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もう一度妻をおとすレシピ 第8冊  作者: 奄美剣星
読書感想文
33/100

読書/エラリー・クイーン『Xの悲劇』 ノート20121028

   エラリー・クイーン 『Xの悲劇』 1932年 / アメリカ合衆国


     ―― 概要 ――


 クイーンの特徴は論理。理詰めで謎に迫る。謎解きのサクセスを楽しむタイプだ。細谷正充にして、「ミステリの進化の袋小路」にはいった形式だ。

 満員の市電の中という密閉状況の中で巧妙な殺人が起こり、容疑者が続々と現れる。しかし、それはその後の殺人劇の前奏曲に過ぎなかった。元舞台俳優の名探偵ドルリー・レーンが、この謎に挑む。

 犯人はうまくやってのけたけど、最初の殺人だってダフィ巡査部長が車掌チャールズ・ウッドに警察への連絡を頼むとはかぎらない。そのかわり、巡査部長が電車の窓をしめてまわる前に、ウッドはコルク玉をつかむのに使った手ぶくろをすてることだってできたはずだ。レーンはできないといってるけどね。第二の殺人なんか、フェリーが岸に接触する直前に死体を投げこむわけだけど、タイミングをはずしたら顔がつぶれないし、たとえタイミングがうまくいっても顔がつぶれるとはかぎらない。

 考えてみるとおかしなことはほかにもかなりある。犯人は死体のふくらはぎの傷をまねてじぶんのふくらはぎにつけておきながら、盲腸の跡はまねてつけていない。盲腸の跡をつけなくても、鉄道会社を手術に必要な日数だけ休んでおく手をうていない。

 第三の殺人では、サム警部たちがなぜ車掌を疑わなかったのか、ふしぎだ。彼がレーンたちの車両を通って引き返さなかった(ホームを走って前の車両へ帰っている)ことは、だれの目にもはっきりしている。また車掌の乗務時間帯が、まるでパートタイムみたいに短いのもほんとかなって気がする。それに犯人がタイプライターではなく、じぶんの手で脅迫状を書いたもの、たとえロングストリートたちには正体を明かさないと脅迫にならなかったとしても、後で困ることは目にみえている。

 こうしてみると、殺人などおっくうでとてもやる気になれないけど、推理小説を書くのものごくろうなことだね。だって右にあげたおかしなことがないと、いかにレーンの鋭い頭をもってしても事件は解決しないのだから。

 そんなに嫌いなら子供に紹介するなよ、と言いたくもなる。――この問題点の指摘に謎解き小説ファンは反論が可能か。

 フェリーで顔をつぶす部分は、新保博久氏もハヤカワ文庫版の解説で触れてるが、これと、盲腸跡、車掌の乗務時間、脅迫状については、すぐに反論あるいは修正案が考えられる。――たいした瑕瑾ではない。

 しかし、手袋と「サム警部たちがなぜ車掌を疑わなかった」ことについては、本書の本質にかかわる指摘。――手袋を電車の外で捨てることは、ウッドが容疑をのがれるための絶対条件ではない。計画時に電車から出ていくことが想定できなくても、とりあえず差し支えはない。

 巡査部長が車掌に警察への連絡をたのまず、したがってウッドが電車から出られなくても、それなりの対処の仕方があったはずだ。

 電車から唯一出ていった人間が警察の、ひいては「読者の盲点」になっている、というのが本書の面白さの要であることは事実だ。

 他に手袋を捨てることが出来た人間がいない、という設定作りも、「レーンはできないといってる」なら探偵小説の読者はそれが「事実」=「推理の前提」であると納得するしかない。

 そうしなければ、理屈をこねる前提が確保されないといけないから、後に続く理屈が展開できない。(あるいは別の展開になる。読者が思いつきもしなかった方法で手袋を捨てる、または隠すというハウダニット作品になる可能性もある)作品を読んでいる間、その前提が無理なく納得出来れば、探偵小説は成功である。そこが現実との違いだ。

