エピローグ
あれから、数日が経った。
私はせっせと部屋を掃除していた。
とは言っても、暇になったらいつも掃除しているからそこまでゴミはないのだけど、来客を迎えるのに掃除をしないのはなんとなく申し訳ない。
今日1時に、晴さんや鈴崎君、それと村中桐菜という人が来る予定だ。
桐菜とは、あのミミルさんのリアル名である。
父が私のパーティーメンバーに興味を持ち、全員呼んでくれないかと言ってきたのだ。
既にリアルで会っている二人はまだしも、ミミルさんはちょっと……って思いながら、ダメ元で誘ってみたら、驚きながらも意外とあっさりOKしてくれた。
もし私達がそういう詐欺師だったらと思うと、ちょっと心配になったけど。
「すいませーん!」
おっと。どうやら、一人目が来たようだ。
インターホン押さない人なんて、呼んだ人の中に一人しかいない。
私は、心に僅かな高揚を感じながら掃除機を片付け、階段を降りた。
「会菜ちゃん! リアルではおひさ!」
「お久しぶりです晴さん。でも、インターホンはちゃんと押して下さい」
不意に、ガチャッ、と音がして、居間から両親が出てきた。
「君が晴君か。会菜から話は聞いてるよ。大分お世話になったようだね」
「ええ、それはもう」
「何言ってるんですか」
寧ろ、晴さんの手綱握ってたの私なんだけど。
「ふふっ、面白い子ね。さ、上がって?」
「はーい。お邪魔しまーす」
「先行っててください。私飲み物持ってきますから」
「分かったよー」
そう言うと、晴さんは階段を登っていった。
居間に戻る両親を見ながら私は台所に移動し、冷蔵庫を開けた。
「あれ? こんなの買ったかな?」
呟いてみて、気づいた。
あれは母が買ったものだ。長らく買い物は自分でやってたから、 そこら辺がまだしっくり来ない。
私はサ○ダー、カ○ピス、スプラ○トを抱えて台所を出ると。
ピンポーン
インターホンが鳴る。
すると、再び居間から両親が出てきた。忙しいなぁ。
「はい」
飲み物を一旦置いて、扉を開ける。
そこに人は二人いて、一人は見たことがあるパッとしない顔の男性、もう一人は、アバターの面影を残した小柄な女性だった。
無論、二人とも知っている人物だ。
「久しぶり。鈴崎君、桐菜さん」
「久しぶり。いや、立派な家だね」
「お、お久しぶりです……」
桐菜さんは、アバターとは違って栗色の綺麗な髪を持っていたが、それ以外は全く同じだった。
しかも、なんとなく年下の気がしたという私の予想は当たり、彼女は中学二年生だった。隣の県からこの辺に引っ越してきたばかりだとか。
改めて、凄い運命を感じる。
「いらっしゃい。そちらの男の子が鈴木君、隣の女の子が桐奈君で良いのかな?」
「……僕は鈴崎です」
「こ、これは失礼だった。鈴本君だね。よろしく頼むよ」
「…………」
……ドンマイ、鈴本君。
「あなたが桐奈ちゃん? 可愛いわね~」
「あ、いや……」
「会奈は無愛想だけど宜しくね。できるだけサポートしてあげて?」
「は、はい……分かりました」
「……ちょっと」
思わず飲み物を落としそうになった。心配してくれるのは嬉しいけど、無愛想は余計だよ。事実だけど。
一瞬母に怒りを込めて視線を送り、私は改めて飲み物を抱えた。
「あっ、僕も持つよ」
「わ、私も……」
「ん、ありがとう」
そう言われ、仲良く一本ずつ持つことに。
「おっ、キタキタ!」
「晴先輩! 居たんですか?」
「お、お久しぶりです」
「皆久しぶり~……ん?」
晴さんは、私達が持っている飲み物を見ると、おもむろに自分のバッグを抱えた。
「飲み物だけじゃ足んないよ! 買いに行こう!」
「ポテチならありますよ?」
鈴崎君が、バッグから見慣れた袋を取り出すが、晴さんはまだまだと言わんばかりに首を横に振った。
「さ、行こ!」
「まぁ、確かに足りないかなぁ。買っとけば良かった……」
「良いって、渡里さん」
「そっかなぁ……」
そういいながら、私は財布を取りだして外に出た。
「暑いっ!」
「確かに……」
「蒸し暑いですね」
今日はかなり暑い。
でも、そこまで気にならないのはなんでだろう。
「それにしても、服ダサいね。鈴鹿君」
「鈴崎ですっ! 余計なお世話ですよ!」
「そんなに怒らないでよ山崎君」
「もはや鈴でもない!?」
「やだなぁ、半分冗談だよ」
「半分本気だとっ!?」
「……ふふ」
晴さんと鈴崎君のお決まりのやり取り。桐菜さんが笑っている。
少し姿は違うけど見慣れた光景なのに、胸が締め付けられるのはなんなんだろう。
この感覚は二度目だ。
『大霊峰』を攻略したときになったんだ。
ボスを倒した達成感?
違う。
未知の事を知るときのわくわく感?
違う。
それとも、人に近づかれる嫌悪感?
絶対に違う。
「……会奈さん」
考え事をしていたら、桐菜さんが話しかけてきた。
「私、人と話すのがすごく苦手で、友達と遊んだ事が殆ど無かったんですけど……やっぱり、こういうのって──」
俯いていた桐菜さんがこちらに顔を向け、はにかんだ。
「──さいっこうに、楽しいですよね!」
「っ!」
……そっか。
私のこの気持ちって……
「桐菜さん、二人にちょっと遅れちゃったね。行こっか」
「はい!」
私は自然と小走りになり、前の二人に追い付いた。
そして、二人の肩を叩く。
「どうした……の」
「渡里さん……?」
二人は、私の顔を見ると、固まったかのように硬直した。
私は、前から溜まっていた気持ちを吐き出すように、口を開いた。
「私、すっごく楽しい!」
ーー今、私はきっと笑ってる。
今まで読んでくださり、ありがとうございます。
終わってみればたった30話なのに、何回も心が折れそうになりました。
支えてくださったのは、ブクマ、評価、感想を下さった皆さま方です。
では最後に……
今まで 『avil・anel』~渡里会奈のVRMMOプレイ日記~ を読んでくださり、本当にありがとうございました!
P.S.プロローグは、実は本編に何も関係ありませんでした。