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もう一度妻をおとすレシピ 第8冊  作者: 奄美剣星
読書感想文
24/100

読書/『英国の幽霊伝説』 ロレンスの騒霊 ノート20160411

 T・E・ロレンス(1888-1935年)は、第一次世界大戦(1914-1918年)に英国陸軍に、敵トルコ帝国からアラビア部族を焚き付けて反乱を起こさせる献策をし、現地で指揮を執った考古学者あがりの若き士官だった。最終階級は大佐である(※wikiにある〝中佐〟の記載は誤り)。

 1962年の英国映画『アラビアのロレンス』は世界ヒットし、美麗な砂漠の映像と、理想と現実の狭間にあって苦悩する若き士官ロレンスを描き当時の若者を熱狂させた。この人が自ら著した『智慧の七柱』はゲリラ戦のバイブルとなり、その結果、中島好男が岩波新書で1940年に著した『アラビアのロレンス』も映画ヒットの追い風に乗って大売れした。――かくいう私・奄美が古本屋で買った中島氏著書には、当時の妙齢女性の髪を留めていたのだろう栞代わりのヘアピンが錆だらけになって挟まっていた。熱狂ぶりが想像できる。

 前置きはこの辺にしておき本題に移る。テキスト『英国の幽霊伝説』の73頁から77頁8行目に記された、「クラウズ・ヒルCLOUS HILL」の項目だ。

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 T・E・ロレンスの隠棲直前の心境を綴った書簡が紹介されている。――アスター子爵夫人は、『おだまりローズ』著者ロジーナ・ハリソンのメイド時代の雇い主で、著作は夫人の伝記ともいえる。子爵夫人とロレンス、チャーチル首相は共通の友人だった。ロレンスの葬儀には両者が駆け付けて泣き顔になった様子がロジーナの著書で述べられている。……そのアスター夫人に、ロレンスが事故死直前に送った書簡にはこう書かれているのだそうだ(※テキスト73頁16-20行に記載されたものだ。中野1940年223頁2-7行で紹介した宛名のない書簡の抜粋と内容が類似している。1934年6月24日と8月6日付けだ)。

「――いいえ。野生の雌馬でさえ、しばらくはクラウズ・昼から私を引き離すことはできないでしょう。ここは地上の楽園です。ここに相応しい人間になるまで滞在を続けるつもりです」

 しかし、文章構成のいかんでは、心なごむ文章も、同書では歪曲され、悪霊の繰り言のようにされている。以下はテキストからの引用だ。

 ……1923年、ロレンスが購入したクラウズ・ヒルの家は、ドーセットの町の一角にあるらしい、本書74-75頁・見開き写真でみるとブナと松が混じった森の中の窪みに建てられた一軒家で、文字通りの隠棲生活を送っていた。

 アスター夫人に手紙を書いた1935年、ロレンスはボヴィントン基地での軍役をしつつ、白漆喰の煉瓦とタイルでできたコテージで執筆をしたりしていた。この人の趣味はバイクで、空軍除隊の二か月後、ブラフ・シューペリアという名のそれで、家に戻る途中、道を横切ってきた二人の少年の自転車を避けて横転し重傷を負い、六日後に息を引き取った。

 それからというもの、アラブ服をみにまとった人物がコテージを徘徊しているとか出入りしているとかいう目撃情報が多数寄せられた。戦場で知り合ったというアウダ・アブ・タイなる人物は図書室で彼の人の幽霊をみた。また、事故現場では、オートバイが近づいてくる音がきこえてきたかとおもえば、追い越す直前でふっと消えてしまう。――地元では、(ロレンスの幽霊が、騒霊〝ポルターガイスト〟化している。このままでは悪霊化して住民に害をなすに違いない)という噂が持ち上がった。そのため、1985年、ロレンスの交通事故現場で、「慰霊祭」ならぬ「悪魔祓い」を執り行ったところ、たちどころに、事故現場からもコテージからも、幽霊は姿を消したという。

 しかし、まあ、なんとも、無粋な話なのだろう、放っておいてやればいいものを……。〝楽園〟を追放された英雄の霊はいまごろ安息の場を求めアラビアの砂漠をさまよっているのだろうか。

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〈引用参考文献〉

●シャーン・エヴァンズ著『英国の幽霊伝説』(田口三和訳、村上リコ・日本版監修 原書房2015年)、「T・E・ロレンスの家」)

●ロジーナ・ハリソン著『おだまり、ローズ』(新井潤美訳 白水社2014年) ロレンス関連記事は、139頁11行-141頁5行にある。

●中野好夫『アラビアのロレンス』(岩波新書 1940年)


ノート20160411

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