クエスト
酒場と登録所の境目、ギルドの中央部は、クエストの受付所になっていた。
依頼内容の書かれた紙が、いくつも立ち並ぶ掲示板に貼り付けられている。
腕組みをして掲示板を眺めている他の冒険者たちの間をぬって、俺たちも依頼書をチェックする。
適当にざっと目を通すと、簡単なお使いからアイテムの調達、魔物の討伐とバリエーションは豊かだ。
この世界のクエストは、依頼をこなして報酬をもらうというゲームでもよくある系統のもののようだ。
「私たちは、冒険者ランクがFだから、受けられるクエストはあんまりないかな~」
レナがあちこち依頼書を目移りさせながら言う。
ステータスにも表示されていたが、今の俺の冒険者ランクは最低のF。
このランクは、いわゆる冒険者としての格だ。信用度とも言える。
これはクエストをこなすことによって上がっていくため、どうしても最初はしょぼいクエストを地道にこなすことになるようだ。
「なにかよさそうなものはっと……」
レナはなんか勝手にクエストを受ける気満々だが……。
俺は全然そんな気ないんですけど?
「あっ、これとかどう? 雑貨屋の店番だって」
「いや無理だね!」
そりゃいわゆるコンビニ店員じゃねえか!
絶対イヤだね。誰がやるか。
「そ、そんなきつく言わなくても……。どしたの急に、雑貨屋になんか恨みでもあるの?」
「ご、ごめん、まあ、ちょっとね……。もうちょっとさ、冒険者っぽいのないの?」
すでに軽くトラウマになっている。
働いている感がないやつだったら、なんとかいけなくもないんだが。
「じゃあこれは? 害虫駆除」
「俺虫嫌いだから無理」
「私もきらーい」
じゃあなんで候補に出した。
そういう泥臭いのじゃなくて、もっとファンタジーっぽいのは……。
「あ、これ、ゴブリン退治とかあるじゃん」
「あっ、そうそう。昨日私たち、それ受けてたの」
「え、そうだったの?」
「うん。何体か倒したから、報酬もらわないと」
レナがカードを取り出して、クエスト報告の窓口へ向かった。
後をついていくと、俺たちを出迎えたのは強面の中年だった。
「……おう、ごくろうさん」
全然ご苦労っぽくない。
酒場で昼間から酒をかっ食らってそうな感じだが大丈夫か?
レナがカードを渡すと、男はつまらなさそうに息をついた。
「ふん、ゴブリン二体か。で、報酬はどうすんだ? 現金か、ギルドマネーか」
「えっと、ギルドマネーで」
レナが答えると、男はカードをなにやら妙な水晶玉にかざし出した。
俺はレナにこっそり尋ねる。
「ギルドマネーって?」
「カードにお金入れられるの。後で引き出したり、そのまま使えるところもあるけど」
マジか。プリペイドカード的な?
タッチパネルっぽい機能もあるし、
これちょっとオーバーテクノロジー気味じゃないのか。
しばらくして男がカードをつき返してくる。
「ほらよ、300アルム分、入ったぜ」
「300かぁ。少ないなぁ」
「ただのゴブリン程度、討伐したぐらいじゃそんなもんだ。エルダーゴブリンぐらいでまあ一匹五千、マスターゴブリンなら今の相場で二万はくだらねえだろうがな」
「え? マジで? じゃ俺二万もらえんの?」
「あぁ? なに言ってんだおめえ」
男がぎょろりと睨みつけてきた。
なんだこのおっさん怖えぞ、客にとっていい態度じゃねえ。
まあここだと客とかそういうんじゃないのかもしれんけど。
「カード、見せてみろ」
あんまり触らせたくないなー。
かわいい女の子ならまだしも、脂ぎったオッサンの手だとちょっと……。
しつこく睨んでくるんで仕方なくカードを渡した。
「なんだよ、なんもクエスト受けてねえじゃねえかよ! しかもFランクじゃねえか!」
なぜかキレられたし。
それに大声でFランクだとかバラさないで恥ずかしいから。
本当ここは、個人情報の取り扱いがいろいろと雑だな。
「ああ、そういうことね。クエスト受けてから倒さないとノーカンですっていう。はいはい、わかりましたよ」
「なにをしれっとしてやがる。そもそもFランクじゃあ、マスターゴブリンの討伐依頼なんぞ受けらんねえよ! 大体おめえ、駆け出しの冒険者が、一人でマスターゴブリンなんぞ倒せるわきゃねえだろ?」
「いやー、それが倒したんだよね」
厳密には俺じゃないけどな。
だがレベルアップしているということは、俺が倒したことになっているはず。
「そうまで言うなら戦績、見せてみろ」
戦績?
ああ、そういえばそんな項目あったかな。
俺はカードに触れて、戦績を表示させる。
続けて浮き上がった魔物討伐という部分を押す。
「なっ、これは……」
するとそこには、しっかりとマスターゴブリン一体、という表記が。
これはかなり信憑性のあるものらしく、男は見るなり声を失った。
「な、なにもんだおめえ……」
なんか怪しまれている。
おっさんに熱い視線で見つめられても、うれしくもなんともない。
余計なこと言ったかもしれないな……。
ここはさっさと退散するに限る。
「じ、じゃあ、そういうことで」
「オイ、まあ待てや。オレはハリーってんだ。ここでこんなことやりながら、魔物討伐専門の冒険者もやってる。まあ……なんだ。今後ともよろしくな」
「ああ、よろしくポッター君」
「ああ? なんだって? ……まあいい、なんかクエスト探してんなら、いま新着で、王国依頼のおいしいのが来てるぜ。ランクの制限もねえ。まあすでに受注人数が9だから、後追いで達成は厳しいかもしれねえが……」
ハリーはぴらっと依頼書を差し出してくる。
紙面を追っていると、横から覗き込んできたレナが急に声を上げた。
「あっ、これって……」




