切り落とし丸
「そんなもので、この切り落とし丸とやりあうつもりか? くっくっく、ならばこの切れ味、見せてくれよう」
イズナはにたり、と得意げに笑うと、変なポーズで短剣を構えた。
本当、物騒な名前だこと。
なにやら剣先が俺の股間を向いているんだが気のせいか。
「お、おいマジでやめろよ? シャレじゃすまないからな? おとなしく剣をこっちに渡せ!」
「ふん、誰が渡すかバカめ」
だが言葉とは裏腹に、イズナはすぐに短剣を差し出してきた。
ご丁寧に持ち手を向けて。
え? これって……?
流れで言ってみただけなのだが……もしやネコじゃらしの効果か?
戸惑いながらも剣を受け取ると、イズナが素っ頓狂な叫び声を上げた。
「に、にゃぎゃああ!? なぜだ!? なぜ渡したあたし!?」
頭を抱えてパニクっている。
どうやら本人も無意識に従ってしまうものらしい。
「ふっ、形勢逆転だな。よし、イズナよ、次は俺に絶対服従を誓うがよい」
「誰が誓うか!」
と口では言いつつも……?
あれ? やっぱ効いてない?
ふと気づけばネコじゃらしは俺の手から消えていた。
ウィンドウを確認すると、スキルはクールタイムに入っている。
どうやら命令は一回の発動につき一回限りのようだ。
今回は剣を渡せ、で終了してしまったのか。
ちっ、どうせならもっとエロい命令をしてやれば……。
っと、冗談冗談。昨日の今日で、人を盛りのついた中学生のように思われたら困る。
剣は取り上げたし、結果オーライだろう。
とにもかくにもこの剣、なにか嫌な感じが……。
気になって仕方がないので、スキルで鑑定してみる。
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ヴォーパル・グラディウス
種別 短剣
ランク ??
攻撃力 490
種族特攻 人間(クリティカル40% さらに一定確率で即死攻撃)
???
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やっぱりヤバイやつじゃんこれ……。
ガチで切り落とされる奴じゃないのか?
「か、返せーっ!」
「うわっ!」
そうこうしている間に、イズナが剣を取り返そうと飛びかかってくる。
やたらすばしっこく、抱きつかれるようにして押し倒され、剣を取り合ってもみくちゃになる。
「切り落とし丸はあたしのだあたしのだぞー!!」
「や、やめろ、離れろ、このっ!」
こんな凶器を渡すわけにはいかない、ムスコは俺が守る!
と抵抗をするが、レベル差かなんか知らんが、パワー負けがヤバイ。
だがこんなちびっ子に力で負けるわけにはいかん。
今後のパワーバランスに関わる問題だ。
ここらではっきりどちらが上か、わからせてやらねば。
そしてもみ合うこと数秒後。
俺はイズナによってがっつりマウントを取られていた。
馬乗りならぬネコ乗り。
どう見ても騎上位です本当にありがとうございました。
しかも剣まで奪い取られるという体たらく。
「にゅふふ、さあ観念しろ」
イズナはかすかに頬を上気させながら、俺のズボンに手をかける。
……ってちょ、待て待て、なぜ死刑執行の流れになっている。
「あの、イズナさん? 一体、なにをなさるおつもりで……?」
「にゃはは、安心しろ、ちょっとためし切りするだけだ」
「いや試すもなにもねえよ!? また生えてくるとかそういうんじゃないから!」
必死に止めようとするが、イズナは全く聞く耳持たない。
やべえよこいつ、目が据わってるぞ……。
これはいかんとばかりに、藁にもすがる勢いで体を起こして、闇雲に手を伸ばした先。
ぎゅうっと、何か細長く固いものを掴んだ。
「ひゃぅんっ!!」
そのとたん、イズナの体がビクンと跳ねる。
これは……? と起死回生の糸口を得た俺は、さらに強く握っていく。
「うにゅ……い、いまシッポは……だ、だめ……」
俺が掴んでいたのは、ぴんと立ったシッポだった。
たしか興奮すると立つとか言っていた気がするが、一体何を興奮してやがるんだこの変態ネコめ。
だがどうやらこれが弱点らしい。
ここぞとばかり、俺はシッポを上下に激しくさすってやる。
「んっ、……んんぅ……」
悩ましげな息を吐きながら、ぐたりと力が抜けたように、俺の胸元にしなだれかかってくるイズナ。
すると今度は、撫でてくださいと言わんばかりに、頭からぴょこんとネコ耳が立つ。
ならばと、今度は片手で耳をくすぐりながら、シッポへの刺激を続ける。
しばらくそうしていると、イズナはグルグルと喉を鳴らしだした。
手からはだらりと力が抜け、今にも剣を取り落としそうだ。
よし、もうちょっとで……。
さらに手の動きを激しくする。
すると、徐々にイズナの吐く息が荒くなり、呼吸が上がってきて……。
「んぅぅっ!!」
ゴトっと剣が床に落ちた。
同時に、イズナがビクビクと全身をこわばらせて痙攣させる。
……ふっ、逆転勝利だ。
これでなんとかムスコは死守した。
コイツも嫌でも思い知っただろう、どちらが上かということをな。
そう勝ち誇り、俺にぐったりともたれかかったイズナを見下ろす。
だけどまた押し倒されたらどうしよう、とビクビクしながら見守っていると、イズナがむくりと顔を上げた。




