ブヒオークキング
「帰れ」
開口一番俺はそう言った。
これ以外、言うことは何もない。
「そんなぁ、ひどいですぅトージ様ったら」
「白々しいぶりっ子はやめろ。お前、どういうつもりで……あっ、さてはあのブヒオークはお前の仕業か!」
「違いますよぉ、トージ様ったら、ひどぉ~い。そんなことより、お願いがあって……」
アムが妖しい微笑を浮かべながら、腕を絡ませようと擦り寄ってくるので、しっしっと手で追い払う。
「あんなのをけしかけて、どういうつもりだ? 今度こそバラバラにされても知らないからな」
その一言でアムは何か思い出したのか、さっと顔色を変えてあわてふためきだした。
「ち、ちゃうちゃう! 本当に、あいつらは関係ない! 今回は違うんじゃ! 命からがら逃げてきて……ハメられたんじゃ! ムホンじゃ!」
「はあ?」
「三魔族という魔王直属の配下がおるのじゃが……そいつらがいきなり裏切りおった。わらわが寝ている間に、勝手にニンゲンニナールの薬を飲まされてこのザマじゃ。人間になって弱体化したところを、拘束されそうになって逃げてきたんじゃ」
「なんじゃそりゃ? じゃああのブタはなんだったんだよ? だいたい魔王は帰ったんじゃなかったのか?」
「三魔族が勝手に魔族を率いてエデンに侵攻したんじゃ。それと今回うちのじじいは関係がない。ケツが痛いとか怖いとかでとっとと魔族領に帰った」
あのケツバットとタイキック、本当に効いていたのか……?
にわかには信じがたいな。
「そんな事言って、また騙す気じゃないだろうな」
「違う違う! 今回はマジの大マジなんじゃ! 大体おぬし、気づいとらんのか? すでに町には魔族がうようよしとるぞ!」
寝てる間にまさかの占領済み?
そんなバカな。
どうでもいいがこいつ、その顔でその口調だとメチャクチャ違和感があるな……。
「とにかくわらわは今困っとるんじゃ! 頼む頼む、助けてくれ! この体で一発やらせてやるから!」
「消えろぶっとばされんうちにな」
なんという下品なヤツだ。
なんにせよアムの言い分だけでは信用できない。
「そ、そんなこと言わずにお願い、お願いします! もう好きなだけ○○○してもいいから!」
「ええいくどい! 大体助けろったってどうやって……」
「そりゃあ、この前のように聖剣で……」
そこまで言いかけたアムが、はっと何かに気づいて俺の背後に隠れた。
何事かとアムの視線の先を追うと、なんと先ほどのより一回り大きなブタ男が、のしのしとこちらに近づいてくる。
げっ、なんかボスみたいの出てきたよ……。
武器もやたらでかいし、強そう。
お互いを盾にしようと俺達がもみ合っていると、やってきた大ブタ男が鼻息荒く口を開いた。
「ほほう、こんなとこにも家が……。オマエ、ここらで我がしもべたちを見なかったかブヒ?」
お前答えろよと、とアムと押し付けあうがラチがあかないので、俺はブタのふりをして様子をうかがうことにした。
「ブ、ブヒブヒ……? (いえ、見てませんが?)」
「ほう、オマエ、ワレワレの言葉をしゃべれるのかブヒ? 必死に勉強するなんて人間のクセになかなか見所があるブヒ」
誰が勉強なんかするか。
ブタ語マスターしようとする奴なんているわけねえだろ。
「ええっと、そちらは……?」
「ワレこそは三魔族の一人、オージーだブヒ。ふぅむ、折衝役として、オマエを特別に手下に置いてやってもいいブヒ。これから先、通訳ができる存在は貴重だブヒ」
このブタ、ボスらしく人間の言葉がわかるらしい。
それでも語尾が無理やりブヒブヒしつこいが。
ちょっとブヒブヒ言ってみたら変に食いついてきやがった。
なぜ俺がブタの下につく流れになっているのだ。
「エデンはすでに陥落寸前ブヒ。これからここに我ら三魔族を中心とした、新たな国家を樹立するブヒ。なので相応のポストを約束されているワガハイに、精一杯コビを売っておいた方がいいと思うぞブヒ」
えぇ、マジでそんなことになってんの?
