な、なあアム」
「ふむ、もうちょっとで中に入るところだったようじゃがの」
「何が何の?」
真顔で聞かれるとちょっと……。
アムに助けを求めたのが間違いだった。
「ち、違う、だいたいもとを正せばそのおっさんが……」
俺を部屋に引き込んだのが悪い。
と張本人を指さすが、おっさんはレナを見た途端、変な奇声を上げて気を失ってしまった。
まあいきなり亀甲縛りされた美少女が現れたら、多少は驚くかもしれないが……何も気絶することはないだろうに。
「あっ……」
「誰? 知ってる人?」
レナが一瞬、何か知っているような素振りを見せたので尋ねる。
だがレナはじーっと見下すような目で、ベッドに横たわるパン一のおっさんを見つめて、
「知らない。それより、早く行こ」
あっさりそう言い放って、くるりと踵を返す。
見たくもないといった感じだ。
これ以上は詮索しづらい雰囲気があったので、追求せずレナの後に従った。
今度こそ王の間に向かうべく、歩みを進める。
アムの後についてレナ、スキルを発動した俺という順に続く。
一度ホールに戻り、中央の階段を登って二階へ。
どうやら魔族たちは、兵士をいじめたりメイドを追っかけまわしたりで忙しいらしく、俺達の動向を特段気に留める様子はない。
だが二階に上がって、いよいよ王の間へ続く扉の前まで来ると、見張りらしき魔族が呼び止めてきた。
大きな二本の角が頭から生えていて、見た目牛と人間が合体でもしたようだ。
今度は牛野郎か。
「なんだぁ、おめえらは……」
「聖女を捕まえたのだ。通せ」
この辺のアムの受け答えは予定通り。
アムがそろそろ飽きてきていたので心配だったが、さっきの一件でレナがピリピリしているので、ビビっておとなしくやる気になったらしい。
「あぁん? 聞いてねえ……あっ!」
牛野郎はビクっと肩をすくめて、アムの背後のレナを注視する。
するとその顔が、みるみるおびえの色を帯び始めた。
よくよく見れば、牛男の顔面には手形の跡があり、どうやらすでに聖女フィンガーの洗礼を受けていたようだ。
「い、一体どうやって……? ま、まあいい、行っていいぞ」
レナを捕まえた、というアムを、自分より格上だと判断したのだろう。
牛野郎はすんなりと道を譲った。
それと不機嫌になったレナが、ずっとガンを飛ばしていたのもある。
縛られて手も足も出ない状態だと言うのに、こうも怖れられるとは。
仰々しい扉をくぐって、ついに王の間へ。
中は天井も高く、奥行きもありムダに広い。
床にお高そうな絨毯が敷かれていて、遠目に玉座が見える。
だだっ広いということもあるが、広間は予想以上に静かだった。
まっすぐ絨毯の上を歩いて行く。
特に出迎える者もなく、行手を遮る者もない。
歩いていくと、広間の一角に、十数人の縛られた男女が集められているのが目に入った。
どれもみな、身なりの良さそうな格好をしている。王族か、ばたまたお偉いさんか。
なるほどアレが人質か。
そばには見張りらしき魔族が数名。
魔族はボードゲームか何かで遊んでいるらしくかなり気が抜けているが、人質を取られていることには変わりない。
やはり力押しを避けて正解だった。
どの道、玉座に向かって堂々と歩く以外、不審な動きはできない。
長い広間を横断して、やっと玉座付近に到達する。
玉座には、誰も座っていなかった。
代わりに、その手前の円卓についている人影が二つ。
さらに近くには、顔色の悪い魔族が二人控えている。
「しかし戻ってこんな……いつまでヤってんだか……」
「この際、王の代理としてあなたが首を縦に振ってくれれば、それでかまわないのですが……」
卓についた二人が、何やら話しているようだ。
そのうちの一人は、かのおっぱいジジイ、セバスだ。
腕組みをしながら眉を寄せて、うんうん唸っている。
「……うーん、降伏しちゃおっかな~……」
……おいジジイ。
どうやら王は不在らしい。
捕まっているというわけでもなさそうだし、こんな時にどこ行ってんだか。
「それが英断でしょう。私もあなたなら、そう決断しますよ」
冷たく、やや無機質な声が囁きかける。
どうやらコイツが肝心の魔族のボスのようだが……これは見覚えがあるぞ。
聖剣を森に探しに行った時、アムと一緒にいた……たしかマシューとか呼ばれていたノッポの魔族だ。
誰かと思えばコイツだったのか。
度重なるアムのパワハラに耐えきれずに反乱したか?
マシュー、セバスがそろってこちらに気づくのとほぼ同時に、アムが先手を打って声をかけた。
「王女を捕まえました」
「うん? お前は……?」
マシューは首をかしげる。
まあイロモノ揃いの魔族にも、さすがにこんな女王様スタイルの奴はいないのだろう。
「なっ、レナハート様!?」
あられもない姿にされた聖女を見て、セバスの目玉は飛び出でんばかりだ。
だがその目線は、縛られて強調された胸に向かっている。
驚くっていうか、こいつ感動してねえか。
「なんだと? レナハート……? お前が、捕まえただと……? お前は一体、誰だ……?」
マシューは立ち上がって、目を凝らしながら近づいてくる。
するとアムはまずいと思ったのか、突然ヒソヒソ声でせかしてきた。
「……ほれ、いけいけ、トージ! 今じゃ、聖剣でズバっとやれ!」
バカ、余計なことを……。
もうちょっと近くまで引きつけたかったのに。
「なっ、まさか……」
そんな風に囁いたら怪しまれるのは当然で、マシューは何かに気づいたように、一瞬硬直する。
と同時に、俺はレナから手を離して、聖剣を振りかぶりマシューに斬りかかった。




