ずばり神スキルとは……
ひゅっと投擲。
思いのほかスピードがあり、矢は一直線へ的へ。
トッ、と小気味いい音を立てて、ダーツは的のど真ん中に刺さった。
一瞬水を打ったように静まり返った後、一気に会場内にわっと歓声が起こる。
「おおっ!? こいつは文句なしのど真ん中! 200点だぁ!」
あぁ、詐欺スキルじゃなくてよかった。
これ系の神スキルは本当に使ってみるまでわからないから、ヒヤヒヤする。
「いや~やるじゃねえか兄ちゃん! こりゃ~エルフ嬢の500点越え、あるかもわからんぜ?」
あのエルフは500点取りやがったのか。
エルフは弓とか得意そうなイメージがあるし、そういう技能スキルが関係してるのかね。
ど真ん中が200でその周りが100。
200点の赤い丸は本当に小さくて、三本も刺さらない気がするんだが……。
半信半疑になりながら、二投目。
設定はそのまま、狙いは中央。
もうスキルの流れはわかっているので、スムーズに発動、投擲。
――ストッ。
「で、出たあああぁぁあっ! 継ぎ矢だああぁっ!」
司会の叫びと共に、場内にいっそう大きな歓声が上がる。
投げた矢は的ではなく、的に刺さっているダーツの尻に刺さっていた。
「すっごぉおおい! もうこれトウジの優勝だよね! やったぁ!」
「え、あれって何点すか?」
「いやぁ、点数は200だが……たまーにあるんだよな。しかしど真ん中とはなぁ、驚いたぜ」
なんだ、ボーナスで得点もらえたりしないのか。
でも待てよ、このスキル、寸分たがわずど真ん中に飛ぶとしたら……。
「さあ、ラスト一本、ここでトチったら全てパア! どうなるどうなる!?」
「と、ト、トウジ、お、おち、落ち、落ち着いてっ!」
集中を乱すような司会の煽りと、焦らせようとしているかのような嫌がらせにも近いレナの声援。
とりあえずお前が落ち着け。
観客もみな固唾を飲んで俺の手元を見守っているのがわかる。
この状況、本来かなりのプレッシャーなんだろうが、俺はいたって冷静だった。
だってこれ、ただスキルを発動するだけで、俺の精神状態とか集中力とか関係ないし。
それに、すでになんとなく結果が……。
スキルを発動して、三投目。
鋭く風を切る音とともに、ひゅっとダーツが飛ぶ。
――ストっ。
「……な、なんじゃこりゃあああっ!! 二本連続で継ぎ矢ぁぁあっ!?」
司会の男があんぐりと大口を開ける。
案の定、ダーツは二本目の矢のケツに刺さった。
……やっぱりな。
すぐさま場内に割れるような喚声が巻き起こる。
ビックリして思わずふさぐと、司会の男が満足そうな笑顔を浮かべながら、バンバン背中を叩いてくる。
「いや~やってくれたぜ兄ちゃん! こんなの見たことねえぞ! こりゃもう、文句なしに優勝! 1000点ぐらいやってもいいな! がははは!!」
そして上機嫌で景品の道具袋を引っつかんできて、俺の手元に押し付けてくる。
「おら、景品だ持ってけ!」
その場で一等が決まった。
まあ、さすがにこれ以上は無理だろうからな。
「さあ、今夜のヒーローに盛大なる拍手を!!」
わあっとまた会場が沸き立つ。
しかしすごい熱気だ。
俺としてはこんなつもりじゃなかっただけに、少し居心地が悪い。
歓声に包まれながらさっさとステージから下りると、目の前にすらっとした長身の女性が立ちはだかった。
さっきの高得点を出したエルフだ。
小さく拍手をしながら、俺に話しかけてくる。
「素晴らしいものを見せてもらったわ。よければ参考までに、どんな技能スキルを持っているのか教えてくれないかしら?」
「いや、技能スキルは特に……」
「じゃあ何か特殊なアクションスキルかしら? でも的当てのスキルなんて、聞いたことがないし……」
エルフのお姉さんは目線を上にやりながら、首をかしげる。
だがやがてふっと笑って、
「ヒミツってわけね。そうよね、早々他人に手の内を明かすようなことはしないわよね」
「はは……まあそんな感じで」
「ふふ、気が向いたら声かけてね? ご飯ぐらいはおごるから」
ぱちりと片目をウインクさせると、そのまま観衆の中に紛れていった。
いやぁ参ったな。
これはエルフ美女とお近づきになれてしまうかもしれないな。
しかしタネ明かししたら怒られそうな気もするが。
「わっ」
その時、ふよん、と柔らかい感触が背中にぶつかってくる。
この感じ……、レナのおっぱいか。
とニュー○イプ的な勘で振り向くと、やはりそうだった。
レナは目元を手で押さえながら、なぜか半泣きになっていた。
「うぅっ、うっ……トウジ、ごめんねぇ……私、プレゼント、してあげられなくて……」
「い、いやいや、景品もらったから」
何かと思えば……。
自分であげたかったってことか? 別にいいのに……。
というか俺に謝るよりも、君は無差別にダーツをぶっ刺したおっさん二名に謝りなさい。
「私、こんなグズだけど、本当にいいの?」
「い、いいよ、いいって。いいから泣くのはやめてくれって」
なにがいいんだか知らんが、あー泣かせてるーみたいな野次が飛んできて非常に気まずい。
もう飯も食ったし、早いところ退散しよう。
と俺がぐずるレナを引きずって足早に入り口へ向かおうとすると、またもや何者かに呼び止められた。
「待ちなさい!」
誰かと思えば今度はエミリだった。
なにやら勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「トウジくん、私の目はごまかせないわよ……」
「はい?」
そう言ってエミリはびしっと俺の顔に、ひとさし指を突きつけてきた。
「ズバリ今のは、神スキル! 神スキルとはすなわち! 的当てのことだったのね!」
「いや違いますけど」
「ごまかしてもムダよムダ! やっぱり遊び人、適職じゃない。今度転職しにいらっしゃい」
「だから誰が遊び人だ!」
俺は「なによちょっとー逃げるの~!?」としつこく絡んでくるエミリから逃れるように、まんぶく亭を後にした。




