ユニークジョブ
「誰が遊び人だ!」
「きゃっ、ちょっとなに怒ってるんですか。私はただ客観的な事実を述べただけです」
「客観的だと……?」
人の適職を遊び人だとか笑顔でディスってきやがって。
ハロワだったらクレームもんだぞ。
遊び人とか、いかにもチャラそうな感じじゃねえか。
残念ながらこちとら、引きこもり属性付の遊び人だったんだよ。
まあ遊び人と言ってもピンキリだからな。
この世界で言う遊び人とは、少し定義が違うかもしれない。
「あぁ、レベルを上げると、いずれは賢者的な上級職に就けるっていうアレか。まあ、そういう大器晩成なところあるからね俺って。なるなら軍師かな」
「はい? そんなものありませんけど? ちょっとなに言ってるかわかんないです」
「違うのかよ……本当にただの遊び人?」
「ご希望のとおり、遊び人はHPの上昇が高くて、運も高いんですよ? 使用可能スキルは、中級までの遊技です。中級遊技には、そうですねー、例えば、『命乞い』というスキルがありますが……これは残りHPが15%以下で発動できます。魔物に取り囲まれて確実に詰みの状態でも、100%見逃してもらえるんですよ」
「いや、そういう状況におかれる時点でもう無理」
「あと、初級の盗技も使えるんですよ。100アルム以下をランダムでかすめとる『ちょろまかし』とか」
「ただの犯罪じゃねえか」
「トウジはやっぱりナイトだよね~」
「ターゲットの体に触れないと使えませんから、普通に盗んだほうがいいんじゃないかという説もあります」
「そらそうだわな。額も微妙な上にバレバレだしな」
「いえ普通に盗んだら確実に犯罪ですが、スキルに関しては、無防備に使われる方が悪い、という雰囲気はあります。まあバレたらボコボコにされるのは代わりないですけどね」
「ナイトはいいよぉ~」
「結局なんなんだよ、ていうかレナ、さっきからうるさい」
ちょくちょく横から暗示をかけてくるレナ。
とがめると、レナはしょぼんとした顔で、肩をすくめた。
「ナイトっていうと、騎士のことですかね。重装備もできる、前衛の花形ですね。中級までの剣技と盾スキルが使えます。ですが今のトウジさんは転職条件を満たしていません。筋力、体力ともに能力値がだいぶ足りないです」
「だってさ」
「うん。ナイトになりたくなったら、いつでも言ってね」
「いや、レナに言ってもしょうがないでしょ。ステータスが足りないとか言われてんのに」
「私もトウジがナイトになりたくなるように、頑張るから」
「それはどういう意味だよ……」
会話が通じなくなってきた。
薄々思っていたが、頭のネジがだいぶ緩んでんじゃないかこの子。
「騎士になりたければ、レベルを上げて出直してください。レベルは強さの指標みたいなものであって、一つ上がるたびに能力値、ステータスが上昇します。魔物と戦うとそれが経験となって、一定値たまると、強さの格が上がるということですね。強い魔物と戦うほど、たくさん経験を得られます」
「へー、ってことは、別に魔物を倒さなくても、経験値はもらえるってこと?」
「もちろん魔物を倒せば、プラスアルファにはなりますが……え? というかなんで魔物を倒さないと経験が得られないと思ったんですか?」
逆に質問されてしまった。
ゲーム的解釈で勝手に理解していたが、ちょっと違うらしい。
確かに魔物を倒せなくても、戦った経験は経験だものな。
「いや、ちょっと勘違い……。結局、まだジョブチェンジしないでレベルを上げたほうがいいってこと?」
「無職のままでいるのは、あまりお勧めできませんね。ステータスの上昇も微々たる物で、MPもいっさい上がりませんし、当然スキルも使えるようになりません」
「つっても、遊び人にはなりたくないしな……。一回なったら、すぐにジョブチェンジできないの?」
「転職すると一度レベルは1に戻りまして、そのジョブで最低でもレベル20になるまでは転職できません。ただし、ユニークジョブに関しては例外です」
「ユニークジョブ?」
「基本的に転職の条件は、ステータスと、ジョブレベルだけなんですが、ユニークジョブにつくには、特別な条件を満たす必要があります。アイテムが必要だったり、その転職スキルを持つ人から任命されたりとさまざまです。生まれながらにしてその職業についている人もいます。ユニークジョブは、専用装備があったり、特殊なジョブ専用スキルがあったりと、とにかく強力なものが多いです。エデンティラで言うと、神聖騎士なんかが有名ですかね。あとは聖姫守護騎士とか」
「そうそう、プリンセスナイトとかね!」
レナがまた元気を取り戻してきたが、
何ナイトだろうがそんなかったるそうなジョブにつく気は毛頭ない。
「まあいいや、考えるのも面倒になってきたし、とりあえず無職のままいこっと」
「えぇ~、これだけ説明させといて……」
エミリががくりと肩を落とす。
と言っても、俺には神スキルストアがあるし、なにもみんなと同じように真面目にやる必要なんてないしな。
その気になれば神スキルでジョブなんてどうにでもなるだろ、多分。
ためしに『ジョブチェンジ』で軽く検索をしてみる。
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スキル名 初級ジョブ転職
作成者 稼げる! スキル編集部
概要
ユニークジョブ「転職士」で入手できる「初級ジョブ転職」スキル。
他人を初級ジョブに転職させることができる。
需要が多く、安定して稼げるスキル。
これさえあれば、まず食いっぱぐれることはないだろう。
10000GP
アクティブスキル
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ほら早速なんか出てきたし。
エミリが自慢げに言っていたのはこれか。
これを落とせば、人を転職させる側、エミリのポジションにだって立てるわけだ。
まあこんなとこで働きたくないし、いらないけど。
「じゃあこれ! 初級ジョブの転職条件と特徴の一覧、渡しておきますから! いつでもどうぞ!」
若干キレ気味に冊子を渡された。
ざっと眺めてみると、騎士、戦士、剣士、闘士、拳闘士……と、前衛職だけでもやたら多い。
早くも読む気をなくしてくる。
「あのあの、ところで、そちらの彼女さんはどうですか? 適職診断しますよ~?」
エミリはターゲットをレナに移すと、
カードを見せろとばかりに手をわきわきさせる。
「わ、私はただの……その、戦士、だから」
「ちょっと待った、戦士のアクションスキルは中級剣技、槍技って書いてあるんだが、なんで回復魔法を使えるんだ?」
「か、カイフクマホウ?」
「いやほら、さっきの……」
「な、なんのことかなぁ、ちょっとわかんないな~」
へったくそなとぼけ方。
これまで得た知識からすると、おそらく、レナは回復系のユニークスキルを持っているか、
そもそも戦士ではないかのどっちかだと思うが……。
なんなんだ? 回復魔法を使えることを隠したいのか?
まああれがヒールとかそういう類のものじゃないって言われたら、俺にはよくわからんが。
「ほ、ほら、転職とかさ、もうどうでもいいから、あっちでクエスト見に行こ!」
「ど、どうでもいい……ガーン」
肩を落とすエミリをよそに、俺はレナに腕を引かれて、ギルドの中央へ向かった。




