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神スキルストアで楽々異世界ニート生活 ?  作者: 荒三水
二章

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48/87

神ゲー

 

 素晴らしい茶番劇から、十日ほどが過ぎた。

 

 あの時、空気を読まずにだが断るを華麗に決めた俺が、果たしてどうなったか。


 まあ色々と細かい紆余曲折はあったのだが、結論から言うと……。


 俺は依然として無職のまま、昼間からベッドの上でゴロゴロしていた。

 

「さて今日のクエストは、と……」

 

 だが安心して欲しい。 

 俺は何も意味もなく屋内に引きこもっているわけではない。


 ベッドに寝転がりひたすら天井を見つめているだけ、とかそういう精神がどうかしてしまったというわけではない。

 

 俺はこうして部屋にこもりながらも、立派に大冒険を繰り広げていた。



 ……ゲームの中でな。

 


「っしゃー来た、五倍特攻スキル発動、これで勝つる!」

『待て待てあせるな、ガードが切れるまで我慢するのだ』


 俺が今、マジックウィンドウをフルに使ってプレイしているのは、

 

『ザ・ゴッドオブワールド』という名前のゲームだ。略称を神世界という。

 

 これぞ神々をも廃人にすると言う、神の作りしゲーム。次元を超えた規模でプレイされているMMORPGだ。

 

 このまさに文字通り神ゲーを、ついこの前俺はスキルストアで発見してしまったのだ。


 これまでゲームを探すという発想がなかったのが悔やまれるほどに、これはヤバイ。


 リアルを凌駕する超美麗グラフィック。 

 凄まじい自由度を誇るキャラクリエイトから、途方もないスケールのオープンワールド。


 原始から中世ファンタジー、サイバーパンクな近未来と多種多様な舞台をまたに駆けた壮大な世界観。


 もうね、こんな三流ファンタジー世界でリアルやってる場合じゃないね。

 

「よっしゃアダマント鉱石ゲットォ!!」

『な、なにっ! 今すぐ3000GPでわたしに譲るのだ』

「いやいやご冗談を」

 

 チャットの相手は例の幼女神だ。 

 ムツノとはフレンドとして一緒にこのゲームを遊んでいる。


 当然のようにヤツは廃人クラスのガチ勢だった。

 あのクソ幼女にいつか復讐を、と恨んだこともあったが、今ではすっかり仲良しになってしまった。


『むぅぅ……このわたしがわざわざレベリングを手伝ってやっているのだぞ、そのぐらい……』

「よっしゃ一気に3レベルアップ! 次は何のスキル習得しようかな、迷うなー」


 いやー楽しい。まさにこれぞ至福の時である。時間が過ぎるのを忘れるね。


 まさか異世界に来てまで、ゲームができるなんて夢にも思わなんだ。

 

 それも文句の付けようのない神ゲーを。

 いやぁ、転生して本当によかった。


 

 そうやってベッドに寝転びながら、上機嫌でウィンドウを操作していると、いきなりバタンと部屋のドアが勢いよく開かれた。


 その物音で、俺ははっと我に返る。


 しまった、もうこんな時間……。

 

「トウジ! なんでまだそんな格好……今日は出かけるって言ったでしょ!」


 そう言って、えらい剣幕で詰め寄ってきたのはレナだった。

 

 今日こそは許さねぇぞと腕組みをして、こちらを見下ろしてくる。


「あー……、いや、今日はちょっと、その、風水的なアレが悪いというか……」

「またそうやって! どうせまた、げーむ、やってるんでしょ!」

「うぐっ……」

「最近、ずっとそればっかりじゃん!」


 ああ、我ながら本当、バカなことをしたと思う。


 基本的に俺以外は、このウィンドウの画面を見ることができない。


 だがマジックウィンドウのスキル設定次第では、第三者に見せることも可能なのだ。


 そこで俺は一度、レナにこのゲーム画面を見せてやった。

 そしていかにこのゲームが素晴らしいか、力説した。


 このゲームにはリアルをやめる価値があると、そう説得を試みたのだ。

 だがどういうわけか、全く理解が得られなかった。

 

 レナは最初こそものめずらしそうに俺がゲームをするのを見ていたが、モノの数十分とたたずに、「つまんない」と言い放ちやがった。


 まあ、そりゃ見てるだけじゃつまらんのかもしれんが……それだけではない。

 

