読書/宇月原晴明『信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』 ノート20180317
宇月原晴明『信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』新潮社1999年
本作品は、第11回日本ファンタジー大賞受賞作である。ゆえに歴史ものというよりは伝奇のスタイルをとっている。題名についているアンドロギュヌスとは、両性具有を意味する。ギリシャ神話に両性具有だという無敵の神がいた。その再来ともいえるローマ皇帝が若くして即位すると、ペニスを意味する蛇紋岩を切り出してローマに入城をするパフォーマンスをやった。そいう伏線を巡らせておいて、サイドストリーが始まる。どうも信長は安土城に魔力をもった蛇紋岩を埋めたのではないかという憶測のもと、ドイツ陸軍の息がかかった発掘チームが、発掘を開始する。そこに両性具有の魔少年が現われ、たまたま日本を訪れたフランス人舞踊家に、信長の物語を始め魅了した。この舞踊家というのが、あのバリ島舞踊ケチャを世に広めた人だった。
戦乱の世に彗星の如く現れた信長は両性具有であった。ある宴で女体の姿をした信長を偶然目撃した豊臣秀吉は、たちまち魅了され家臣となった。信長はその後、明智光秀を配下に加え、武田信玄、上杉謙信といった強敵を呪殺し、一代で天下人となる。ここで役目を終えた信長は、自らがキリストを演じ、明智光秀を裏切り者の第十三使徒ユダを演じさせ、ともに異界へと昇天した。取り残された秀吉は、信長の似て異なる残像を追い求め、泣きわめきながら、旧主の血族を妾にしたり殺戮するのである。
そして物語はまた戦前日本となる。例のフランス人舞踊家は、魔少年の物語世界に引き込まれ、発狂した。
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