 「サム警部たちがなぜ車掌を疑わなかった」のもそうだ。それが「読者の盲点」であるところが面白い。クイーンがここでやりたかったのが、チェスタトンの「見えない人」のヴァリエーションであるのは明らか。しかし、チェスタトンの作品は思想にまで昇華されていますが、クイーンの場合はパズルにとどまっている。良く出来たパズルだが、パズルに過ぎない、というのは、そういうことだ。

 パズルがパズルとして成り立つためには、さまざまな前提が必要となる。探偵小説の愛読者は、その前提を当たり前のものとして受け入れるが、その前提が現実(本当の現実というよりは小説内リアリティ)とのギャップを生じさせるようなら、小説としては失格。『Xの悲劇』も、書かれた時代を考慮した上での評価しか出来ないということだ。

          ノート20121028






     ―― 詳細 ――


    《第1の殺人/株式仲買人ロングストリート殺し》


 舞台1:【市電・車庫/事件・被害者】オープニング・第一の事件の描写

 被害者:株式仲買人ロングストリート   

 『(第2の事件被害者)車掌はからだをくねらせて、ロングストリートの手から札をひったくるようにとった。 / 若い女性の膝にくずれおれた。チェリーがひと声、悲鳴をあげた。 / 殺人事件 / ダフィ巡査部長 (車掌に)「~警察本部のサム警部に確実に連絡させるんだ」


【死因】

 死体の左ポケット。直径一インチの小さなコルク玉で、少なくとも五十本はある縫い針がささっていて、それぞれの先端はコルク玉から、全面に四分の一インチはつき出していた。針の先には赤茶色をしたものが塗ってあった。/サム警部 / 検視官のシリング医師 (手口)「コルクからつき出た針先にはニコチンが塗ってある――ニコチンの濃縮液らしい。直接の死因だな。毒物は直接、針が掌と指にささって、すぐに血管にはいったわけだ」/サム警部の調査で、被害者が乗り込んでから誰も電車を離れていないこと、窓もドアも開けられなかったことがわかった。乗客全員の検査もしたが、あやしいものは何も出てこなかった。


【容疑者】

 被害者ロングストリートと一緒にいた人々。それぞれが動機を持っていたが、犯罪の証拠はなかった。

  チェリー:婚約者

  デウィット:共同経営者。被害者ロングストリートに弱みを握られていた

  デビット夫人:かつての不倫相手

  デウィットの娘  

  税務吏:デウィットの娘の恋人。被害者ロングストリートに大損をさせられた


 舞台2:ハムレット荘【名探偵登場】

⇒サム警部から事件詳細 / すでに犯人は判った様子(これから証明)

   サム警部

    ブルーノ:地方検事

   ドルリー・レーン:引退したシェークスピア俳優




    《第2の事件/車掌チャールズ・ウッド殺し》


 舞台1【事件現場・事件発生/ウィーホーケン渡船場】/犯人目撃者から匿名の手紙が届いた待合せ場所 / (登場人物) 探偵・元俳優ドルリー・レーン / ブルーノ地方検事 / サム警部

 ドルリー・レーン(描写): 刑事の一団からひとり離れて氏が腰をおろしていた。膝の間にはさんだ、太くて物々しいりんぼくのステッキの握りのあたりを、白い両手の長い指でにぎりしめていた。長い黒のインバネスを着ており、ふさふさした髪の上には、まっすぐなつばのついた黒いフェルト帽がのっていた。サム警部はその身なりを見て、見た目にこれほど年とった感じでいて、顔や姿がこれほど若々しい男は見たことがないと思った。


【被害者・死因・遺留品】

 『人が落ちたぞ!』という叫び声。サム警部とレーンは桟橋に向かった。途中、右手に怪我したデウィットと出会い、三人は渡船の下部船室を通り抜け、救命隊が帆布をひろげておいた前部甲板についた。


