1話
HRが終わり、私は足早に教室を出た。
そこら中から、「一緒に帰らない?」「ファミレス寄ってこうぜ」と、友達を誘う声が聞こえるが、私にはない。
当たり前だ、私には友達がいない。俗に言う『ぼっち』なのだから。
でも別に辛くはないし、今日からは夏休み。
30日間、学校生活を離れる事ができるのだ。居心地が悪いのは確かだから、そう思えば気が楽になる。
通学路を一人で歩き、家が見えてくる。
同時に、グロ猫宅急便のマークが私の目に入ってしまった。昼間っから見たくなかったな。
「……届いたのかな」
内心後悔しながら家に入り、適当に取った菓子パンをくわえながら二階にある自分の部屋に入る。
……このパン、美味しくないな。
部屋に置かれた、テレビ程の大きさの機械と、それに繋がっているヘルメット型の機械。
この最新型のゲーム機をベッドの近くへ運ぼうとゲーム機に手をかけたとき、ふと、両親の言葉が頭に浮かんだ。
「ゲームなど、下らないものだ」
それが両親の口癖であり、私に対する唯一の『教育』であり、『約束』だった。
幼い私は娯楽を禁じられ、ひたすら勉学に励むことを強制された。
いや、違う。私は嬉々として受け入れた。
反抗して、嫌われるのが怖かったから。
それでも、放任主義だった両親が家にいるのは年に一度。
しかも家にいると言っても会話はなく、ただリビングのテーブルに数えるのも億劫になる程の1万円札を置いていくだけだ。
もしかしたら家は金持ちなのかもしれないけど、そんなこと分からない。聞く相手が居ないから。
このように、親の愛情を一切受けずに育ったのが、私。
まるでロボットの様に淡々と物事をこなす、渡里 会奈という少女。
だからこそ、見てみたい。
今目の前にあるゲーム、『avil・anel』のキャッチコピーである、『無限に広がる世界』を。
今まで、家と学校という狭い世界しか知らなかった私はその言葉に惹かれた。
『両親の約束事』に囚われていた私は、その意味を知りたかった。
だから、反抗どころか両親に対し異論すら言ったことすらない私が、初めて反抗をする。
それが、『ゲーム』をするということなんだ。
「ふぅ…」
私は、1つ息を吐き出すと、ヘルメット型のゲーム機を被り、ベットに横たわった。
意識が、どこか別の所へ落ちていく。
夏休み──1日目開始