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ファイアボール(エネルギー50%カット)

 

 声は、若い女っぽい感じだった。

 もちろんゴブリンが叫んだわけじゃない。

 

 俺はその声にギクっとして、スマホを取り落としてしまう。

 すぐに拾い上げたフシに、思いっきりゴブリンと目が合った。

 

 ――やべ、気づかれた?

 

 案の定、ゴブリンが棍棒を振り上げて、こちらに近づいてきた。

 明らかな敵意を感じる。

 

 こうなるとじっくりステータスなんて見ている余裕はない。

 再びスキルストアを立ち上げて、こことばかりに高速フリック入力をお見舞いする。


「学生時代に打ち込んだことは?」「キーボードです」

 を地でいく俺に死角はない。

 アニメ実況、掲示板でのレスバトル、オナニー小説の執筆などなど。

 

 パソコンがぶっ壊れてからは、キーボードでやるようなことを全部スマホでやっていたぐらいだ。

 なので入力は我ながら引くぐらいに早い。


 それにわからないことをすぐに人に聞けないコミュ障特有の病気をわずらっていたため、代わりにすぐネットで検索するクセがついている。

 ここで期せずして、俺の長年培ってきたネットサーフィンスキルが生きる。 


 で、どうするかというと、やっぱ魔法でしょ。

 ゴブリンを倒すのにそんな大掛かりなのはいらないから、こんな感じか。

 

『攻撃魔法 手軽』


 

 ――――――――――――――――――――― 

 

 スキル名 ファイア・ボール(エネルギー50%カット)

 作成者 コスパ神


 概要

 シンプルなファイアボール。

 どんなシーンにも取り回しが利く、

 マストな攻撃魔法。


 1000GP


 アクティブスキル

 クールタイム30秒

 

 ――――――――――――――――――――― 


 あったあった、これでいいや。

 

 すぐにスキルを落として、発動。

 すると、新しく文字が表示される。



 ターゲットを選択してください

 

 ゴブリン

 ???

 


 ???って何だ?

 他に誰かいるってことか? 

 少し戸惑ったが、とりあえずそのままゴブリンへ向かってスキル発動。


 ボウっと中空から飛び出た火の玉が、放物線を描いて標的へと命中した。

 ゴブリンの奇声とともに、火が燃え上がる。

 やがてその体がどさっと倒れるとともに、炎は消えた。

 表示されているゴブリンのHPはゼロ。

 

 思いのほかあっけなかった。

 この魔法、意外に強いのかもしれない。 

 

 しかし本当に魔法が使えるなんて、ちょっと感動。

 改めて、異世界に来たっていう実感がわいてくるね。


 とりあえず魔物は撃退した。

 かと思えば、またもザザザっと、草を踏み分ける音が近づいてきた。


「大丈夫ー!?」

 

 息を切らしてやってきたのは、騎士っぽい格好をした人間の女だった。

 ゲームによくある謎防御力の露出が高い鎧みたいなのを着ている。

 

 えらく完成度の高いコスプレのようだ。

 いや、エロコスプレか。その太もも丸出しはいかんだろ。

 あとおっぱいがでかい。


「よかった~、無事みたいね」

 

 さっき危なーいとか大声を出したのはこいつか。

 危ないも何も、変に声を上げなかったら、気づかれなかったかもしれないのに。


「あれ? 普通のゴブリンね」


 女は魔物の死体を見下ろして言った。

 ポニーテール状に結わえた、長い金髪が揺れる。


 そっと横顔を盗み見る。

 透き通る白い肌と、大きな青い瞳。

 一見はつらつそうで、どこか気品ただよう顔立ち。


 年は17、8ぐらいか。多分俺よりも若い。

 あとおっぱいがでかい。


 ……ヤバイ、とんでもない美少女だ。

 例えるなら、フォトショでがっつり修正済みのコスプレイヤーがそのまま出てきたような。

 思わず見とれていると、いきなりこちらを振り返ってきたので、慌てて視線をそらす。


「ん~?」


 なにやらじーっと顔を見られているが、DTの俺には見つめ返すなど不可能である。

 だが待てよ、この食いつきよう、まさか早速雰囲気イケメンスキルの効果が出ているのか?

 いやーつらいわ、イケメンつらいわー。

 

「こんな濃い黒髪、黒目……初めて見た」

「え?」


 ……そこかよ。

 初めて見たって、黒髪とかってこの世界じゃレアなのかな?

 なんと返すか戸惑っていると、女騎士はにっこりと微笑んできた。

 

「私はレナっていうの。あなたの名前は?」 

「え? ああ、俺は三島トウジ……」

「ミシマトージ? それってどういう……」

「あ、いや三島は苗字で……ええっと、なんつーか……ああ、トウジでいいや」

「ふぅん、トウジ……トウジかあ」


 レナと名乗った女騎士は、何度かそう俺の名前を反芻する。

 ヤバイ、女子に下の名前で呼ばれるのって、母親以外だと初めてかも……。

 

「っと、こうしてる場合じゃない、ここは危険だから、逃げましょ! さっきヤバ~いのに見つかっちゃって……」


 そう言って女騎士が俺の腕を取って走り出そうとした矢先、遠くでゆらりと影が動いたのが見えた。


 またゴブリンっぽいが、今度はでかい。

 俺とほとんど同じか、それ以上。

 

 俺はすぐにスマホを操作して丸安印の魔物鑑定を発動した。

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