聖剣焼き
いかにもお強そうな二体の鎧騎士が、ズシン、ズシンと一歩一歩、ゆっくり近づいてくる。
もちろんただの人間状態であるアムが、やりあえるはずもない。
かといって俺がスキルを解除して戦うにしても、作戦が台無しになってしまう。
これは出直すしかないかもわからんね、と一時撤退を考えていると、
「あぁ~もう! うだうだやるのはバカらしいんじゃ!」
「きゃっ!?」
アムが声を荒げると同時に、ぐいっと縄を引いてレナの背中を勢いよく押した。
もちろん縛られたままのレナは、手も足も出ずそのまま前方へ突き飛ばされて……。
――ゴンッ!!
「ぐぎゃあああっ!?」
体当たり……にはならず、ジジイの頭にレナの頭突きがきれいに決まる。
そして今の悲鳴である。
ジジイは頭を押さえてうずくまってしまった。
たかが頭突き程度で大げさだろうと思うだろうが、しかしこれ、ただの頭突きではない。
いわゆる聖女ヘッドバットである。効果は抜群だ。
「あ、やべっ」
だがそのはずみで俺の手とレナの手が離れてしまった。
これでスキル効果は解除、俺の姿は実体化してしまった。
するとすかさずアムがブタ野郎から奪った武器を放り投げ、代わりに聖剣を持った俺の腕をつかんだ。
そして聖剣をうずくまったジジイの頭に押し付けるように、俺の腕を引っ張った。
「あぎゃああああっ!!!?」
ジュウウッとジジイのハゲ頭から煙が上がる。
聖剣による根性焼きである。
「ほれほれどうした~? 四天王様なら痛くもかゆくもないじゃろ~?」
「あががががが!!!」
ジジイの声がさらに裏返っていくがアムは容赦なく押し付けていく。
コレは酷い。
「誰の時代が終わったって~?」
「ひぎゃあああああっ!!!」
ダメだ、おじいちゃんもう悲鳴しか出てこないよ。
さすがに見苦しくなってきたので、俺はアムの手をどかして聖剣を離す。
するとジジイはそのままうつ伏せに倒れて、例によって白目をむいて気絶した。
同時にガシャンガシャン、と鎧騎士が抜け殻になったようにその場に崩れ落ちる。
やはり中身は入っておらず、ジジイの魔法かなんかで動いているだけだったようだ。
「ぎゃはっはっは、やはり口だけじゃの~、このわらわに舐めた口ききおってからに」
倒れたジジイを見下ろして、アムがご満悦そうに体を揺する。
なんとかなったようだが、結局力技かよ……。
俺は隣で頭をさするレナに声をかける。
「レナ、大丈夫か?」
「うん大丈夫、へーき……」
とレナは一度うなずいてみせたが、何か思いついたようにキラリと瞳を瞬かせた。
「あ、やっぱ痛い……」
「え?」
「でも、トウジが頭撫でてくれたら治るかも……」
「あ、ああ、そう……」
変に逆らっても仕方ないので、ご要望どおり頭を撫でてやる。
「ふへへ……」
するとレナは変な声を出してにやにや笑いだした。
どうもこの子にはプリンセス感が足りない。
それを見てアムがつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「ふん、どうせ頭空っぽなんじゃから、なにも問題ないじゃろ」
「いきなりなんてことすんだよお前、うまくいったからよかったものの……」
「あの状況では、どちらにせよこうするしかあるまい。素晴らしい機転じゃろう? 聖女を縛って聖剣も隠れているとなると、今のわらわ一人ではどうにもなるまい。大体トージよ、お前の作戦がガバガバなんじゃ」
「ああそうだな、お前のバカさ加減を考慮に入れてなかった」
「なにおぅ?」
……ていうかこの作戦、もとをたどればコイツが言い出したんじゃなかったか?
アムが詰め寄ってきたがのんびり相手をしている場合じゃない。
一度解除された空気彼氏スキルはクールタイムに入ってしまって、またすぐには発動できない。
他に誰か通りがかって騒がれるとそれこそ作戦が全てパアだ。
出直すにしても時間を与えると警戒されてしまうだろうし、幸い目撃者はいないようなので、見つからないうちにこのまま城の中に入ろう。
「いいから急ごう、アム、先に行け」
「むっ、命令する気か、偉そうに……」
「なんだよ、お前もなでなでして欲しかったのか? わかったよほら、よしよし、よくできましたねーアムちゃん」
「なっ、ち、違うわ! き、気軽に触るなぼけぇ!」
アムは俺の手を振り払うと、さっさと先頭を切って進みはじめた。
引っ張られるレナの後から、俺は身をかがめてついていく。
倒れたジジイを放置して、入城。
いきなりだだっぴろい広間に出た。エントランスホールというやつか。
広間には人影がちらほら。
城の兵士っぽいのと、魔族らしき姿も見受けられる。
遠目には人間か魔族かわからんところがあるので困る。
それぞれ一角に集まって談笑していたりで、特別こちらに注意を向けてくる気配はない。
一応ああいう強キャラっぽい見張りがいたわけだし、そうそう怪しいやつは入ってこれなくなっているのだろう。
となると中に入ってしまいさえすれば、ジジイが倒されていることに気づかれるまでは、普通に安全かもしれない。
それでも魔族たちのすぐ横を通るような動きは避けたい。
目的地は王の間。
そこにボスと人質がいるだろうということは、すでに予想がついている。
もちろん俺は城に来たことはないし、近寄ったことすらない。
だが大体の間取りはすでにレナに確認してある。
王の間は、広間中央の階段を上がり二階、三階と進んだ先にあるらしい。
しかし間の悪いことに、階段のそばではがっつり魔族らしき一団が集まって話をしている。
どちらにせよ、このままの状態では王の間に乗り込むことはできない。
とにかく、スキルのクールタイムが終わるまで、一度どこかに身を隠したい。
「レナ、どこか隠れられそうな部屋はないか?」
「え? 部屋はいっぱいあるけど……じゃあとりあえず、あっちの通路に……」
さすがに自分の城で迷子になるということはないだろう。
俺達は魔族スタイルのアムを先に立てて、あえて悠々と広間を横切り、レナが指示した通路へ抜けた。
通路にはずらっと両側に扉が並んでいた。
なるほど、小部屋がいくつも続いているようだ。
「客間だから、ほとんど使われてないと思うんだけど……」
けど扉を開けたら魔族が出てくる可能性もあるわけだ。
そこは運だな。
まあ最悪、すぐに聖剣でおとなしくさせればいいか。
部屋に入ってしまえば、しばらく身を隠せる。
俺は剣を構えながら、手近な扉のドアノブに手をかける。
ゆっくり手首を回すと、一気にドアを押し開けて中に乗り込んだ。
そしてすぐに部屋の中を見渡す。
やった、誰もいない……?
そう思った矢先、開けたドアの死角から、ぬっと人影が現れた。
「おかえりなさいませご主人様!」




