ゴブリン殺し
スキルを発動したとたん、目の前がピカっと光り、もうもうと白い煙が上がった。
すると煙の中から、原始人のような風貌をした、半裸のムキムキなおっさんが現れた。
そして、
「うおおおっ!! ここで会ったが百年目ーーっ!!! 今日こそ☆@#%!!!!」
などと不明瞭な雄たけびを上げながら、ゴブリンに向かって突進していく。
まさに目にも止まらぬ速さ。
ゴブリンがなんらかの魔法を放ったが全くひるまずに、そのまま勢いよくバチィィィーン!! と激しいラリアットをかました。
「しゃおらっ、おらッ!」
どうっと倒れこんだゴブリンに、おっさんはさらに激しいストンピングを繰りだす。
踏みつけるごとに、ゴブリンのHPがモリモリ減っていく。
「起きろオラぁ! こんなモンじゃねぇぞぉ!」
おっさんはぐったりしたゴブリンを無理やり起こし、引きずり回す。
魔物がかわいそうになるぐらい、あまりにも一方的な戦いだった。
なんか知らんがメチャクチャ強い。ていうか怖い。
……これやべえやつだ、やべえの呼んじゃったよ。
「っしゃキメるぞーっ!!」
おっさんは高らかにそう宣言すると、背後からゴブリンを抱え上げて、強烈なバックドロップを決めた。
その一撃で、あっという間にゴブリンのHPはゼロになった。
魔物が動かなくなったのを見届けた後、ゴブリン殺しのおっさんはおもむろにこちらを振り返った。
俺が思わず身構えると、おっさんは俺に向かって笑顔で親指を立てた。
めっちゃいい笑顔だったが、仲間だと思われたくなかったので目をそらした。
おそるおそる視線を戻した時には、おっさんは消えていなくなっていた。
……なんだかよくわからんが、なんとかなったか。
俺がほっと息をつくと、あっけにとられた顔のレナが口を開いた。
「すっごぉい、やっつけちゃった……。ねえ、今のって……?」
「知らん。あんなおっさん俺は全く知らん」
「ウソだぁ、最後ずっとあなたのほう見てたけど」
「い、いや、別に知り合いとかっていうわけじゃなくて、今のは、たまたま呼び出したって言うか……」
「呼び出した? ってことは、あなた召喚士? スッゴぉい!」
レナがキラキラと目を輝かせて身を乗り出してくる。
召喚士て……。
あんなおっさんを呼び出す召喚士とか絶対嫌だ。
「いやいや全然、そんなんじゃないんで……」
「またまたぁ、謙遜しちゃって! それにさっきのはどんなバリア? カンペキに攻撃を防ぐなんて……一体どうやったの?」
う~んどうしよう。
神からもらったスキルだとか話しだすとややこしくなりそうだし。
「ああーっ、いたぁああっ!」
どう答えるか迷っていると、若干キチガイじみたしゃがれ声が飛んできた。
驚いて声のほうを振り向くと、ザッザッザと草を踏み荒らす音とともに、人影が近づいてくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。探しましたぞぉ……」
やってきたのは白髪の長髪に、白ひげを蓄えた初老の騎士風の男だ。
抜き身の長剣をたずさえ、頑丈そうな革鎧を身に着けている。
おっさんははぁはぁと息を切らしながら、血走った目でレナににじりよった。
今度は変態オヤジの魔物かとファイアボールの準備をすると、レナが手を振って応えた。
「セバス! 無事だったんだ!」
「レ、レナハート様……あ、いや、レナ殿こそ……よくぞ無事で……」
「この人に……えっと、トウジに助けてもらったの。すごいのよ、なんとさっきの魔物、彼がやっつけちゃったの!」
「た、倒した……? あのマスターゴブリンを? そんなまさか……」
「ホントよ、ほら」
レナが倒れたゴブリンの亡骸を指さす。
セバスという老騎士が、それを見て目を丸くする。
「な、なんと……信じられん……」
「そうそう、私もビックリしちゃった。トウジがいなかったら私、今頃どうなってたか……。命の恩人だね」
「い、命の……? ど、どこのどなたか存じませぬが、ありがとうございます、ありがとうございます……!」
おっさんがぺこぺこと頭を下げてくる。
凄まじい勢いで感謝された。
にしてもいきなり命の恩人って……。この人もだが、レナも大げさすぎだろう。
それに厳密にあの魔物を倒したのは、ゴブリン殺しのおっさんなわけだが。
……まあそれはいいか。
にしてもこの二人、一体どういう関係なんだ?
親子……ではないだろうし、それにしたって年が離れすぎている。
「待ってください、その男、少し怪しい……」
その時、頭上から第三者の声がした。
かと思うと、いきなりすぐそばにシュタっと黒い人影が降ってきた。