賢者デレタイム
「ふぅ……。どうやらあたしの早とちりだったようだ」
ふぅ、じゃねーよ。
どういう和解の仕方だよこれ。
ただの賢者タイムじゃねーか。
「これに懲りたら、むやみに切り落とそうとするのはやめろよ」
「うむ、それにしてもなかなかよかったぞ。次もまた頼む」
また頼む(キリッじゃねえよ、風俗に来たおっさんか。
全く、なにをカッコつけてんだか。
勝手に満足そうな顔しやがって。
いいからさっさと離れろと、イズナを引き剥がそうとする。
するとヘタったシッポの根元の部分に、紐で何かがくくりつけられているのに気づいた。
「ん? それなんだ? シッポにくっついてるの」
「……む?」
本人も気づいていなかったらしい。
代わりに紐を取って解いてみると、縛ってあったのは小さく折りたたまれた紙だった。
紙を広げると、ヘタクソな地図と汚い文字が書き連ねてあった。
「なになに……女はさらったぞ、返して欲しかったらここまで来いバーカ」
「なんだと!? やっぱり犯人はおまえか!!」
「いや俺じゃねえよ! これに書いてあったのを読んだだけだよ!」
いきりたつイズナの顔に、押し付けるように広げた紙を見せる。
「ぬぅ、ここは……街外れにある廃屋か? もしやここにレナ様が……」
女、としか書いてないけど、やっぱレナのことなのかねえ。
この紙は、昨日の夜イズナが酒場で酔いつぶれている間にでも、何者かにくくりつけられたのかもしれない。
となるとやはり、レナは俺と別れた後すぐ……?
「……ということは、今頃レナ様はならず者達に囲まれて、今度こそくっ殺せ的な……」
「お前それ好きだな。ていうかなにちょっとわくわくしてんだよ」
「これは……想像しただけで欝○ッキ不可避です」
「欝○起言うな! まったく、この際そのシッポ、俺がその剣で切り落としてやろうか」
「ひぃぃっ、なんてことを言うこの鬼畜め! 人の心がないのか!」
イズナはさも大事そうにシッポを隠すように体に巻きつける。
ついさっき自分で人のをやろうとしたくせにどの口が言いやがる。
「まぁ冗談はさておき……」
イズナは急に真顔になって、切り落とし丸を拾い上げた。
反射的に一瞬身構えるが、イズナは剣を小さな鞘に入れて懐にしまっただけだった。
「お前、助けに行くつもりか?」
「あ、当たり前だろう……」
と言いつつも、ビビっているのか声が若干震えている。
あれだけ元気だったシッポも、すっかりヘタってしまっていた。
紙には果たし状よろしく「必ず一人で来い、そうしないと女は殺す」と書いてある。
どこまで本気かわからんけど、物騒なもんだ。
身代金を要求するってわけでもないし、目的がよくわからないところが不気味だ。
それはきっと、イズナも同じことを思ってるのだろう。
いつになく神妙な面持ち。血の気が引いているようにも見える。
「いいよわかった、俺が代わりに行くよ」
「え……」
「元をたどれば、俺に責任があるしさ……。ちゃんと家まで送らなかったのが悪いし」
そんな意外そうな顔しなくてもいいだろ。
どんだけ俺って信用されてないんだか。
「いやでも、それはあたしが……」
「ご指名があるわけじゃなし、俺が一人で行く分にはなんも違反はしてないしな」
どの道イズナ一人に任せるのは危険すぎる。
絶対になにかしかやらかすだろうし。
これでコイツも戻ってこなかったら、異世界に来て早々に、今後ずっと目覚めが悪いことになる。
「な、ならあたしは、影ながら援護を……」
「いやいい、いい。そういうのいらんから。バレたらまずいし」
影ながら邪魔されるとこっちもしんどい。
ことごとく拒否られたイズナは、「う~……」と一人で頭をひねって唸っていたが、何か思いついた顔で懐から再び切り落とし丸を取り出した。
「これ……」
「ん?」
「貸してやる」
「え、いいのか?」
こくり、とうなずいて、短剣を差し出してくるイズナ。
さっきあんだけ返せ返せと騒いだくせに。
どうやら短剣は無職でも装備可能なようだ。
聖剣もあるっちゃあるけど……人間相手だったら、こっちのほうが役に立つかな?
それと回復の効果があるという、緑色をした団子のような物体を一つもらった。
短剣とまとめて魔法の道具袋に入れて、聖剣と一緒に腰にくくりつける。
これとスキルストアがありゃなんとかなんだろ。
ただネックになるとしたら、残りGPだが……。
あかりちゃんに吸われたGP? いえ依然として後悔してませんけど?
ふと、落ち着かない様子でじっと俺の顔を見上げているイズナと目が会う。
……うーん、コイツはなぁ、俺に感謝なんてしそうなガラじゃなさそうだけど。
何か言いたそうにしているので、聞いてやる。
「ん? なんだよ」
「あ、その……えぇっと……あ、ありが、とう……」
「お、おう……」
意外に素直なところもあるようだ。
それはそれで、ちょっとやりづらいわけだが……。
「……ほんとうに、大丈夫か?」
「たぶんな。それより俺にもっと感謝しろ。GPさえありゃきっと楽勝だろうし」
「???」
「まあ、任せとけ」
不思議そうに目をぱちくりさせているイズナの頭を、ぽん、と軽く撫でてやる。
なんてイケメンなんでしょう僕。
「はふぅ……」
「おい、また感じてんじゃねえよ……」
……やっぱどうもしまらないな。
カッコよく決めようと思ったのに。
最後に地図の場所をイズナに確認すると、俺は急ぎ足に宿を出た。




