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神スキルストアで楽々異世界ニート生活 ?  作者: 荒三水
二章

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嫁のメシウマ


 むくれっ面のレナに対し、俺はあくまで笑顔で応対する。

 

「今日のその服、似合ってるね」


 ここ最近、レナは毎度違う服でやってくる。


 今日はシックな色合いのワンピースだが、肩がモロだしになっていて微妙にエロい。


 お姫様というぐらいだから、着るものが有りあまっているのだろう。


 良し悪しは正直わからんが、レナのスタイルは抜群にいいのでたいていは似合う。


「……ほんと?」


 予想通り食いついた。

 俺はすかさずここでスキルを発動する。

 

 顔出し絶対NG神とかいうヤツが作った、「神イケボ」というスキルだ。

 

 効果は一定時間、俺の声が超絶イケメンボイスに聞こえる。らしい。


 イケボになった俺はすっかりイケメン気取りで、レナの耳元にささやきかける。


「うん。可愛いよ(イケボ)」


 とたんに、レナの頬が緩み出す。

 にやけそうになっているを我慢しているようだ。

 

 だが見る見るうちに、白い肌が赤く染まっていくのでわかりやすい。

 あーちょろい。レナハート様ちょろいわ~。


 まあロイヤルヒモ男の異名を持つ俺にかかればこんなものだ。

 この調子でさらにレナをデレさせてやるか。


「本当、レナは可愛いね……。(イケボ)」

「やだ、トウジったらもぅ……」

「可愛いって言われるの嫌?(イケボ)」

「嫌じゃない……うれしいけど、なんか恥ずかしい……」

「そうなんだ。でさ、もうちょっとゲーム、やってもいいかな?(ブサボ)」

「ダメ」

 

 効果時間が短いというのが玉にキズだ。


 ノリノリだったのにそんな急に真顔で返されると死にたくなるぜ。


「もう、そうやって調子いいんだから!」

 

 どちらにせよ多少レナの機嫌は直ったようだ。


 レナは手に提げて持ってきた荷物を、テーブルの上に乗せて広げる。

  

「しょうがない、今からだと時間的にも中途半端だし……。お弁当作ってきたからここで食べよ?」


 べ、弁当だと……。

 王女様の手作り弁当なんて、本来なら響きだけで胸が躍るワード。


 だが実際は、胸焼けするほどにずしっと重い気分だ。


 レナが仰々しいつくりの弁当箱を開けると、案の定怪しい色をした物体Xたちが姿を現した。


 何を隠そう、彼らとご対面するのはこれで二回目である。


「は、はは……今日は、何かなぁ。この、黒っぽいのとか……」

「それ、エデンターキーを炒めたの。ほら、トウジこの前おいしそうに食べてたから」


 あのパーティの時のやつか?

 見るも無残な姿にされて……できればもうアレを普通に食わせてくれ。


「こ、これさ、自分で食べてみた?」

「食べてないよ。トウジに一番に食べてもらおうと思って」


 いいように言ったけど、それ毒見役やん。

 いやまあ、いい子なんだよなぁ。いい子なんだけど……。


「レ、レナはさ、食べないの?」

「ん? 大丈夫、私はお城で出されたものを食べてきたから」

「そ、そうなんだ。い、いやぁ~わざわざ、その、作ってもらわなくても、レナが食べたあまりモノでも持ってきてもらえれば……」

「え? それって……も、もしかして私が作ったから嫌なの……?」

「い、いやそんなこと、ひ、一言も言ってないですけど」

 

 下手なことを言うと、何がどうなるかわからないから怖いんだよなぁ。


 しかし嫁のメシマズとかそういうの見てると、そんなもんはっきり言ってやればいいじゃんなんて思ってたが、実際その状況になってみるとこれは……。

 言えねえ。なんも言えねえ。



「はい、あーん」


 レナがフォークに刺した物体Xを、俺の鼻先に運んでくる。

 

