第3話 魔力吸収変換
妹の鈴子の杖を新しく購入するため、5年ぶりに魔法界へと再び訪れた俺たち。そんな俺たちは杖屋の屋根の上で店員を人質にしている男を目撃した。
「お兄ちゃん!」
「あぁ、いくぞ!」
俺たちは杖屋の建物の裏へと周り込んだ。
一方、屋根の上で店員を人質にしている男は聴衆に向けて罵声を上げていた。
「車はまだか!?早くしろ!この男が死んでも良いのか!?」
「ひぃぃ」
店員は何も抵抗できずにいた。そんな男の背後に妹の鈴子が現れた。男はすぐに鈴子の存在に気づくと、鈴子の方向に振り向き、人質を見せて鈴子を脅した。
「これ以上近寄るな!じゃねーとこいつの頭を魔術で吹っ飛ばす!」
「……」
鈴子は無言で男に向けて指をさした。
鈴子が男に向けて指をさした瞬間、瞬間的に放たれた青白い電撃が男の持っている杖に直撃し、その男の手から杖を弾き飛ばした。
electrogun.
下級魔術と称され殺傷能力は決して高くはないが、落雷と同じ速度150km〜200kmで放たれる電撃は、相手を確実に怯ませることができる!
「貴様、杖を無しに魔術を!ただの人間じゃなかったか!」
「手を上げて!あなたは強盗未遂で捕まえるわ!」
「仕方ねぇ……なんてな!」
男は人質を鈴子に向けて押し倒し、鈴子が人質を支えている間に杖を拾い、その場から逃走した。
人質だった店員は鈴子に何度も感謝の言葉を上げ、しばらくするとその店員は残念そうに鈴子に言った。
「ありがとうございます!ありがとうございます!犯人には逃げられてしまいましたが、もう、私はどうなることやら!」
「いいえ、犯人は逃げられませんよ」
鈴子はそう言うと、ニコッと笑いながらこう言った。
「お兄ちゃんは私より強いですから!」
その頃、鈴子から逃げた男は路地裏を走っていた。
「ここまで来れば!もう奴も来ないだろ!」
男は息を途切れさせながら走る速度をゆっくりさせていると、その男の前に俺は立ちはだかった。
「右手に持っている杖。それはあの杖屋から奪ったやつだな?」
俺は男にそう問いかけた。男は半ギレしながら問い返してきた。
「なんだてめーは!さっきの女の仲間か‼︎」
「今質問してるのは俺だ」
「こ、この野郎が!」
男は右手に持っている杖から炎の魔術を放った。
frame.
下級魔術と称されるその魔術は扱いやすく、魔術師の誰もが扱う魔術と言っても過言では無い。しかし、威力は決して低いものではなく、その炎の威力は実に火炎放射器と変わらない威力を持つ!
その炎は一直線に飛んで行き、俺に直撃した。
「どうだ!俺のとっておきの魔術は!かなりのダメージを負ったはずだぜ!クハハハハ!」
「で?それだけか?」
「なっ、なんだと!?」
男は笑いを止めた。無傷な俺の姿を見てその男は混乱し、同じ炎の魔術を何発も続けて放った。
「うおおおおおおおおお!!!」
何発もの炎の塊が俺に直撃し、魔術を連発した男は魔力を使い果たしたのかその場に座り込んだ。
「はぁ、はぁ、どうだ!」
「……」
しかし、俺は相変わらず無傷のままそこに立ち尽くしていた。
そう、これこそが魔術を使えない俺だけに備わった超能力である!
俺の魔力は並の魔術師が持っている魔力とは全く違う、普通の魔力を飲み物で表すと“オレンジジュース”なのだが、俺の魔力を飲み物で表すと“水”なのだ。
つまり俺の魔力には水だけであって味付けの果汁が無い。
俺だけしか持たないこの無能な魔力を“空無の魔力”という。そして俺は他人の魔力を消化吸収し、己の魔力を生成することができる。それはまるで何も味が無い水の中に果汁を入れるかのように。
そして“空無の魔力”に注がれた他者の魔力は、それまでにあった魔力とは全く違うものとなり、強烈な一撃を秘める!
それこそが、この俺立松晴翔だけに備わった超能力、“魔力吸収変換”!
「このバケモノが!」
男は渾身の魔力を使い炎の魔術を放ったが、俺は片手の手のひらから、物凄い風圧のようなものを放ち、炎の魔術を吹き飛ばし、建物に穴を開けた。
その男には直撃しなかった。直撃しないよう、俺が放つ位置を調節したのだ。
男はその威力に怖気付いてしまっていた。腰を地面に下ろし、震えながら俺を見上げていた。
「な、な、なんなんだ!お前は!」
「妹に半殺しにされないだけ有難いと思え」
俺は安堵のため息を尽きながらそう言う。妹は何を仕出かすかわからないからな。
俺は男の身柄を拘束し、先ほどの杖屋の建物までその男と一緒に歩いて行った。