表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度妻をおとすレシピ 第8冊  作者: 奄美剣星
読書感想文
10/100

読書/谷崎潤一郎『細雪』 ノート20180312

 谷崎潤一郎は、1933年に随筆『陰翳礼讃』を著し、そこで、西洋美が明暗のコントラストがはっきりしたものであるのに対し、日本美とは、ファジーなコントラストだとしている。西洋風のモダニズムによって、日本美は崩壊しかかっている。崩壊し行く日本美というものを自分は、小説の世界で再現してみたいと述べている。それを小説で実践したのが1943年から48年にかけて発表された上・中・下巻からなる『細雪』だと思う。

 大阪船場で一時代を築いた蒔岡家は、先代ですでに傾きだした。現在の本家当主・辰雄は、婿養子で自分に商才がないと見切って店を閉め、銀行員になった。物語開始時点で蒔岡家は崩壊しているのだが、全三部からなる長編物語は、そこから始まる。

 蒔岡家は長女鶴子の婿に辰雄を迎えた本家と、次女幸子の婿に貞之助を迎えた分家とがある。本家は、勤務先である銀行本店に栄転となったことで、大阪船場を引き払うことになる。分家は計理士をしていてそのまま阪神間にある高級住宅街・芦屋に留まる。この本家と分家との間を、三女の雪子と四女の妙子が行き来する。

 蒔岡本家の鶴子は、物語ポジション的に最も弱く見える第四ヒロインである長女だが、傾いてもなお蒔岡本家の女王であり女神であり『細雪』の世界そのものだ。下の妹たち三人は、何だかんだと彼女にすがりついたり、立てたりしている。

 三女の雪子を除く四姉妹には通り名がある。夫の栄転に随行して東京に行くことになる長女の鶴子は「本家の奥様」、阪神の芦屋にとどまる二女幸子は「御陵さん」、そして長女と次女との家に庇護された雪子、自活する四女妙子が「こいさん」となる。

 物語の本流は、絶世の美女である三女・雪子の婿とりだ。雪子は、親のエゴで婚期を逃した大和撫子にして絶世の美女である。東京の長女の鶴子と大阪の次女の幸子が奔走して、縁談をまとめようとすると、相手はどこかしら瑕疵があってうまくいかず結局破断になる。そういうわけで、第一話ダメ男A、第二話ダメ男B……と横から横に延々と続いて行くプロットになっている。つまり雪子こそが第一ヒロインだ。

 ただそれだと飽きてしまう。そこで、トリックスター的な役割を持つのが、四姉妹随一やんちゃな「こいさん」こと妙子が大和撫子・雪子の写し鏡の役をする。この第二ヒロインは、表向きは「人形作家」として職業婦人を気取り自活しているようだが、実態は、少女時代に幼馴染と駆け落ちして失敗、その後、男を何人も取り換え、貢がせて生計を立て、物語の終わりで私生児を死産する、モダンガールである。そのあたりは『痴人の愛』のナオミや、『卍』の光子に似た雰囲気がある。

 物語は、横列式プロットをとる夏目漱石の『吾輩は猫である』と同じ構造だ。ここで猫の役割をしているのが、第三ヒロインである次女幸子である。この幸子には、一人娘悦子がいて、彼女の視点をサポートする役割を担っている。悦子には、隣家であることから友達になった少女がいる。そのため芦屋の分家はドイツ人一家と親しくなった。このドイツ人一家が、帰国することになり、ドイツ人一家はたまに手紙をよこす。そのことで、ナチスが、ドイツで第一党になってワイマール共和国を乗っ取っり、ポーランド侵攻をし、欧州で第二次世界大戦を始めているという、時局をさりげなく読者に伝えている。

 そして酔っ払った〈猫〉が水瓶に落ちて溺死するように、三女雪子が、やはりダメ男であるところの貴族庶子との縁談が妥協的にまとまったところで、物語は唐突に終わる。1936(昭和11)年秋から1941年(昭和16年)春までのファミリー・ドラマだ。

          ノート20180312

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