 あろうことかこの女、「それってやって何の意味があるの?」と全ゲーマーを敵に回す発言をしやがった。


 挙句の果てには「それって遊んでるだけでしょ?」「ちゃんとして」などと数々の暴言を吐いてくる。


 ちゃんとしてってなんやねん。漠然と人格を否定するようなのはやめてほしい。


 まあ、遊んでると言われれば遊んでるんだけど、ゲームイコール悪みたいに言われるのはちょっと心外なわけだ。


 とにかく、こうして早くも価値観の違いが如実に現れてしまった。


 本来なら、「どこでなにをしようが俺の勝手だ、ほっとけ」と突っぱねたいところだが……そういうわけにもいかない。


 なぜならそれは、俺の立場が弱いのだ。



 実を言うと、今俺がいるのはあの宿屋トマリギの一室ではない。


 ここはエデンの街の中心からはやや外れた、それなりの大きさの一軒家だ。

 

 元はさる貴族が住んでいた空き家らしいが……それが一時的に俺にあてがわれている。

 

 簡単に経緯を説明するとこうだ。


 レナは俺をプリンセスナイトにして、王宮に迎え入れようとした。


 だが俺、断る。理由、なんか色々とめんどくさそうだから。ニートできないから。


 それを正直に言った。するとレナは、


「そんなことないよ! 別にトウジの好きにしていいから!」


 とすごい勢いで返してきたが、そう簡単には信じられずまごついていると、


「やっぱり私に魅力がないからダメなんだよね……。トウジの好みになれるように頑張るから、お願い!」


 とおっぱいを押しつけ気味に懇願されて、さすがの俺も断れず。

 

 だが後でよくよく聞けば、結婚うんぬんはレナの先走りだったらしく、王様(いまだ面識はない)が当然猛反対。


 しかしレナハート様食い下がる。

 

 かなり揉めに揉めて、結局もう少し様子を見ろ、ということで落ち着いたらしい。


 こうして俺がこの家をあてがわれて住んでいるのは、そうまで言うなら一度、擬似的に同居をしてみろ、とのことだ。 

 

 だがこれにも、王じきじきに、色々と約束事を決めてきたという。


 かならず一日一回は、父に顔を見せること。呼び出しには、最優先で応じること。

 門限あり。寝泊りは必ず城に帰ること。

 

 などなど、細かく言い出したらキリがない。俺もほとんど把握していない。


 それで今は、レナが通い妻のような、よくわからん状況になっている。


 しかし一つでも破ったら即終了らしいが……意外にもレナは抜け目なくこなしているようだ。


 まあ、実際終了して困るのは家を追い出される俺なんだけどね。


 そうでなくとも、俺がレナに愛想をつかされた時点で終了。一気にホームレスへ。

 

 いやお前働いてどうにかしろよ、と言われたらそれまでだが、俺はすでに、すっかり神ゲーの魔力に取り付かれてしまった。

  

 なので、レナのご機嫌をうかがいつつ、コソコソゲームをやる。


 もしくは汗水たらして、はわからないけど、とにかく働いて、残った時間で堂々とゲームをやる。

 

 要するに、このどちらを選ぶかということだ。


 だが後者の場合、働けば必ず金が入ってきて、住むところも確保できて、という保証はない。


 できたとしても、ゲームをやっている時間などないかもしれない。  

 今すぐそっちを選ぶリスクは高いのである。

 

 もちろん俺もいつかは自立する気ではいるけど、何かいい感じに金を稼ぐシステムを発見してからでも遅くはない。

 

 これはつまり、あれだ。

 明日から本気出す。


 よって今の俺がすべきことは、ニートが親の機嫌を取るように、すっかりおかんむりなレナハート様に媚びへつらうことなのだ。

 

 これはニートを志すものが身に着けていなければならない、必須スキルともいえるもの。

 

「もー! 今日は早く起きて準備しておくって言ってたのに!」

「やーごめんごめん、悪かったよ。それにしてもさ……」

  

 そこで今からこのご機嫌斜めなレナをデレデレにしてみせよう。


 俺が生前培った媚びへつらいスキルと、神スキルを駆使してな。


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