エロ忍者
「あっ、それ! なんだその耳!」
やっぱさっきのは見間違えじゃなかった。
驚いて声を上げるが、イズナはなんともなしに答えた。
「ネコ耳ですけど?」
「いやいやいや、そんな平然と言われても」
「ふっ、これだからシロウトは……。これぞわが力の一つ、ネコ聴覚なり。これでとなりの部屋のあえぎ声もラクラク聞こえるのだ」
「なにを聞いてんだよ。てかなんでこのタイミングでその力発揮した」
「コーフンすると、かってに耳が立ってしまうのだ。ちなみに性的コーフンでも立つ」
「どっちが変態だよ! そもそも、その力はなんなんだ?」
「おまえ、獣人を知らんのか。獣人は獣と心を通い合わせて一体となり、力を得るのだぞ」
獣人……?
なんか知らんが猫と一体になったということか?
しかしこの世界にもいわゆる猫っているのかね。
さっきから、なんかネコのイントネーションが違うのだが。
「で、そのネコの力ってなんだよ」
「この柔らかくしなる体! そして脚力! それらを生かしたすさまじい瞬発力!」
「あ、それはいい、この中で跳ね回られるとすごいうざいからやめて」
「そしてこのいきり立つしっぽ!」
「げっ……」
よく見ると、お尻の辺りから、短めではあるが確かに黒いシッポが生えている。
それがガンガンにそり返っていた。
「つうかなんで立ってんだよ!」
「イズナは、興奮するとシッポも立つんだよね」
「いやそれは卑猥すぎるだろ……」
「ん? なんで?」
真顔で返されるとね……。
どうやらレナに下の話の類は全く通じないようだ。
「シッポを上下にさすると、すごく気持ちいいのです」
「やっぱ絶対違うわ、それ俺の知ってる猫と違う」
イズナはうっとりした顔でシッポをいじりだした。
どうにかしてくれ、とレナを見ると、
かわいいでしょ? といわんばかりに微笑んで、イズナの耳を撫で始めた。
「はぁん、レナハートさまぁ……」
見よこの恍惚の表情。
すがすがしいほどに自分を出し切っている。
「そういえばそのレナハートってなに? 本名?」
「あっ、それは、ちがくて……ダ、ダメでしょイズナ」
イズナはヘブン状態に入っていて全く聞く耳持たない。
でかい耳があるくせに。
「ト、トウジも撫でてみたら? ほら」
「え? いや、いいって、噛み付いてきそうだし……」
「だいじょぶだいじょうぶ、ほらほら」
レナが無理やりイズナの体を押し付けてくる。
家で猫を飼っていたので、多少は扱いに慣れてはいるが……。
おそるおそる頭に手を伸ばす。
どうやら大丈夫なようだ。
というか、イズナは軽く目を閉じているので、多分俺が撫でていることに気づいていない。
……しかしどうしたもんかね、これ。
戸惑いながらも、よく飼い猫にしていたように、耳の裏辺りをくすぐってやる。
するとイズナはゴロゴロゴロ……と喉を鳴らしだした。
「はぁ……レナさま、なかなかテクいですなあ……」
「ん? 私じゃないよ?」
「むっ?」
イズナはぱちりと大きな瞳を見開く。
そしてちら、と俺の顔を見るなり、
「ぜんぜん、ぜんっぜんよくないっす」
「よだれ垂れてるぞ」
「汁です」
「汁ってなんだよ、言うなら汗だろ」
大体なんの汁だよ。
イズナはわかりやすく口をへの字に結ぶが、徐々に頬が緩んできている。
「じゃあイズナ、ほら、これは?」
レナがシッポを握ってさすりだした。
思わず俺のシッポのほうが反応してしまいそうなエロい動き。
本人は無自覚のようだが、これはモザイクかけないといかんやつじゃないのか。
「あっ、レナさま、それ、いいですっ、すごく……もう、イ、イキそうです……」
「バカやめろ、お前それはいろいろアウトだぞ」
俺はイズナの頭から手を離して、背中をどんと突き飛ばした。
「あぅぅ……もうちょっとだったのに……」
「なにがもうちょっとだ、お前帰れ!」
全くとんでもない。
ネコ忍者じゃなくてただのエロ忍者じゃねーか。
がくりとうなだれるイズナを見下ろしていると、レナがちょいちょいと俺の服の袖を引いた。
「……あの、トウジ?」
「あ、いや、こういうのはちゃんとしつけたほうが……」
「ううん、違くって……えっと、その……私も、なでなでしてほしいかも」
「は、はあ?」
レナが顔を赤らめながら、もじもじと体を揺らす。
そう言われたらこちらとしても、もちろん断る理由はないんだが……。
俺が迷っていると、間髪いれずにイズナが立ち上がって、レナを手で制した。
「だっ、だめです! この男、いろんなところナデナデするに決まってます!」
「いろんなところって?」
「たわわに実った乳房を思うさま揉みしだいた後、やがてみずみずしい秘肉に不浄の指を……」
「いきなり生々しい表現やめろ」
どこの官能小説だよ。
だが今度ばかりはと、イズナも必死にくいさがる。
「だいたい、本来おまえごときでは、体に触るどころか、かるがるしく口をきける相手ではないのだぞ!」
「ん? それはどういう?」
「それは、……むぐっ」
「ちょっと静かにしようねイズナ」
レナがイズナの口を無理やり手で押さえた。
そしてイズナを落ち着かせるようにネコ耳をもふもふと撫でながら、少しぎこちない笑顔を向けてくる。
「ちょ、ちょっと外に出てくるからね」
そう言い残すなり、レナはそのままイズナを引きずるようにして、部屋を出て行った。