 何があーんだ、リア充爆発しろ、なんて思ってた時はまだ平和だった。

 

 あーんからの口内テロの存在を知らなかったから。


 

 もしかしたら、今回はいけるかもしれない。

 

 そう淡い期待をこめて口に入れたその矢先、俺はうぷっ、とブツを吐き出しそうになるのをこらえる。

 

 なんというか、食材は城の厨房にあるものをもらっているというから、それ自体は決して悪くないと思うんだ。

 むしろ上質。


 だがその素材の良さを全力でぶち壊す、擁護不能なほどに意味不明な味付け。

 ある種の才能だ。


 俺は口に入れたものを、息を止めて無理やり飲み込む。


「どう? おいしい?」

「う、うん……」

「よかったぁ! いっぱいあるからね!」


 いっぱいあるのか……。(絶望)

 

 優しさが服を着ているような俺に、屈託なく笑う彼女に残酷な真実を告げることなど、できるはずもない。


 まあヘタレとも言うが。


 だがこんな時にも、神スキルが役に立つ。


 前回、藁にもすがる思いでスキルストアから発見した「嫁のメシウマ」というスキルだ。

 

 これを使えば、レナのクソまずい……あ、いやちょっと俺の好みに合わない飯も、おいしくいただけるのだ。

 

 まさに神スキル様様である。



「はぁ~食った食った、お腹いっぱい」


 結局完食した。

 味はともかく、前も腹こそ壊さなかったので大丈夫だとは思うが……。

 

 だがいくら味をごまかしてその場をしのいでも、根本的な解決にならないという悲しみを背負っている。


 いつか誰かが……いや、レナが自分で気づいてくれることを祈ろう。

 

  

 そんな俺の様子を満足げに眺めていたレナは、弁当箱を片し終わすと、すぐ隣に腰掛けて顔をのぞきこむようにしてきた。


「どうしよっか。これから出かける? それとも何かしたいことある?」

「何かって……何を?」

「何でもいいよ。トウジがしたいこと」

「じゃゲーム」

「は却下」


 何でもいいって言ったのに、嘘つき。

 

 ああ、ゲームがやりたい……。

 期間限定イベントが……。限定ドロップが……。

 

「何でもいいって言ったのに……」

「だって私のこと放置するでしょ。かまってくれないから嫌なの」


 うーん、そういう事は直球で言えるのがさすがプリンセス……。


 これまでもその片鱗はあったが、最近は本性を現したとばかりにワガママに……。


「あ、今ワガママだなこいつって顔したでしょ!? そんなことないから、私トウジの言うことだったら、なんでも聞くから」


 また何でも何でもって、極端すぎる。

 謎の私わがままじゃないからアピールも露骨になってきた。


「じゃあお手」

「はい」

「お座り」

「はい」

「おっぱい」

「は……えっ?」

「すいません冗談です」


 いや、本当にお手してお座りしてきたから、つい流れでね。

 半分お約束みたいなモンで……。


「ってちょっと!」


 のはずが、何を思ったかレナは腕に抱きつくようにして、ぎゅむっと胸を押し付けてきた。


 そしてまるで「どう? 私のおっぱいは」と言わんばかりに、上目遣いに意味ありげな微笑を浮かべてくる。


 本当に、最近様子がおかしい。


 エロに抵抗がなくなってきているというか、目覚めたと言うか。

 

 なにか怪しい魔法でもかけられているのではと勘ぐるレベルで、急激にレナの淫乱化が始まっている。


 これではレナハートならぬエロハート様である。

 

 まあこっちとしてもそれは望むところではあるのだが、立場上、向こうからそういう風にこられるとそれはそれで困るわけで……。


 困惑しつつも胸の谷間から目をそらすと、その時レナの手元で、キラリ、と何かが光った気がした。


 ――今のは、俺があげた指輪……?

  

 少し不審に思って言及しようとするが、その間もなく、レナは「んー」と俺に向かって唇を突き出してきた。

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