19話
今回は結構筆(指)が進みました。
三日後。
私は学校に居た。
用件といえば1つだけで、担任に夏休みの課題の進み具合を見てもらうだけだ。
去年も思ったけど、これ意味ないと思うんだよなぁ。
「うむ、完璧だ。この調子で頑張りなさい」
担任である中年男性にお墨付きを貰い、私は教室を出た。
宿題は八割程度終わっている。別に張り切ったわけでは無いが、何となくすっきりした気分でゲームをやりたいからやっておいたのだ。
結果的には良かったからいいけど。
「ん?」
帰ろうと昇降口へ向かう途中、見知った顔を見つけた。
「晴さん?」
一応は先輩だし、とりあえず、挨拶はしておこう。
そう思い駆けよろうとしたとき、あることに気づいた。
誰かと話してる?
あ、男の人。ということは、彼氏とかなんだろうか?
まぁ、よくよく考えてみれば美人だし、性格さえ気にしなければいい人なんだよね。
これは邪魔してはいけない、静かに帰ろう。
「あっ、会奈ちゃん!」
……バレてた。
いや、そんなおいでおいでされても、行く気になれませんよ?
すると、その思念が伝わったのか、晴さんからこっちに走ってきた。
そういう意味じゃないんですけど。
「ね、ね、会奈ちゃん、この人見覚えない?」
笑顔、というより悪戯な笑みを浮かべながら駆け寄ると、先ほどまで話していた男性を指差した。
見た目はパッとしないけど、はにかんだ時にできる目のシワが、何となく優しげな雰囲気を醸し出している。
一言でいえば、好青年だ。
「……」
うーん、こんな人見た覚えがないんだけど。
「あらら、忘れられちゃってるよ?」
「仕方ないですよ。僕、あまり話して無かったし。あのときだって空気でしたし」
「あのとき?」
「ほら、『鉄の騎士』と戦ってたとき、私の後ろにいた人だよ!」
んー、あのとき必死で、あんまりよく見てなかったんだよね。
晴さんがいたことはわかってるんだけど、その後ろにいた人…………
……あっ。
「あの存在感薄い人ですか?」
「…………」
「……ぷっ」
笑われた。違ったのだろうか?
「……違いましたか?」
「……どうせ僕はどうせ僕は」
「あちゃー、拗ねちゃった。ダメじゃない、そんなこと言っちゃ」
「あなたも笑ってましたよね?」
それより、いきなり膝を抱えはじめた彼は大丈夫なんだろうか。
「ゲーム以前にも、渡里さんとは面識があったんだけどなぁ……」
「ん? どういうことです?」
「渡里さん、ホントに覚えてない?」
「はい」
申し訳ないけど、こんな顔の人と会った記憶はない。
「僕だよ。小5の時転校した、鈴崎翔大」
あー、そういえばこんな人……
「……ごめん。分かんないです」
「うっそぉぉお!?」
「私、毎年同学年の顔と名前は覚えてますが、あなたの記憶はありません」
「マジか!?」
頭を抱え、崩れ落ちる鈴崎君。流石にかわいそうになってきたので、イジるのはここまでにしとこう。
「冗談。覚えてるよ鈴崎君」
「……ホントに?」
「うん、だいぶ変わったね。一瞬気づかなかった」
鈴崎君は小学校の頃、かなり顔が整っていた筈。バレンタインの日は、女子からの本命チョコで下駄箱と机の中がぎっしりになる程のモテ男だった。
因みに、私はあげてない。チョコは自分で食べたいから。
「良かったぁ……マジで、ホント」
「……名前言われるまで気づかなかったのは事実なんだけど」
「自覚はあるよ。この間、久々に小5の時の友達と会ったときも、納得させるのに十五分かかったし」
「あ、その人たちに激しく同意」
「あはは……でも、渡里さんも変わったよ。なんというか、大人っぽくなったね」
「まぁ……最後に会ったのが、小5の時だからね。そう見えるのは当たり前だよ」
それに、私は大人しくなったんじゃなくて、臆病になっただけだ。
鈴崎君は、あの事は知らないんだ。心の中で胸を撫で下ろす。
「二人とも、昔話に花咲かせてる途中に悪いけど、校門閉まっちゃってるよ?」
「えっ!?」
「あっ」
「しかも翔ちゃんに限っては他校生じゃない。バレたらあかんよ」
「ヤバッ。晴先輩、早く行きましょう!」
先輩? あっ、そっか。鈴崎君私と同い年だから、晴さんは一応先輩なのか。
私普通に『さん』で呼んでるんだけど、いいんだよね?
──あとから聞いた話だが、鈴崎君はこの町の2つ隣の町に住んでいるらしい。
「とりあえず、裏口から出よ。ほら、走って!」
私たちは校舎裏の裏口から脱出し、その後ヨネで暫く談笑した。
誤字脱字、重複、指摘などございましたら、感想にてよろしくお願いします。