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神スキルストアで楽々異世界ニート生活 ?  作者: 荒三水
二章

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54/87

……どこに行ってたの?


 俺が振り向いた視線の先。

 

 そこにはどういうわけか、レナが体育座りをしながら首をうなだれて眠っていた。

 わざわざ戸棚と戸棚の間の狭いスペースに入って。


 やはりこれはまだ酔いが……とまぶたをまたたかせるが見間違いではない。


 謎の奇行に混乱していると、グラスが落ちた音で気がついたのか、レナがゆっくりと目を開く。


「あ……トウジ……」


 レナは一度眠たそうに目元を手でこすると、その場に立ち上がった。


 どうしてそんなところで寝ている……?

 という疑問が当然浮かぶわけだが、なぜだかいきなり聞くのはためらわれた。


 レナは家の合鍵を持っているので、俺がいないうちに入り込んでいてもなんら不思議はない。

 ……ではないのだが、だからと言ってそんなところで寝ていた理由とは関係がない。


「な、なんだ、いたのかレナ……」

「起きたんだね。おはよう」

「お、おはよう……」

 

 やはりレナの様子がどうもおかしい。やたらにテンションが低い。

 視線も伏せがちだし……何か知らんが得体の知れない負のオーラを感じるような。


 とはいえこのままスルーするわけにもいかんだろう……。

 なんとなく嫌な予感をさせつつも、俺はおそるおそるレナに尋ねる。


「な、なんでそんなとこで、ね、寝てたの?」

「それは……ほら、トウジが寝てたから、起きるまで待ってようとしたら……そしたら私も寝ちゃったみたい」


 微妙に質問に答えられてない系。

 空き部屋はあるしベッドも余ってるし、居間にはソファーだってあるのに……。


 そんな俺の腑に落ちなさそうな顔を見て、レナは変な間を作った後、ゆっくりと口を開く。


「……トウジの邪魔しないように目だたないように……って思ってたら、ちょうどいいところを見つけたから」

「ちょ、ちょうどいいって……。ていうか急にどうしたのそんな、邪魔とか何とか……」

「だって昨日……また来るって言ったのに、トウジ、いなくなってたから……私、避けられてるのかなって思って……。私が、色々うるさいからだよね……邪魔だよね……」


 ただでさえ元気のないレナの声が、みるみる小さくなっていく。

 そりゃレナには何も言わずに出かけたけど、たった一日ぐらいでそんな……。


「ごめんね、もううるさく言わないから……好きなだけ、げーむやっていいから……」

「あ、いや、違う違う! 昨日は全然、全然レナは関係ないから。ちょっと用があって、出かけてただけで……」


 ヤバイ、ここらで弁解しておかないと、勝手にレナが一人でよくわからないほうへ暴走してしまう。


 やったゲームやっていいんだラッキー、なんて冗談でも言える雰囲気ではない。


「え? そうなの?」

「そ、そうそう。全然、レナが邪魔とかウザイとかそういうんじゃないから」

「なんだぁ、そうだったんだ、よかったぁ……」


 レナは胸に手を当てて、ほっと息をついた。

 同時に辺りを包んでいた重苦しい空気が消える。

  

 ……いやー何か怖かった。今ので酔いもすっかりさめた気分だ。

 しかしいくら邪魔したくないからと言え、その謎スペースにハマろうという発想はどうなんだ。

 

 俺のそんな心配もどこ吹く風、レナはまるで別人のようにすぐに笑顔になって詰め寄ってくる。


「それで、昨日どこ行ってたの?」


 ……なるほど、結局この質問からは逃れられないわけだ。

 すごくにこやかに笑っているけど、なぜだろう、これはこれで怖い。


「昨日は、まぁ、その、ギルドとか……」

「ギルド? でもなんかお酒臭いよ?」

「いやこれは流れで、その、飲まされて……」

「やっぱりお酒飲んでたの? いいなぁ~、私も飲みたかったなぁ」

「いやぁ、レナはやめておいたほうが……」

「なんで!? ずるい、ずるい! トウジだけそうやって!」


 ずるいって言われてもね……。

 正直レナに酒は飲ませたくない。


「それで、誰と、飲んでたの?」

「だ、誰と?」

「だって一人じゃないでしょ? 服から、香水みたいな匂いがするよ?」

「に、匂い?」

「うん。匂いがする」


 エミリの部屋は、香か何か焚いていたのか、多少匂いはあったが……。

 それが俺の服に移っているのかは、自分ではわからない。

 恐るべしレナの嗅覚……。


 レナはじーっと俺の顔を見詰めがら、ひたすら返答を待っている。

 何か下手な嘘でもつけば、一瞬で見抜いてきそうな隙のない眼光。

 

 やましいことはないのだから(多分)、ここは正直に言ったほうがいい。

 と俺の生存本能がそう告げている。


「昨日レナが帰った後、イズナにパワー負けしてこのままではいけないと思った俺は、ふと転職しようと思いたち、エミリに転職をお願いしたが、なぜか酒をガンガン飲まされて、あまり記憶も定かでないままに家に帰り着いていた」

 

 ありのままに、昨日起こったことを話したぜ。

 少しでも間を作るのが怖かったので、一気に説明したら前回のあらすじ風になってしまった。

 

「ふーんそうなんだぁ、へー」


 レナは片時も俺の目から視線を離さずに、相槌をうつ。

 若干棒読み気味なのが怖いが……まあ大丈夫だろう。


「それで、エミリさんって、今……」

「さあ? ギルドで働いてるんじゃ?」


 昨日は本当、なぜあれほど機嫌を損ねたのかさっぱりわからん。

 結局、ズルしないでまともにレベル上げして来いってことなのかもしれんが。

 

「ねえ、これからギルド行こっか」

「へ? そ、それはどうして……?」

「今日こそは、お出かけがしたいのです。それにほら、そろそろ何かクエスト受けてこなして見せないと、追い出されちゃうし……」


 そういえばそんなのもあったか。すっかり忘れていた。

 俺が登録したての最低ランクの冒険者だとレナがうっかりしゃべってしまい、そこも王に反対されるポイントになったらしい。


 王様に嫌われようと別にどうでもいいんだが、家を追い出されるのはちょっと困る。

 

 しかし昨日の今日で、エミリとは顔を合わせづらいなぁ。

 まあクエストを受けるだけなら、そうそう鉢合わせすることはないとは思うけど。

 

「……あの、もしかしてイヤ? 私と出かけるの……」

「い、イヤじゃないですけど……」

「よかった。それじゃ準備して行こっ」

 

 レナが弾んだ声で俺をそう促す。

 あまり気は進まなかったが、結局俺はせき立てられるままにレナとともにギルドへ向かった。

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