魔族
先に進むと、森の中に少し開かれた場所が見えてきた。
それと同時に、何者かの話し声と気配がする。
俺たちは息をひそめて、生い茂る木々の隙間から、広場をのぞき込む。
するとそこには、大小二つの人影があった。
やや露出の高い、黒い衣をまとった小さい女の子と、タキシードのような正装に身を包んだ、長身のやせた男。
そいつらがただの人間でないことは、一目でわかった。
少女のほうは、銀色の長髪に、頭から突き出た二本の小さな角と、背中から生えた小ぶりの黒い羽。
男はやたら血色の悪い顔に、不気味に光る赤い目、そしてこちらも羽を生やしている。
その二人が、地面に無造作に転がった、一振りの剣をまじまじと眺めている。
なるほど、あれが魔族か。
「これがウワサに聞く聖剣……うわくっさ、くっさいの~」
しきりに手であおぎながら、ちびっ子魔族が鼻をつまんでしかめ面をしている。
どうやらあれが聖剣で間違いないようだが……臭いのか?
特にこれといった匂いはしない。
こっそりレナに尋ねる。
「……どういうこと? なんか匂う?」
「聖剣は魔族にとっては、とっても嫌なにおいがするらしいの」
「へえ……。臭い聖剣とかなんか嫌だな」
魔族たちは聖剣にばかり気を取られていて、こちらに気づく気配はない。
さてどうすっかな。
なんかやたら強いらしいし、一度確認してみるか。
俺は丸安印の魔物鑑定をセットし、発動する。
今度はわざわざスマホを向けなくても、目の前に大きなウィンドウがあるのでかなり楽だった。
そのまま小さい女の魔族にターゲットする。
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?????
レベル??
HP ?????
MP 9999999/9999999
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なんだよこれ、ろくに見えないじゃないか。
相手は魔物じゃないってことかな。
それかこのスキルじゃ、鑑定することができないってことなのか。
しかしMPがよくあるチート小説の主人公みたくなってるがバグか?
これが本当だとしたら、見かけによらず相当ヤバイ相手ということになるな。
まあそれがわかっただけでも十分か。
ここらでゴブリン殺しならぬ、魔族殺し的な神スキルを探して、奇襲をかけるという手もある。
なんにせよ、このまま考えなしに出て行くのは危険だ。
『魔族 倒す』
とりあえず検索をかけてみるが、どうも効果がはっきりしない物が多い。
また中二っぽい名前の技が出てきたが、もうエターナルフォースブリザー度はマジでカンベンだからな……。
ウィンドウで検索をかけながら、ひとまず相手の出方を見守る。
「アムリル様。邪魔なニンゲンどもは追い払いましたし、さっそく聖剣を持ち帰りましょう! しかしこの剣、なんと禍々しい……」
ノッポの魔族が、腰をかがめて聖剣の柄に腕を伸ばす。
だがぐっと手を握ったとたん、接触部分からじゅうううっと肉が焼けるような音がした。
「あちゃーっ!!」
「バカモノ! 聖剣を素手で触るアホがおるか!」
慌てて剣から手を離す魔族。
手からドライアイスのように、シュワシュワと煙が出ている。
「ひーっ、ひー……、ひどい目に合った……。ですがアムリル様、まともに触れないとなると、どうやって持ち帰るんで?」
「ふっ、ぬかりはないわ」
アムリルと呼ばれたチビ魔族は、ふところから、手袋のようなものを取り出した。
「これぞマジックアイテム、聖剣づかみじゃ。これがあれば、魔族でもラクラク聖剣を触ることができるのじゃ!」
「おおっ、さすがアムリル様!」
ただの百均で売ってそうな鍋つかみにしか見えない。
チビ魔族は鍋つかみを手に装着すると、おそるおそる聖剣に腕を伸ばし、勢いよく持ち上げた。
「しゃーっ、聖剣獲ったどーーー!」
「いよぉっ、魔界一!」
うるさい。
どんなテンションだよこいつら。
強そうなのにやたらバカっぽい。
「ではさっそく、持ち帰りましょうか!」
「うむ。これで父上も、わらわの小遣いをあげざるを得ないじゃろ!」
聖剣を入手した魔族たちは、ホクホク顔でこの場を立ち去ろうとする。
するとずっとその一部始終を眺めていたレナが、くいくいと俺の腕を引いてくる。
「まずいよトウジ! このまま聖剣を魔族に奪われたら……」
「うーん……つってもあいつら強そうだしなぁ。髪と服をチリチリにされたらたまらんし」
手持ちのGPじゃ、これといったスキルが見当たらない。
それっぽいのはあるが、一撃で倒しきれなかったら終わるし。
「だいじょうぶ、聖剣さえあればきっと……」
「いやだから、それをどうやって取り返すのかって言ってるのに……」
「あ、ほら、取り返したよ」
「は?」
一度ウィンドウからレナのほうに目線を移すと、レナの手元にはなぜか聖剣があった。
俺が驚くより先に、向こうからも悲鳴が聞こえてくる。
「あぎゃああ!? 聖剣が消えたぁぁああ!?」
「なんとぉおおお!?」
うるっさい。
しかし一体なにが……?
ふと視線を感じて、振り返る。
すると、いつの間に現れたのか、すぐ傍でイズナがドヤ顔でこちらを見上げていた。
もしかして、こいつがかっぱらって来たのか?
まさに目にも止まらぬ早業……。
「お前、実は有能だな……」
「にゃははは! そうだろそうだろー! もっとほめろほめろー!」
「あっ、バカ……」
いきなりイズナがバシバシと俺の肩を叩きながら、バカでかい声で笑いだした。
当然、すぐに魔族たちがこちらに気づく。
「ぬぅうう! そこなニンゲン! お前らか、聖剣をひったくったのは!」
見つかってしまった。
ちびっ子魔族がえらい剣幕で草をかき分け、こちらにやってくる。
一方下手人であるイズナは、身を縮こまらせて素早く俺の背後に隠れた。
……おいお前。




