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おっさん再び

『まずは警告をしてください』


 なるほど、相手は死んでしまうわけだからな。

 警告は必要だ。


「おい、貴様ら……。死にたくなければ、今すぐこの場から去れ」

「なんだぁ? ヘタレ野郎がいきなりどうしたぁ?」

「悪いがこれ以上邪魔をするようなら……命の保障はできないぜ?」

「あァ!? やれるもんならやってみろってんだよ!」

 

 フっ、愚かな……。

 どうやらとっくに死ぬ覚悟はできているようだ。


 これで警告完了とみなされたのか、画面が切り替わった。


『右腕をうずかせてください』


 右腕を……?

 言われてみると右腕に若干の違和感が……。

 

「ぐ、ぐぅっ、お、俺の右腕が……ッ!?」


 微妙にかゆいような。

 じゃなくて、ゴォォォ、と冷気の渦のようなものが、俺の右腕に集まってくる。

 気がする。


「なんだこいつ、ぶつぶつうぜえからシメるか?」

「ああ、さっさとボコそうぜ。それよりオレこの子、マジでタイプ……」


 何か軽く無視されているが、すぐに奴らは思い知るのだ。

 この最強の必殺技の威力をな。

 

『いよいよ発動です。かっこよく技名を叫んでください』


 ついにこの時が来た。

 俺は右腕を突き出し、詠唱する。


「受けてみよ、我が永久零度の究極魔法……エターナル・フォース・ブリザァァード!」

 


 ――シーン。


 だが何も起こらなかった。

 代わりにウィンドウ内に文字が流れる。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 あなたのエターナルフォースブリザー度


 72点


 なかなかの痛さです。才能があります。

 ですがまだまだ、照れが残っています。

 100点目指して頑張りましょう。


 

 ―――――――――――――――――――――


 

「なんじゃこりゃあああ!」

「うるせえぞゴラァ、さっきからなんなんだよてめえ!」

「おとなしく寝てろや!」

 

 いきり立った男たちが、いきなり襲いかかってきた。


「げっ、ちょ、タンマ!」

  

 まさかの展開にあせった俺は、やみくもにセット中のアクティブスキルを発動する。

 すると瞬く間に視界が煙に包まれ、その中からムキムキのおっさんが現れた。

 どうやらゴブリン殺しを発動してしまったようだ。

 

「うおおおーーっ!!」


 いつになくハイテンション。

 この野性味あふれる雄たけび。

 味方とはいえ正直怖いっす。


「ひっ、な、なんだてめえ!?」


 男たちも目に見えてビビっている。

 一人だけ、明かに場違いすぎる。ていうか単純に見た目が怖い。

 まるでヤンキーのケンカに、ヤクザが出てきたみたいな。


 おっさんはチンピラたちに真っ向から立ちはだかった。


 そして直立不動になったチンピラたちの間を縫うようにして歩き、

 品定めをするように、一人一人姿形を見て取る。


 まるで少しでも動いたらやられるみたいな、変な空気。

  

 しかしこれで一気に形勢逆転した。

 ゴブリン殺しのおっさん汎用性高過ぎだろ。

 

 だが、やがておっさんは何か違うと気づいたのか、

 大きく首をかしげた後、こちらに戻ってくる。


 そして俺の前で立ち止まると、

  

 ――ベチンッ!!


「痛ぁっ!!」

 

 なんでビンタされた今!?


 おっさんは俺に強烈なビンタをかますと、

 ふんっ、と荒く息を吐いて、消えていった。

 

 どうやらゴブリンがいないのに呼ぶと、俺がビンタされるらしい。

 にしても容赦がねえ。

 今のビンタで一瞬意識が飛びかけた。メチャクチャ痛い。


 今度はチンピラたちの間にどよめきが走る。


「なんだ今のは!? げ、幻覚魔法か!?」

「この頬の手形が幻覚に見えるか? 俺めっちゃビンタされてんだけど」

「幻覚じゃない……? まさかお前……召喚魔法の使いサモンクラス……!?」 


 なんか知らんけど勝手にビビっている。

 まあいい、その間に何か他のスキル探そう。

  

「あの手の動き……召喚魔法か!? またなんかやべえもん呼び出す気だぞ!」

「逃げろ!」


 だが次のスキルを検索するまでもなく、男たちは一目散に逃げていった。

 ウィンドウを高速でいじる俺の手の動きが、何かを呼び出す魔法を使う動作に見えたようだ。


 まあ、なにはともあれこれで……。


「トウジ、大丈夫!?」


 レナが俺の胸元につかみかからんばかりの勢いで、おっぱいを当ててきた。

 おっさんに張られた顔のことを言ってるんだろうが、相手に殴られたわけじゃないんだよね……。


 レナはおもむろに手を伸ばして、俺の頬に手のひらを当ててくる。

 すると、みるみるうちに腫れと痛みが引いていく。


「えっ、これって……」

「じっとしてて」


 レナの真剣な表情におされ、されるがままになる。

 少しひんやりして気持ちいい。

 もしかして回復魔法的なやつ?

 レナって、てっきり戦士だと思っていたのだが。


「もう大丈夫? 痛くない?」

「うん、大丈夫、ありがとう」


 レナはゆっくりと手を離す。

 自分でも触れてみると、本当に元通りだ。

 気持ちいいからもっとやってもらえばよかったかな。


「こっちこそ、ありがとう。また守ってくれたね」

「いや、守るとかそんな大げさな……」

「んふふ、やっぱりナイト……。ああいうの怖くないんだ? 私、体がすくんじゃって」

「怖いって感じではないけど……」


 多少凄まれたぐらいじゃなんとも思わないな。

 ゴブリン殺しのおっさんのほうがよっぽど怖い。

 

 やっぱ一回死ぬと度胸がつくのかね?

 いや、こうやってレナに顔を近づけられて内心ドキドキしているうちはまだまだか。

 

「それと、えたーなる……ぶりざーど? ってなんだったの?」

「それはなんでもない。本っ当になんでもない」

「ふぅん? でも、なんかかっこよかったよ!」

「は、はは……」


 うーん死にたい。

 これは寝る前に思い出してのた打ち回るやつだ。

 

「さ、さーて今度こそギルドに……」

「あっ、ねえ!」


 そうごまかしつつ歩き出そうとすると、レナに呼び止められた。

 

 変な二つ名でも付けられるのかと、びくびくしながら振り返ると、上目遣いでこちらを見上げる瞳と視線が合った。

 

 レナは両手をもぞもぞと擦り合わせながら、おずおずと口を開く。


「……ね、私って、いい女?」

「へ?」

「だってさっき、いい女連れてるって」


 いやそれは、売り言葉に買い言葉というか……。

 だが嘘というわけでもないし。


 こういうときはさらっと笑顔で同意してあげるのが正解なんだろうけど、どうも恥ずかしい。

 まったくこれだから童貞は……。


「そ、そうなんじゃないかな……」

「ホント? どのへんが?」

「どのへんって、その、可愛いし……」

「かわいい? えへへ、やった」


 レナは少し不安げだった顔をぱあっと輝かせると、

 俺の腕を取るなり、どっと軽く体をぶつけてきた。

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