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何も知らぬ成人の日の私たち……。

成人式の翌々日……これが117の日です。

311も苦しむ人は減りません。

でも、風化していくのは、117もではないかと思います。

311も恐ろしかったが、私は117を知っている。


何回か軽く書いたものの、ふと、軽くではいけないのではないかと思ったのだ。


遺しておこう……私の記憶を……。




115。



当時成人式はその日であり、私たちは着物を着たり、ワンピースなどでおしゃれをして、会場に集まった。

最近は大騒ぎをする新成人が多いが、私たちは、入り口で集まって小・中学校の懐かしい同級生を見つけては、声を掛け、着物が可愛い、ワンピースが素敵とはしゃぐ。

男の子には、羽織袴の子もいれば、スーツもいて、私は、


「あれ?あの人……」

「あぁ、○○君よ~」

「えぇぇ?そうなん?」

「知らなかったん?」

「うん……苦手やったけん……。それに、小学も中学も合同同窓会の出席の葉書こんもん。アハハ」

「えぇぇ?こんの?嘘やろ?」


数人の声が上がる。


「うん、来とらんのよ。うち、いじめられっこやったけんね。いじめた相手が幹事やろ?呼びたなかろがね」


笑う。

ついでに、名前を教えて貰った同級生は、男性恐怖症もあり、女子高だったので余りお近づきになりたくない苦手なタイプの集団だったためにひいた。

それを知っていた幼馴染み達に、


「行くで~。一緒やけん大丈夫」


と連れていって貰った。




式が終わると、プチ同窓会。

もうすでに殆どの子が成人しているため、ソフトドリンクも込みの飲み放題の安い居酒屋でわいわいとする。

飲み放題で2000円ちょっと。

当時はバブルが崩壊したばかりで、その影響は短大を卒業する友人達には頭がいたいことで、


「本当に仕事が見つからんのよね……親戚は皆、結婚しろって見合い写真をデーンよ?この着物やって、見合い写真用に、前撮りバンバンやもん。もう嫌んなる……」

「良いやんか~。よう似合っとるよ~‼やっぱり美人が着るとえぇねぇ」

「刹那~‼あんただけよ~‼そんなん言ってくれるん!」


抱きついてくる友人に笑う。


友人達は楽しそうだが、私は憂鬱だった。

いや、友人達のことではなく、自分のことである。

普段はスニーカーでバイト先をいくつも掛け持ちして移動している自分にとって、今日選んだ灰色のヒールが厳しかったのだ。

高さは8センチ、ヒールはピンヒールではないのだが、それでもはきなれない人間には辛い。

選ぶんじゃなかった……ため息をつくと、


「ん?刹那~彼が見えんかったんかな~?」


ニヤニヤと別の幼馴染みの声。


「え、ち、ちがうよぉぉ」


必死に否定する。

15才の……中学校の卒業式の時に告白できなかった時点で、終わったのだと思っていた。


「いや、ただね、皆大変やなぁって。バブルが崩壊って、本当に冗談じゃないよ。しわ寄せってこっちやもん。それじゃなくたってさぁ……うち、バイト一つ辞めるもん」

「えぇ?どっちの?」


周囲の声に答える。


「あの、総合施設の方の。ほんとは母さんの従姉妹に紹介してもらって入ったんやけどね……」

「あぁ、あの?」

「何で?あそこって、真面目に働いてたら、正社員か契約になるんやろ?」

「ううん、うちは契約で、そっちに出向やったんよ。やのに、他のバイトと同じ扱いやったんよ」

「えぇぇ?酷くない?それ」


周囲はざわめく。

私以外が短大、もしくは大学に通い、バイトをしている子もいるが、当時は女の子は夜遅くまで出るなと言うことで、土日昼間のバイトの子が多かった。


「それがね、そこの店長が……」


と話すと、周囲は自然に顔を寄せる。


「……セクハラするんよ。私の休憩時間に、わざわざ休憩室兼事務室に来ては、すぐ近くの椅子に座って話すんやけど、人の胸を見たり、太ももに手をおいたりとかな?ほれに、一度なんかはキュロットパンツの内側に手をいれて……」

