街へ
一時はなんだこの糞スキルは、と思ったが、さらにGPを課金することで起動条件を変更できた。
起動条件のカスタムを押すと、「動作をしてください」と出て、好きな行動に設定できる。
指パッチンだとか五郎○ポーズだとかちょっと考えたが、とりあえず一秒間右手親指を隠す、というので落ち着いた。
ウィンドウの設定は、起動条件のほかにも画面のサイズ、透過度、表示域、だとかかなり細かい変更ができるようだ。
しかしデフォルトが乳首長押しとか、マジで汚い。
課金させるためにわざと不便を強いてるんじゃないかとすら思う。
だがそれを除けば、まさに神スキルかもしれない。
異世界でスマホを無事に持ち歩く、などというリスクは計り知れないだろう。
なんにせよこれでスマホが不要になった。
俺が無造作にスマホをケツポケットに突っ込むと、レナが心配そうな顔で尋ねてきた。
「トウジ? あの、ホントーに、だいじょうぶ?」
「ああ、大丈夫、もうこれいらないから。どうせ捨てるし」
「え、ええっ?」
あとものの数時間もせずに電池切れで、ガラクタと化すだろう。
売ったら金になる? とも思えないし。
あっさりとした俺の態度に、
レナは腑に落ちない表情をしていたが、はっと何かに気づいて口を開く。
「あの、それって……私に気を遣ってくれてる?」
「ん? あ、いや、本当にゴミなんだよね」
「うそ、だってさっきは大事そうに持ってたでしょ?」
それが今はもうゴミなんだって。
持ってても邪魔なだけで役にたたんだろうし。
「トウジって、優しいんだね」
だからそんな熱っぽい視線を向けてくるのはやめてほしい。
こっちとしても目のやりどころに困る。
俺は逃げるようにウィンドウに目線を移した。
さ、さあて、他になんか使えそうなスキルはないかな、と。
とその時、画面右上に表示されている数字を見て驚いた。
残りGP30070。
マジか、なんじゃこりゃ?
色々使ったにも関わらず、最初より増えてる……。
そんなに働いた、というか善行をしたつもりはないんだけど。
一体どんな内訳だ?
そういうのって見られないのかな。
なんとなく残りGPのところをタップしてみると、小窓がポップアップした。
購入履歴、GP履歴の二つの表示。
GP履歴を叩いてみる。
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GP履歴 (最新十件)
ゴブリン撃破 300
ちょっとだけ無敵結界 -1500
ゴブリン殺し -6500
マスターゴブリン撃破 9000
感謝値 5000
感謝値 15000
感謝値 2000
無限バッテリー -500
ディスプレイをマジック・ウィンドウ化 -2000
スキル内課金 -800
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なるほど、これによると魔物を倒しただけでもGPが入るらしい。
魔物を倒すこと自体が善行、ということなのかな。
それと感謝値っていうのは、やっぱりあの二人に感謝された分か?
どれが誰のだかわからないけど、意外と増えるもんだな。
この調子なら、割と楽かもしれない。
二人とともに森の中を少し歩くと、すぐに開けた平野に出た。
落ちかけた夕日が、大地を赤く染め上げる。
遠目に街と、城らしき建物が見える。
日本にいたら絶対に見られないような景色だ。
急にファンタジーっぽさが出てきて、妙にテンションが上がってきた。
しばらく舗装された道なりに進むと、この先エデンティア王国首都エデンと書かれた立て札が立っていた。
それを横目に通り過ぎ、さらに歩く。
その間、俺はしきりにレナにしゃべりかけられていたが、正直何を話したのか覚えていない。
そのほとんどが、適当に話をあわせて相槌を打っていただけだ。
それでも俺が死ぬ前に女子としゃべった分ぐらい、もう一生分はしゃべったんじゃないかとすら思える。
そんなこんなで、やっとエデンの街に到着した。
門構えの入り口には、鎧を着た衛兵が立っていたが、特に見咎められることはなく中に入る。
そして街に続くゲートをくぐるなり、セバスが大仰に口を開いた。
「いやはや、一時はどうなることかと思いましたが……トウジ殿、このたびは本当に、ありがとうございました」
改めてお礼を言われた。
だがこれは、明らかにこれでお別れムードを匂わせてきた。
街に着いたとはいえ、まだ右も左もわからないまま、無一文で放りだされると厳しいかもしれん。
でもまあ、スキルを探せば何とかなるか。GPは十分たまっているし。
人といるとどうも気を遣うというか、やっぱ一人のほうが気楽だ。
レナのような美少女とお別れになるのは、ちょっと惜しい気もするけど。
最後に別れのおっぱいをちら見しようと、レナのほうを見やる。
どういうわけか、レナはいつになく真剣な表情だった。
やや顔をうつむかせたまま、何か考えているような、迷っているような……。
やがてレナは、何か決意したように、面を上げた。
「……セバス。私、決めました」
「む? なにをですかな?」
「彼を、……トウジを、私のナイトにします」
……はい? 内藤?
レナのいきなりのその発言に、俺は固まった。