 帆布の上にあったのは、ずぶぬれで悪臭のある水にひたった、赤い髪の大柄なたくましい男の死体だった。顔の造作がつぶれて、だれか見分けがつかなかった。死人は濃い青の上着をつけ、首から裾まで二列の真鍮ボタンがついていた。だしぬけにサムは、落ちていた帽子をつかみとった――市電の車掌の帽子だった。サム警部は死人の上着の胸の内ポケットへ手をつっこんで、皮の財布を引きずり出した。財布から水で柔らかくなったカードを出し、ブルーノ地方検事に手渡した。署名はチャールズ・ウッドとしてあった。


 舞台2【地方検事局】/第2の事件の整理と第一容疑者の逮捕

 ブルーノ検事の困惑/

   容疑者デウィット(ロングストリートの共同経営者)を逮捕する。     

     第一の殺人(容疑):仲買人ロングストリート殺害

     第二の殺人(容疑):チャールズ・ウッド殺害

 サム警部 /

「もちろん」サムはいった。「あなたのおっしゃるX氏が全体の背後にいるんです。二つの犯行がひとりの手で行われたことに疑問の余地はありません。動機の点でも、手袋のようにぴったりと合います」

 探偵レーン /

 「うまい言いまわしですね、警部さん」とレーンはいった。「じつに適切です。ウッドはロングストリートの殺害犯人を知っているという手紙をわれわれによこし、この密告をしに行く途中で殺されたのです。当然、密告者を沈黙させるためということになります。車掌のウッドがどんな手がかりをつかんだのかは分かりませんが、結局、ロングストリートが殺されたとき電車の中におり、ウッドが殺されたときにまた渡し船の中にいた人物は、デウィットひとりだけだということです!」


 第2の舞台【刑事裁判所】第2事件の詳細説明。第一容疑者の証言。

 デウィットの弁護士ライマン / 検死官モリス医師 / サム警部


 弁護士ライマン/「モリス先生」デウィットの弁護士ライマンはいった。「サム警部がさきほど説明したような、かさぶた状になった右手の傷を見る数分前に、二百ポンドの物体をつかみあげて、それを手すりごしに突き落とすというようなことが、利き腕側の傷口を破かずに被告にできたでしょうか?」

 モリス医師はいった。「絶対にできません」法廷は騒然となった。

第一容疑者ブルーノ/ 顔を赤くして、「こいつがライマンの手柄だったらお目にかかるよ! そうとも、こいつは――」

 サム警部/「そのとおり」と警部がうなった。「もちろん、レーンさ。これも、あの人を信用しなかった報いだが。これからさき、このサミー坊やはレーンおじいさんのいうことを、おとなしく聞くことにするぜ! X氏の事件に関してはね!」


    《第三の殺人/第一容疑者デウィット殺し》


 第一の舞台/【ウィーホーケン駅およびローカル列車】

 無罪放免パーティのあと、一行はデウィットの家にむかうことになった。駅で買った回数券をチョッキの左上ポケットに入れたデウィットは、車中、死に瀕した記憶の不思議さの例に、かつての南米での思い出を語る。


 第一容疑者・第一被害者の共同経営者デウィット/

「人間の頭というものは、死の直前には、驚くべきことさえなしとげるものです」とレーンはいった。「新聞で読みましたが、ひとりの男がホテルの一室で射殺されているのが発見されました。かつて警察のスパイをつとめたことのある犯罪社会の男でしたが、彼はテーブルから七フィート離れたところで撃たれた後、テーブルまで這っていき、力を振りしぼって砂糖壺をつかみとってから死んだのです。この砂糖は何の意味なのでしょう? (中略)「どうも、砂糖自体の意味はわかりませんが」とデウィットは考えこみながら答えた。(中略)「一つだけは明白だと思います。死にかけていた男は、殺人者の正体について手がかりを残そうとしたということです」