エデンの国ちょっと色々脆すぎんよ~。
「えぇっと、そうなったらこれから先人間はどうなるんで?」
「安心するブヒ、おとなしくしていれば命までは奪わんブヒ。ワレワレはあくまで話し合いで王を降伏させ、これから奴隷としてニンゲンをこき使ってやるブヒ。だが逆らうなら容赦はせんブヒ」
なるほど、とりあえずへーこらしておけば、今のところ殺されはしないわけだ。
とはいえこのブタに媚びへつらうというのも、ちょっとキツイものがあるな。
見た目かなり強そうだが……見掛け倒しという可能性もある。
俺はこっそりどんぶり鑑定スキルを発動した。
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名前 ブヒオークキング
種族 魔族
HP めっちゃ多いやん……。
MP まあまああるやん……。
筋力 あかんわ……。
体力 ヤバイわ……。
敏捷 意外とあるわ……。
知力 そこそこな……。
運 知らん!
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なんでいきなりテンション落ちてんだよコイツ……。
それだけ強いっていうのは伝わってくるが……。
俺がブヒブヒ言って有能さをアピールするか迷っていると、背後からアムがこそっと耳打ちしてきた。
「このブタはパワーだけはシャレにならんのじゃ。捕まったららめぇひぎぃされてしまう」
「みたいだけど……大体お前より格下なんだろ? どうにかなんないのかよ」
「わらわが本来の姿だったらこんなブタ男、とっとと焼きブタにして出荷しとるわ。だが今、わらわの力は人間の娘並、いやそれ以下なのじゃ。サキュバスとしての力は半減、魔法力はなきに等しい」
本当にこいつ、そんなに強いのか……?
正直土下座ばっかりしているイメージしかないので、なんとも想像がつかない。
「オマエラ、なにをイチャイチャしとるかブヒ。あー何かムカムカするブヒィ、オマエ、友好の証にその女を差し出すブヒ」
「はい、どうぞご自由に」
「あっ、ちょ、ちょい! バカモノ、この流れで言うとおりにかよわい女子を差し出す男がどこにおるか!」
「だってお前魔族じゃん。しかも魔王の娘っていうバリバリの」
「しーっ、しー!」
魔族同士、お似合いなんじゃないですかね。
そう思ったのだが、ブタ男はしばらくアムをじっと見つめた後、首をかしげ出した。
「ふ~む、しかしその女、少しビッチっぽいのが気になるブヒ。ワガハイは清楚な感じがタイプだブヒ」
「え、え~っ、そんなことないですよぉ、私の○○○○は未使用ですぅ」
最悪だこの女。
本当に最悪すぎる。
「清楚な女の子はそんなこと言わないブヒ。それにオマエ、よく見たらオレの大嫌いな奴にえらく似ているブヒ。これでは立つもんも立たんブヒ」
「そ、そうですかぁ、そ、それは残念…………ぐぎぎ……」
やっぱこいつ、魔族の中でも嫌われてるんじゃねえのか。
そりゃ謀反起こされるぐらいだからな。
アムは再びささっと俺の後ろに回りこむと、たきつけるようにささやいてくる。
「このブタはチリも残さんことが確定した。さあトージよ、さっさと聖剣でざっくりやってしまえ」
「だからその聖剣がないんだって」
「またまたご冗談を」
「いや冗談じゃないって」
そう言い張るが、アムは信じていないようで「そうもったいぶらずにぃ~」としつこい。
ブタ男はそうやってごちゃごちゃやられるのが気に入らないようで、いよいよフォーク型の武器を構えて脅しつけてくる。
「もうその女はいいブヒ。それよりもオマエ、三べん回ってブヒ、と鳴いてワガハイに忠誠を誓うブヒ」
う~ん、こうなったら仕方ない。
ちょっと怖いのであまり気は進まないが、さっさと焼きブタになってもらって身の振り方を考えるか。
俺は指先をブヒオークキングに向けて、音声認識でスキルを発動する。
「業焔」




