ネコじゃらし
翌日。
俺はやや遅めの朝食を取った後、部屋に戻っていそいそと出かける支度をしていた。
なんてったって今の俺は冒険者だから。
前のような、ひたすら家にこもってコンビニと家を往復するだけの生活とはおさらばしたわけだ。
俺はこの世界に生まれ変わって、すっかり心を入れ替えた。
これからは、前世でサボったぶん、世のため人のため、身を粉にして働こうと思う。
ん? なんで急にそんなやる気いっぱいなのかって?
嫌だなぁ、冒険者たるもの、困っている人の依頼を受けて、仕事をこなして、報酬をもらう。
当然のことじゃないか。
それに報酬なんかもね、そんな高望みはしないさ。
俺はただ、みんなの喜ぶ顔が見れればそれでいいんだ。心からの感謝の言葉が、なによりの報酬ですよ。
それでおまけにGPなんかももらえると、よりいいかなって思ってね。
……え? 残りGPですか? 現在8620ですけど何か?
あかりちゃんのお手てコースに2万GP払いましたけど何か問題でも?
だが俺はみじんも後悔はしていない。
むしろGPなんてもんは、このために存在しているんじゃないかとすら思ったね。
いやマジで。
ようし、頑張るぞ。
今日は手始めに、討伐クエストでも受けて、この聖剣で魔物を狩って来るとするか。
ちょっとぐらいなら、借りても問題ないだろう。
さっきカードで聖剣回収クエストの詳細を確認したが、期限みたいなものはないようだったし。
たださすがに堂々と持ち歩いて、バレたらまずいからな。
うまいこと布で隠すようにして、細工をしておくか。
俺が鼻歌交じりに、お高そうな宝玉が埋まっている鍔の部分に巻きつけていると、いきなり窓が開いて人影が中に飛び込んできた。
町娘バージョンのイズナだった。
本来なら招かれざる客は追い出すところだが、軽く賢者モードの俺は紳士に声をかけてやる。
「ようイズナっち。どうしたそんな浮かない顔して」
「あたしとしたことが……」
姿を見たと思えばたいていドヤ顔を決めてくるくせに、珍しく沈んだ表情をしている。
そういえばコイツのことすっかり忘れていた。
「昨日なんかあったのか? あの後……」
「気がついたら、酒臭い屈強な男たちに取り囲まれていて……」
「おっ、まさかエロ同人みたいな目に合わされたのか」
「なにを言ってる? タダメシがバレて、ひたすら皿洗いをさせられていたんだぞ!」
「それは自業自得だろ」
「くぅ、酔いつぶれてさえいなければ……。それもこれも、おまえがレナ様を止めなかったのが悪い!」
「だからなんでそうなる」
あれは俺の手には負えん。
しかし本当に酒には弱いんだな。
「で、そんなことをわざわざ言いに来たのか? 俺これから出かけ……」
「って違う! そんなことよりおまえ、レナ様をどこにやった!」
「は? どこにやったもなにも……」
「さてはおまえ、レナ様をヤリ捨てしたな!」
「してねーよ! なんてこと言うんだお前!」
「ならヤリ逃げか!」
「ちょっと黙れ」
一回とっ捕まえて黙らせようか。
だが手を出したら、爪で引っかかれそうな雰囲気だ。
「まあ落ち着け。昨日はレナが家に帰るって言うから、宿に戻る前にレナとは別れてそれっきりだぞ?」
「なんだと? ついさっき慌てて王宮に確認してきたら、帰っていない、と言われたぞ」
「えっ……」
もしかして、帰り道で何かあった?
やっぱりいくら拒否られたとはいえ、一人で帰すんじゃなかったか?
「ていうか今、王宮って言った?」
「だからなんだ、ごまかそうとしてもムダだぞ。言っておくが、あたしはお前を信用したわけじゃないぞ。異世界から来ただとか、うさんくさいやつめ」
「あれ、それ聞いてたのか」
「ふっ、わがネコ耳をなめるな」
ネコ耳自体は別に恐ろしくはないが……。
もし昨晩の独り言とかを聞かれていたらと思うと、マジで怖い。
「さあ、正直にほんとうのことを言え! さもなければ、この切り落とし丸で……」
そう言って、イズナはどこかに仕込んでいた刃物を突きつけてくる。
ただの短刀ではあるのだが、なんだか妙に危険なオーラを感じる。
「だから落ち着けって。本当に知らないんだって」
「ふっ、どうやら切り落とされたいらしいな」
何をだよ……。
全く人の話を聞かないなこのバカネコ忍者は。
全然しつけがなってない。
なんとかして、おとなしくさせられないものか。
うーん、こんなことで極力GPは、使いたくないのだが……。
相手がバカだけに、万が一切り落とされでもしたらシャレにならん。
手早くスキルストアを検索する。
『ネコ しつけ』
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スキル名 ネコじゃらし
作成者 ケモナー神
概要
アルムスタッドでいまや絶滅危惧種となったネコを手なづける。
一定確率で命令を聞かせることができる。
だがいかがわしい命令をしてはいけないぞ。
それはケモナーの暗黙の掟である。
2000GP
アクティブスキル
クールタイム1時間
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ここで2000はちと痛いが、相手に光り物をちらつかされては仕方ない。
スキルを落とし、発動。
すると俺の手に、先端にモフモフのついた棒が現れた。
これがネコじゃらし……?
半信半疑になりつつも、イズナの目の前で棒をゆらゆらと揺らしてみせる。
「ほれほれ」
「なんだそれは」
冷めた声が返って来た。
全く効いてない。
やっぱ、ただのネコとはなんか違うのかな。
……いや、とか言いつつも、イズナの目はネコじゃらしを追うようにしてきょろきょろ動いている。
これはいけそうだ、と俺はイズナの短剣に対抗して、ネコじゃらしを構えなおした。




