読書/夢枕獏『上弦の月を食べる獅子』 ノート20180312
夢枕獏『上弦の月を食べる獅子』早川書房1989年
物語は、宮沢賢治の生涯と並行しており、写真家である主人公・三島草平は賢治の分身のような存在だ。そんな三島草平は螺旋オタだ。とある建築家が設計したビルで、予算不足から作られなかったはずの、吹き抜け天井の螺旋階段を上って行くと、なんと、異世界に出てしまう。その異世界というのは、寒村のある海岸線から聖都のある須弥山のようなところ蘇迷楼に至る大陸があって、時として、シーラカンスみたいな魚が上陸して山頂を目指す。
三島は、そんな浜辺の村で、シーラカンスに憎悪をもって殺して食らう老人に出会った。この老人には、老いた妻と、ダモンとシェラという息子と娘がいた。アシュヴィンと呼ばれるようになった三島は、老夫人に気に入られ、シェラを嫁にする。ところが、ダモンはシェラと近親相姦関係にあり、激しく嫉妬して、両親と妹まで殺してしまう。そしてダモンは、聖都・蘇迷楼(に向かった。
生き残ったアシュヴィンは、一匹のシーラカンスにいざなわれるように聖都に向かう。その魚は、聖都に近づくにつれ進化していった。すると、そこに優美な貴婦人がいて、海辺で出会った老人の一人娘だという。老人は、実はヒンズー教のバラモンのような高僧だ。ダモンとシェラは異母弟妹に当たる。貴婦人は、アシュヴィンに一目ぼれしたが、異母弟ダモンが現れ犯される。ダモンはその罪で殺される。
そしてクライマックス。
魚は、賢治と近親相愛を疑われる才色兼備の妹トシへと進化した。他方で、アシュヴィンは、貴婦人にいざなわれて、悟りを得るべく、蘇迷楼の後背にある山頂を目指す。そこで神と対面し、自分とは何者だという禅問答をやり全問正解となった。
途端、アシュヴィンは三島に戻る。物語の冒頭にあったビルの吹き抜け天井にあった、螺旋階段が消えて、まっさかさまに墜落する。そのときの走馬灯に宮沢賢治が現れたので、「人間は幸せですか」と問いかけると、「もちろんですとも」という答えが返ってきた。そして、床に叩きつけられて死ぬ。
さて、この物語を、発売直後に読んだのだが、主人公の三島草平という名前が気になった。草平って、宮沢賢治と一緒に同人誌をつくっていた草野心平から名前をとっているのではないか。草野心平はカエルの詩人と呼ばれている私の同郷の人で、夢枕氏はファンだと聞いたことがある。叔父が草野心平の遠縁の女性を嫁にしている。また、学生時代の父が、たまたま、この人と東京で出会い、夫人がやっていた居酒屋でご馳走になったとき、カウンター横の席には井上靖がいて、登山の話題をしたという話をしていたのを思い出す。
ノート20170312




