映画/『オリエント急行殺人事件』2017 ノート20171220
『オリエント急行殺人事件』2017年 ハリウッド版
かつて、プロレスラーのアントニオ猪木が、「プロレスは八百長ではなくショーです」と発言し、ファンから喝采を受けたことがある。アガサ・クリスティーのミステリは、八百長ではないが、反則技を繰り出すショーだ。とういのも、主人公が犯人であってはならない、容疑者全員が犯人であってはならないといった、古典ミステリの約束ごとを破ったところにある。何せ、『そして誰もいなくなった』みたいに登場人物全員が孤島の別荘で殺されたり、本作のように、容疑者全員が犯人だったりするわけだから。
翻訳された小説の解説文には、大西洋無着陸横断飛行をやったリンドバーグ大佐の子息の身代金誘拐殺人事件が背景にあると書かれてあった。リンドバーグは、事件後にナチスに接近したため、ルーズベルト大統領によって、大佐の称号を剥奪される。同大佐は、物語の背景として、アーム・ストロング大佐となるわけだ。映画では、子息を令嬢に置き換えている。それは、しばらく前にアメリカを震撼させた美少女タレント「ジョン・ベネ殺害事件」とイメージを重さねたものだろう。そして容疑者には、ギリシャ人医師に代えて、黒人医師を出しているあたりは現代アメリカらしい感覚だなあとも思った。
オリエント急行は、プルマンの車両を用い、英国ロンドン発で、ドーバー海峡で降りて、フェリーに乗り、仏国カレーで乗り換え、イタリアのベネチアに向かうものと、中欧諸国を経由してトルコのイスタンブールに向かうものとがある。
かつて、イギリスのテレビ番組ポワロ・シリーズのスーシェがやっていて、ポワロといえばこの人の顔だったわけだが、今回の映画・探偵役は監督でもあるケネス・ブラナーなので、差別化の意味からか、ポアロだ。
映画冒頭は、エルサレムの教会宝物が盗まれた事件を、ポアロが、見事に解決するところから始まる。休養のため、イスタンブールを訪れ、そこからオリエント急行に乗り、事件に巻き込まれるというものだ。
機関車やイスタンブルー駅は、当時のものを、機関車そのものやセットで再現し、極力CGを使わず、結果として60億円の巨費を投入することになった。
原作では、探偵・容疑者達の相関関係や心理描写が粗かったのだが、今回の映画ではそのあたりのディテールが、極めて繊細で原作以上の出来ではないかと、私的には満足している。
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