王国依頼 聖剣探し
「確かこっちのほうだったと思うんだけど……」
足早に進むレナのあとについて、森の中を歩いていく。
俺とレナはクエストを受けて、昨日の森の中にやってきていた。
クエストの依頼主はエデンティラ王国。
国をあげての、いわゆる緊急クエストという奴らしい。
成功報酬はなんと十万アルム。
さらに冒険者ランクを上げるために必要なギルドポイントも、1000もらえるという。
受注ランク制限もなくこの報酬は、かなり破格だという。
国は相当焦っているようで、すぐにでもこの問題を解決したいようだ。
だが正直俺は、最初このクエストに乗り気ではなかった。
俺たちがちんたらしている間にも、クエスト受注者はドンドン増えていた。
そんな中、一枚も二枚も上手なヤツらを出し抜いて、俺たちがそのクエストを達成できるとは到底思えなかったからだ。
で、その肝心のクエストの内容はというと……。
聖剣ディバイン・ハートの回収。
俺が依頼書を見て、聖剣とかなんのことやらさっぱりだな、とレナに同意を求めると、
「あっ、やばっ……」
「は? なにがヤバイって?」
「あ、いや……えっと、私、場所……わかるかも」
などという返事をされて、あれよこれよと結局クエストを受けるハメになった。
もちろん色々と問い詰めようとしたが、「そ、そんなことより早くしないと先を越されちゃうよ」とうまくかわされ、やってきたのはいいが……。
「……あのぉ、レナさん?」
先ほどから、すっかり歩みが鈍くなってきているレナに問いかける。
すると案の定、レナはビクっと肩をすくめた。
「な、なぁに?」
「まさかとは思うんですけど……その場所、お忘れになられてます?」
「……えへへ、わかる?」
いやえへへじゃねえよ。
よくよく考えれば、まともにギルドの位置すら覚えていない人間に、森の中を記憶できるわけないよな。
「でも、確かあそこの崖から落ちて……」
どんなサバイバルしてたんだよ。
勝手にはぐれたレナを、セバスが血眼になって探す、みたいな姿が自然と目に浮かぶ。
「うおおおーっ、聖剣はどこだーっ!」
遠くで変な雄たけびが聞こえる。
おそらく同じクエストを受けた連中だろう。
これまでも、それらしき人物と何人かすれ違った。
あちこちで人影がうろうろしていて、森の中は昨日とはうってかわって騒がしい。
森は意外に広く、結構深いところまでやってきたように思う。
勢いに任せてなにも準備せずにノリでやってきてしまった。
俺もレナも、武器も何も持っていない。
服装だって、相変らずTシャツGパンだ。レナも鎧は昨日脱ぎ捨てたまま。
聖剣を探すだけとはいえ、魔物に絡まれたら結構厄介かもな。
まあ一応、ゴブリンぐらいならワンパンできるファイアボールはあるし、もしまたマスターゴブリンが出てきたらおっさん呼べばいいわけだし、それはそれで経験値がおいしいか。
だが問題は肝心の聖剣だ。
場所を知っているというアドバンテージがないとなると……。
というか本当にこの森の中に聖剣があるのか?
大体なんだってこんなところに……。
やはり一度確認を取ろうと、はっきりしない足取りのレナの背中を呼び止めようとする。
だがその時、くいくい、と服の裾が引かれる感覚がした。
振り返って見下ろすと、そこには装束姿のイズナが、俺のシャツの端をつまんで引っ張っていた。
「わっ、なんだお前……」
それには答えず、イズナは無言であさっての方角をぴっと指さす。
「なんだよ、向こう?」
聞き返すと、イズナは小さくうなづいた。
そしてそれきり何も言わずに木に飛び乗って、そのままどこかへ消えていった。
なんなんだよあいつ……。
ていうかまたついて来てたのか。
俺はレナに声をかけて、イズナが指した方角を伝える。
「う~ん、私はそっちじゃないと思うんだけどなぁ。でもトウジが言うんなら、そっちに行くね」
「いや、違うんだったら別に……」
違うと思うのに従っちゃうのかよ。
そもそも場所がわかると言い出したのは誰だ。
結局、俺が先頭に立ち、イズナの指示した方に進む。
これは下手すると、帰れなくなるかもしれないな……と思い始めたとき、行く手から、男の悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあああっ!!」
「ひぃぃぃいいいっ!!」
「あああああっ!!」
輪唱をはじめる野太い声に、立ち止まって何事かと身構える。
ややあって、がさがさがさっと前方の茂みの中から、人影が飛び出してきた。
「きゃあああ!!」
今度は後ろでレナの悲鳴が上がり、背中に柔らかい感触が伝わって来る。
ひしっと抱きつかれたようだが無理もない。
なんせほぼ全裸のおっさんが奇声を上げながら、決死の形相で現れたのだから。
しかも×4体。
「出たな変質者どもめ」
「ち、違うんだこれは、魔族にやられたんだ! 魔法で燃やされて……」
見れば、髪の毛がチリチリと燃えている。
靴はしっかり履いているところを見ると、かなりの紳士……ではなく、服はすでに燃やされたのだろう。
「こっ、この先で、聖剣を見つけたんだ! けど、魔族が現れて……」
「魔族……?」
「ヤツラも聖剣を取りにきやがったんだ! お前達も早く逃げたほうがいい! 並みの冒険者ではヤツラには太刀打ちできん!」
上から目線で警告してくるが、どうしても風にそよぐ乳毛が気になる。
股間にそこらで拾った葉を押し当てているようだが、微妙に隠せていない。
セリフだけならカッコいいが、非常に絵面が汚い。
俺は冷静に、服を焼かれてしまったかわいそうな女の子は? と見渡すも揃いも揃って野郎ばかり。
俺の背後に隠れるレナに、じろじろいかがわしい視線を送ってくる輩もいて、そんなのが四身の拳とばかりに取り囲んでくる。
傍目から見るとかなり危険な状況だ。
「ほら、何をぼさっとしている! よし、その子だけでも、僕らが護衛していこう!」
「あ、いや大丈夫なんで」
「なあに、遠慮は要らんよ。困った時はお互い様だ!」
「お気遣いなく。今んとこ困ってないんで、大丈夫っす大丈夫」
「キミ、本当に大丈夫かね、そんなわけのわからない格好で!」
「いえ、裸の人よりは多少はいけるかと」
俺は紳士たちの誘いをひたすら受け流して、何とか追い払った。
ある種魔族よりも魔の者か。
大自然で裸体をさらして、彼らも少し開放的になってしまったのかもしれない。
嵐が完全に去ったのを確認して、やっとのことでレナが体を離す。
「はぁ、怖かったぁ……」
「さてどうする? 魔族だってさ。俺たちも逃げる?」
「でも、このまま魔族に聖剣を取られちゃったら……」
「まあ、報酬はおしいなー」
「……これも元はと言えば私のせいだし……。私、取り返しに行く!」
「おいどこへ行く!」
レナが勇み足に歩き出す。
だが向かおうとしているのは全然別の方角だった。
俺は仕方なくそれを制して、男たちが逃げてきた先へ向かった。