 探偵レーン/

「おみごとです!」とレーンは叫んだ。「逮捕された男はコカイン中毒として知られる男でした。砂糖は白い結晶体の意味でした。それより、わたしが興味をひかれたのは、殺された男の心理なのです。彼は、死ぬ直前のほんのわずかな時間に、自分が残すことのできる唯一の手がかりを残したのです」


 検死官シリング医師/

「弾丸は上着から心臓まで貫通している。きれいな傷だよ」とシリング医師はいった。一同は最後部車両で死んでいたデウィットの、凍りついたような顔を見つめていた。その表情の意味は――むきだしの恐怖だった。シリング医師が軽く声をあげた。「この指を見たまえ」死体の左手の中指が人さし指の上に重ねられて、奇妙なかたちにからみついたまま硬直していた。


 サム警部/ 「こりゃあ、いったい」とサム警部がうなり声をあげた。「中世のヨーロッパではあるまいし。これは悪魔の目をよけるまじないですよ!」デウィットの上着の内ポケットから二冊の鉄道回数券つづりが出てきた。警部は古い回数券つづりのパンチの入ったページをめくった。あたらしい回数券は手付かずだった。車掌が呼ばれた。


 車掌/「乗車するたびにパンチを入れるんです。この丸印はわたしのパンチ、十字印がトムスンのですよ。これを数えりゃ、この人がこの列車に何度乗ったかわかるという寸法です」


 ブルーノ検死官/ブルーノが顔をしかめた。「犯人はこの列車によく乗るというデウィットの習慣を知っていたんだ」



 第2の舞台/【ハムレット荘】事件の中締め

 サム警部は塔の頂上に足を踏み出して、呆然とした。レーンは熊の毛皮の上に全裸に近い姿で横たわっていた。薄い金色のうぶ毛のほかに体毛のない、褐色のなめらかに引きしまったやせぎすの寝姿は、男盛りの人間の体であった。白い頭髪がひどく不調和なものに見えた。警部はレーンに調査の進展を報告した。


レーン/「警部さん、いよいよ巡礼に出かける時がきましたよ」

警部/「いよいよ最後ですか?」

レーン/「いや。たぶん最後から二番目の巡礼になるでしょう」


 その時、ウルグアイ領事館からストープスという男の伝送指紋写真が届いた。


警部/「レーンさん。ストープスとは何者です?」

レーン/「捜し求めてきたXです」

警部/「そんなばかな!」警部は叫んだ。「そんな名前は一度も出てきやしない!」

レーン/「名前が何だというのです? ねえ、警部さん。幸いにもあなたは、いくたびとなくストープス氏に会っておられるのですよ!」



 第3の舞台【再びローカル列車】


 ブルーノ地方検事とサム警部はレーンと共に列車に乗り込んだ。ほどなく、客席の前部から車掌があらわれて、検札をはじめた。サムは一行の料金を現金で払った。車掌は乗車券にパンチをいれ、サムにわたした。この一瞬をつかんで、レーンは立ち上がった。

探偵レーン/「ブルーノさん、サム警部さん、ご紹介します、もっとも不幸な神の子のひとり、ストープス氏です。別名、車掌のトムスン――」

検事・警部/「しかし――」

探偵レーン/「――別名」レーンは物柔らかに最後のことばを述べた。「車掌、チャールズ・ウッド」

警部・検事/「チャールズ・ウッド!」サムとブルーノは同時に舌をもつらせながら叫んだ。「しかし、チャールズ・ウッドは死んだはずだ!」

探偵レーン/「わたしにとっては」とドルリー・レーン氏はいった。「りっぱに生きていたのです」



 第四の舞台【舞台裏にて/ハムレット荘】


 探偵レーン/「あの電車内の殺人には、議論の余地のない結論が出ていました。それは、凶器がああいうものである以上、素手で扱えば、扱った人間自身が毒針に刺されて致命傷を負うのはあきらかだ、ということです。手を保護する被覆物として一般的なものは何か? むろん、手袋にきまっています。ところで、コルク玉はロングストリートが乗車した後でポケットに入れられたことがわかっています。その時に乗車していたもの全員を検査しましたが、手袋は発見されませんでした。また、ロングストリート一行が乗車する前から、窓は一つも開けなかったのです。手袋が窓から投げ捨てられたはずはなく、車内にもないということになれば、誰か電車から降りた人物の体につけて運び出されたとしか考えられません。ところが、車から降りた人物はたったひとりしかいません! 車掌です」