「ぎゃぁぁ‼なにそれ‼」

「でも、回りには誰もいないし、気持ち悪いし……職場で飲み会の時には大っぴらに触るんだよ、胸、こう手を突っ込んだりして……」

「な、なに考えてんの、そいつ‼」

「許せんわ‼」

「警察とかは⁉」


友人達に、


「飲み会で酔ったふりして一発殴っても止めなかったから、おばさんに相談したよ。で、3月15日で辞めることにしたんだ。向こうも異動になってたよ。でも、嫌だなぁって」

「辞めちゃえ~‼」

「でも、バイトは大丈夫?正社員目指してたんでしょ?」


友人の一人に言われ、


「仕方ないよ……男の子が良かったって皆言うよ。夜勤が足りないからって」

「え~!そうなの?」

「まぁ、大学生の男の子が生活費の為に働くからね。それに夜中に、製造の機械や表の掃除で夜中の2時位までだもん。女の子は危険だって。それに、やっぱりさぁ……」


ため息をつく。


「男子と女子の時給がちょっと違うよ。私は出向だから、他の子より少し高いけど、それでもきついよね。だってさぁ、聞いてよ。時給600円って書いてるのに、ふたを開けてみたら、実習期間約三ヶ月570円だって‼しかも、皆は短大とか大学生だからまだよくて、高卒だからって時給減らされるの当たり前だし、大学の子がサークル、講義って言う度に残業。嫌っていえばいいんだけど……」

「言えんやろ、刹那は」

「……ま、まぁね。それに、妹がいいところ就職したから、親戚がねちねち嫌み言うんよ……はぁぁ……」


もう一度、ため息をつく。


年子の妹のひなは、現在はもうないが、ある電気機械メーカーの工場の製造部でも上の部門、検査点検の部署についていた。

当時、ひなも色々と就職先を学校を通じて探していたが見つからず、ふと、新聞のチラシに求人募集を偶然見つけ、普通なら履歴書を書いて自分でだが、学校にチラシを持っていき、学校側から面接に行き合格した。

成績も平均以上、生活態度も問題ない妹だけに学校もかなりプッシュしたらしい。


「あぁ、嫌だなぁっていつも思うわ……ごめんね。皆も就職とか大変なのに、愚痴っちゃった。それに、えりちゃん、そう言えば大学は?四年制やろ?それに関西やん」

「あぁ、今日は皆でワイワイして、明日の晩に船にのるんよ。で、17日の6時半に神戸に到着。三ノ宮まで行ってから向こうに帰るんよ」

「わぁ、忙しいし強行軍だね。成人式のために戻ってくるのも一苦労」


当時、成人式は1月15日に行われており、その為の帰省は許される学校や会社は多かった。


「でも、皆に会えるんやけんかまんかまん」


と、皆で愚痴とかコイバナ、生活等を話し、


「じゃぁ、またね‼今度は夏休みかな‼」

「そうだね~‼その時はランチでもいいんじゃない?ウインドウショッピングも良いし」

「そうそう。じゃぁね‼」

「誰かが結婚するとか~賭けようか?」

「あ、刹那はなーし‼」


自分でいい、アハハ~‼と笑うと、友人達は振り返り、


「自分で言われん。さびしかろがね」

「ほうよ~。そういうときは、『できちゃった結婚だよ~‼』くらいいいなって」

「有り得ん」

「自分で言うな、トウ!」

「あったぁぁ‼脳天直撃‼」

「これで、恋愛脳になることを祈る」




これが、20才の私たちだった。

あの頃は本当にバイト代も低く、男女のバイト代が違うのは当たり前、学歴の差も顕著……高卒では、妹のように運が良くないと、良いところには入れない。

それが自分の劣等感で、周囲が羨ましく妬ましいとすら思っていた……。

こんな差別社会なんて無くなってしまえとも……思ったことすら……。

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