宿に戻ろうか(意味深)
酒場を出た後、俺とレナは夜の街をしばらく散歩した。
レナが「まだ帰りたくないなぁ」などとお持ち帰りフラグなセリフを吐いたためだ。
「今日のトウジはほんとにかっこよかったよぉ。聖剣装備して魔族追い払って、的当てもラクラク優勝しちゃうし」
レナはまだ酔っているせいなのか、いつもの三割り増しで腕におっぱいを押しつけてくる。
最初はどうなることかと思ったが、この神スキルストア、なかなかに優秀である。
「そうだろうそうだろう、けど、今日の、は余計だぞ」
「あ、そっかぁ、あははぁ」
俺も少し酒が入っていることもあり、上機嫌で乗っかっていく。
傍目からするとかなりのバカップルだろう。
これまではそんなヤツらを「爆発しろ」と祈りながら黙って一人すれ違う側だったわけだが、転生して早々に立場が入れ替わってしまったわけだ。
見るがいい、俺を見てうらやましそうに通り過ぎる男たちの顔を。
ちょっと頭のほうはアレだが、相手は文句のつけようのない美少女。
これまで俺が女子と縁がなかったのも、単なる不運というかなんというか。
女なんて案外ちょろいもんだ、これはもう今日にでも……。
さてそろそろいい加減、宿に戻ろうか(意味深)と若干浮かれ気味に提案すると、レナは少し思いつめたような表情をして、口を開いた。
「ごめんトウジ、私ちょっと急用を思い出して……というか、急用ができちゃって」
「え?」
「今日は、家に帰ろうと思うの」
い、家だと……?
家に帰るとな? あれ? さっき帰りたくないって……。
内心ガクリとしながらも、俺はあくまで紳士を装う。
「あ、ああ、そう。じゃあ、家まで送るよ」
「あっ、ダメ、ついてこないで!」
……え? あれれ?
なにか、すごい勢いで拒否られたんですけど。
まだ帰りたくないって、文字通りまだ帰りたくなかっただけ?
「いやでも、もう結構暗いけど……一人だと危なくない?」
「え、ええっと、だいじょうぶ、家の人に迎えに来てもらうから」
レナはかたくなに俺の申し出を断る。
どんだけ俺に家を知られたくないんだよ。
ああ、ストーカー防止ですね、わかります。
ここでしつこく食い下がるわけにもいかず、結局そのままレナと別れた。
とぼとぼと、俺は一人で宿へ向かって歩く。
もうテンションガタ落ちですわ。
また明日ね! だとか一切なく、レナはそそくさと帰りやがった。
まさかこんな唐突に別れを告げられるとは。
まったく、フラグがとか、女はちょろいだとか言ってたのは一体誰だ。
結果、なんかレアな指輪を貢いだだけの男になってしまったわけだが何か?
しかしレナの奴め。
あれだけ気のあるそぶりを見せておいて、なんたる悪女っぷり。
可愛い顔して男をたぶらかす、常習犯か?
実はこれまでの言動も、全て計算しつくされたものだったりして。
まあ、さすがにそれはないとは思うが、そうだよなぁ、あんな美少女がそんな簡単に……。
とりあえず気持ちを切り替え、宿の敷居をまたぐ。
が、すぐに疑問が浮かんだ。
これって、まだこれ泊まれるのだろうか。
昨日はレナがごにょごにょしたが、あいかわらず俺に金はないし、一人だし……。
これはまさかの野宿か?
嫌な予感がよぎって、ビクビクしながらフロントで確認すると、満面の笑顔で、
「ご自由にお使いください」
と返ってきた。
ご自由にってなんだよ、本当に大丈夫なんだろうな。
後で高額な宿代を請求されなければいいが。
少し心配になりつつも、部屋へと戻る。
中に入るなり、腰にした剣を勢いで傘立てにぶちこもうとするところで手を止めた。
……ちょっと待てよ。
これ、ギルドに持っていかないで、このままネコババしたらどうなるんだ?
これがあれば魔族を無条件にボコれるわけだし、これからも結構役に立ちそう。
魔族に持ち去られたってことにしてパクっちまうか。
目撃者はレナ以外にはいないわけだし……。
ところでこの剣、実際どれぐらいの強さなんだろう。
ふと思い立って、鑑定スキルをかけてみる。
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ディバイン・ハート
種別 片手剣
ランク ??? (鑑定レベル不足)
攻撃力 770
聖属性(付与値 極大)
種族特攻 魔族 (クリティカル率99%)
(状態異常 一定確率でスキル封印、麻痺、弱体化)
???
???
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聖属性付与に、魔族特攻か。
なるほど、こりゃ魔族も嫌がるわけだ。
う~ん、でもやっぱこの?がちょっとひっかかるな。
初級武具鑑定はすぐに見つかったが、それより高いレベルの鑑定スキルが見つからないんだよな。
『なんでも鑑○団』だとか怪しい名前のスキルはひっかかるんだが……。
まあ今すぐ絶対に必要ってワケでもないし、緊急に備えてGPはなるべく温存しておいたほうがいいのかも。
さっきだって聖剣装備が買えなかったら、どうなってたかわからんし。
ダーツのスキルなんかも、その場になってみないと思いつかないよなぁ。
今のところ、何がどれだけ役に立つのか、未知数なところがある。
昨晩少し調べたところによると、必ずしも必要GPが高いイコール役立つ、強力というわけでもないらしい。
クソみたいなスキルに、高いGPをふっかけていくスキル作成者もいるわけだ。
どっかの幼女のように。
なので、実際落として使ってみないと見極めが難しい。
場面場面で必要になったスキルを落としていくほうが、結果的にロスは少なくなるのかもしれない。
まあでも、そこまでシビアに考える必要もないし、気楽にいけばいいか。
とりあえずスキルは置いといて、と。
俺はどかっとソファーに腰掛けると、今日の戦利品、魔法の道具袋を取り出した。