 ブルーノ検事/「まったくすばらしい」地方検事がいった。

「電車から降りて、手袋を処分する機会があたえられることを、彼が予期していたはずはありません。しかし、たとえ手袋を持っているとこが発見されても、車掌が勤務中に手袋を使用するのは、当たり前に見えます。ウッドにしてみれば、ドアや窓をしめなければならない雨の日にわざわざ犯罪を行う計画だったはずはない。晴天の日なら、窓やドアから車内の誰でも手袋を捨てる機会があったでしょうし、乗客も途中頻繁に乗り降りするでしょうから、警察は犯人が逃亡してしまったという可能性も考えなくてはならなくなったでしょう。でも、この夜は犯人にとって、またとない機会でした。ロングストリートが大勢の友人連中を引き連れていて、その誰もが疑惑を招くという事実があったからです。しかし、ここに、おかしなことが起こりました。ウッド自身が殺されてしまったのです」

 ウッドが共犯者である可能性を考慮して、すぐに最初の推理を述べなかったレーンだが、ここにきてウッドの後ろに主犯がいると考え、彼の生活と経歴を調べだしたのだった。調査により、死体には盲腸手術の後があるにもかかわらず、ウッドが五年間一度も仕事を休んでいないことを知り、ウッドと思われた死体は別人で、ウッドはまだ生きていること、彼が主犯であることを確信した。しかし、次のデウィット殺しを防げなかった。

「わたしはまだ素人探偵に過ぎないようです。もし、また別の事件に立ち入るようなことがありましたら……」彼はため息をもらして、先をつづけた。

 デウィットがチョッキの左上のポケットに入れていた列車の回数券が、死後に上着の内ポケットに移っていたこと、右利きのデウィットが左手で謎の印を作っていたことを指摘し、

「妥当な説明は一つだけです。彼は回数券を使おうとして右手に持っていた。車掌が近づいたためです。さらに、犯人は回数券をもとのポケットに戻すわけにはいかなかった。チョッキのポケットは弾丸の直接通路になっていて、穴のない回数券を戻せば殺害後に戻したことが明白になるからです。この推測には、心理的確証があります。列車の車掌というものは、実際のところ見えないも同然だからです。現にわたし自身、今になっても彼が通り抜けたことを思い出せません」

 南米で妻を殺され、無実の罪をきせられたストープスは、二人の車掌ウッドとトムスンとして二重生活を送り、ロングストリートとデウィットへの復讐の機会を狙っていたのだ。

「では、あの指の印というおもしろい問題に戻りましょう。あのからみ合わせた指には、どんな意味があるだろうか? ちょっと考えると、たちまち興味あることに思いつきました――重ね合わせた指にいちばんよく似ている図形的記号は、あきらかにXではありませんか! すると、目の前をさえぎっていたヴェールが落ちたように、列車の車掌トムスンにひとつの特徴があることを思い出したのです」


 ブルーノとサム/(二人は)呆然と顔を見合わせた。「ぐうの音も出ません。何だったのです?」


 レーン/ 答えるかわりに、レーンは印刷文字のある細長い紙片をとり出した。「車掌のトムスンが扱った乗車券の一枚にすぎません」レーンが背を向けて暖炉のそばへ近寄り、うずまく煙となった木の香を吸いこんでいるあいだ、サムとブルーノは、その最後の証拠品を凝視していた。紙片の二箇所にくっきりと鋭く打ち抜かれた車掌トムスンの十字形のパンチの跡が残っていた――一つのX。


          ノート20121028

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