どんぶり鑑定
「ブブヒィ!!」
「ブヒブヒ!」
とたんに窓の外から、ブタの鳴き声がやかましくなる。
見ればブタ男が1、2、3……匹? 人?
窓に張り付いて鼻息を荒げ出した。
一体なんなんだこのブタ野郎の集まりは。
見た目は八割方ブタなのだが、それが原始人のような服を着て、明らかに直立歩行している。
顔面はブタのくせに極太眉毛とつぶらな瞳をしていて、なんともキモい。
一体全体、こいつら何者なんだ? 何が起きている……?
もしや街の住人が一夜にしてブタ男に変身してしまったのか。
うーん。見なかったことにしたいが、窓をぶち破ってこられでもしたら困る。
どうしよう、なんかよく燃えそうだしファイアボールで燃やしてもいいかな。
とりあえず丸安印の魔物鑑定で、ブタ男を鑑定してみる。
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ブヒ???
レベル??
HP ????/????
MP ????/????
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本っ当に役に立たねえなこの丸安印は。
ただの魔物じゃないってことなのか。
前々から思ってはいたが、これはいい加減まともな鑑定スキルを落とす時が来たか。
俺はブヒブヒうるさいブタを尻目に、ストアを検索する。
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スキル名 どんぶり鑑定
作成者 鑑定は鮮度が命だ神
概要
おらおら、じゃんじゃん鑑定してくぜぃ!
あぁん? データが適当すぎる?
こまけぇこたぁ気にすんなよ!
10000GP
アクティブスキル
クールタイム二秒
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こんなうさんくさいスキルでさえ10000GPとか舐めてんのかって話だ。
鑑定系スキルはやたらGPをふっかけてきやがる。
そのくせ確実に役に立つかどうかわからんのがどうも納得いかない。
一応この前のアムリルの一件で、GPは15000近く増えていた。
誰がどんだけ感謝したのか知らんが、10000ぐらいだったら何とか余裕を持ってまかなえる。
迷っている間もブタがうるさいので仕方なく落とすことに決めた。
そして早速発動。
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名前 ブヒオーク
種族 魔族
HP 割と多いぜ!
MP 多分少ねえぜ!
筋力 強いぜ!
体力 結構あるぜ!
敏捷 低いな!
知力 かなり低いな!
運 知らん!
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うーんこの。
お前に言われんでも見ればなんとなくわかるわ、という情報しかなかった。
だが名前と種族が割れただけでもよしとしよう。
美少女がブタにされてしまったというわけでもなさそうなので、遠慮なく聖剣でぶった切るか。
と俺は部屋の中を見回す。
あれれ? ないぞぉ……聖剣が。
そういえばこの前、レナがアムリルを八つ裂きにしようとして……どうしたんだっけ?
あの後、神イケボで乗り切らなかったら俺も斬られてたかも知れなくて……レナがそのまま城に持ち帰った?
わからん。
とにかくどこにも見当たらない。
俺が剣を探している間に、ブタたちは窓側からいなくなったかと思うと、今度はドンドンと家のドアを叩く音が聞こえてきた。
早く開けろといわんばかりだ。
どうする?
二階の窓からファイアボールを落っことして焼くか。
危険なのであんまり気は進まないが、最悪カグツチさんを使って……。
いや待てよ。
相手は魔族だし、ただの魔物というわけではないのだから、ここで有無を言わさず焼きブタにしたら、またも外交問題に発展する可能性もあるのか?
人間と魔族は元来非常に仲が悪いが、魔族は人間と見るやすぐさま襲ってくる、というわけではない。
魔族は魔法的な力が進化した、元をたどれば人間なのだとかなんとか。
かたや魔物には社会性はなく無秩序。
本能のままに生きる。言うなれば動物に近い。
人を襲うものもいれば、おとなしく自生するものもいる。
これらはレナから聞いた話だからどこまで本当かわからんが、話もせずに一方的に、というのはやはりあまりよろしくないだろう。
俺はおそるおそるドアに近づくと、激しいノックに答えるようにして、外に向かって声を張り上げた。
「なんだよ、何の用だよ!」
「ブヒ! ブブヒ、ブヒ……」
やべえ何言ってるかわかんねえよ……。
とはいえこのままうかつにドアを開けるのはためらわれる。
仕方ない……スキルを探してみるか。
『ブヒオーク 話す』
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スキル名 ブヒオークと話そう!
作成者 未開言語研究会
概要
ブヒ、ブブヒブヒ。
ブヒブヒッ、ブヒヒ……。ブヒヒ。ブヒブヒ。
1000GP
パッシブスキル
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なんだよこれ……色々大丈夫か?
本格的といえば本格的なのか。
俺はスキルを落とし、改めてドア越しに外に向かって話しかける。
「ブ……ブヒヒ? (あの何か、ご用で?)」
「ブヒヒブヒ! (さっさと開けんかいワレ!)」
「ブヒブヒブブヒ! (おるんはわかっとんのやぞ!)」
やっぱそういう感じなのね。
それでも無理やり窓をぶち割ったりして入ってこようとしない辺り、何かあるのかもしれんが。
しかし不気味だ。パッシブスキルをオンにして口を開いたら、なぜかブヒブヒとしか言えなくなった。
どうしようずっとこのままだったら。
一度スキルをオフにして、しっかり声が元に戻るのを確認していると、背後で足音と人の気配がした。
少し驚いて振り向くと、そこにいたのは寝巻き姿のイズナだった。
アホ毛よろしく寝癖で髪を立たせながら、ぼーっとした顔で歩いてくる。
どうやら寝起きらしい。いや起きてすらいないかもしれない。
この世界のネコの習性がどうだか知らんが、イズナは朝にメチャクチャ弱い。
それがふらふらとやってきて、扉の前の俺をずいっと横に押しのける。
そしてそのまま、イズナはガチャっとドアを開けた。
「え?」
「ブヒ?」
俺とブタ男はお互いあっけに取られた顔でご対面。
ドアを開け放ったイズナはというと、外へ一歩踏み出すやいなや、いきなり下半身に身に着けているものを下ろした。




