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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ハザマの初動

「すぐに主要な関係者たちを集めてくれ」

 そばに居たリンザにハザマはそう声をかけた。

「緊急に対策をする必要がある。

 あの森には洞窟衆が投資している開拓村がいくつもあるんだ」

 ハザマとしてはアルマヌニア公爵領なり王国なりがどのような被害を受けようとも、実はどうでもよいと思っている面があった。

 ただ、あの森の中にはこのリンザの義父をはじめとする洞窟衆初期メンバーが中心となって、この時点で数十という開拓村を運用していた。

 この第一報の簡単な記述だけではそうした開拓村がすぐに危機に晒されるのかどうか判断出来なかったが、だからといって根拠もなく楽観するべき理由もない。

 今のハザマの立場としては、まずこうした開拓村の安全を確保することを第一に考えるべきであり、それを実行するためには洞窟衆内部の意思統一を徹底した上で目的に沿った対策を講じる必要があった。

 かけ声ひとつで身軽に動けるほど、今の洞窟衆は小さな組織ではなくなっている。

「開拓村から不審な勢力と接触した報告などは、まだ入っていませんが?」

「実際に衝突がはじまってから準備をしたんじゃ遅いんだよ」

 そういうリンザに、ハザマは即答をする。

「敵さんの侵攻ルートが具体的になっていない今の時点ではなんともいえんが。

 でも、杞憂に終わるのならばそれでいいが、なにも備えずに一方的に蹂躙されるのも面白くはない」

 そうした開拓村は、農地の開墾をする傍ら、製紙その他の小規模な工房を設営して当座の費えを稼いでいた。

 開拓村ひとつ当たりの人口はせいぜい数百名程度で、その規模であるからには当然、常備兵などの余剰の人員を抱えている余裕もない。

 無防備に近いはずのその開拓村を、敵の意向次第で襲われるままに放置しておくという選択肢は、ハザマの中にはなかった。

 ハザマは頭の中でこれからやるべきことを数えあげる。

 まず正確な周辺情報の収集。

 特に敵の規模や位置、予想される進路などについて、出来るだけ正確に知りたい。

 だが。

 と、ハザマは思う。

 オラ組も、多忙なはずだしな。

 洞窟衆で諜報関係や情報収集を担当しているオットル・オラを筆頭とした組織は、現在森東地域方面へ注力している。

 今にはじまったことではないのだが、必要とされる仕事量に対して圧倒的に人手が不足している洞窟衆全般の傾向は、このオラ組も例外ではなかった。

 ダメ元で、相談だけはしてみるか。

 そう思い、ハザマはその場でオットル・オラに通信で連絡を取ってみることにした。

 オラ組のまとめ役ともなれば自分で現場に出る必要はほとんどなく、それどころか配下の人員を管理するためのデスクワークが現在のオットル・オラの仕事になる。

 今通信で呼びかけても、本当に多忙でなければすぐに出るはずだった。

『例の森の件ですか?』

 案の定、すぐに通信に出たオットル・オラは、ハザマが用件を切り出す前に先取りをしてそういった。

「ああ、その通りだ」

 ハザマは頷く。

「たった今、異変があったことがこちらに伝わった。

 ただ、漠然な内容だったのでもっと詳しい状況を知りたい。

 そちらで調べることは出来るか?」

『最善を尽くしましょう』

 オットル・オラは即答する。

『今回の件は、早めに対処しないと長期戦になるおそれがあります。

 そうなると今の王国の体力では、うまく対処出来ないかも知れません』

「頼む」

 ハザマは短く命じた。

「あの森にはうちの開拓村もある。

 王国が傾いてもどうも思わんが、うちの村だけは優先的に守りたい」

『とりあえず、開拓村のすべてに先行して何人か派遣します』

 オットル・オラはそう続けた。

『その上で現地の状況が詳しくわかり次第、お伝えします』

「任せる」

 ハザマはいった。

「なにかこちらに知らせるべき情報を掴んだら、即座に教えてくれ」

 本当は敵の侵攻ルートなど、もっとマクロな情報を掴みたいところだったが。

 だが、今の時点では、まずそこに手を着けるのが妥当な判断だろうな。

 と、ハザマも思った。

 十分な人手があるわけでもないし、まずは身内の安全確保を優先するのは間違った判断ではない。

「臨時会議の場所はどうしましょうか?」

 オットル・オラとの通信を切ると、すぐにリンザが声をかけてくる。

「どこでもいいんだが。

 こちらよりはルシアニアの方が集まりやすいだろう。

 とにかく、早くしてくれ」

 ハザマは、そう答えた。

 タマルやファンタルなど、今回の件について相談をする必要がある面子は、だいたいその周辺に居る。

 そちらからここバジルニアの領主公館まで人を集めるよりは、ハザマはそちらに向かった方がロスが少ないはずだった。

 魔法札のおかげで以前よりは気軽に転移魔法を使えるようになったとはいえ、その回数を節約するよう心がけておくことにこしたことはない。

 なにしろ、そうした膨大な魔力を消費するタイプの札が高くつく。

 これから敵の動き次第では、そうした転移札の残数が戦況に影響してくる可能性すらあるのだ。

 後は。

「この報告をしてきたやつらにもっと詳しい情報を問い合わせてくれ」

 ハザマはリンザに指示をした。

「接触があった具体的な位置や敵の数など、とにかく詳細な情報が欲しい。

 だいたいでも敵が居る位置を把握していないと、どうにも動きが取れない」

「それはもう問い合わせ中です」

 リンザは即答をした。

「王都と、それにアルマヌニア公爵領とに。

 ただ、あちらも情報が交錯しているようで、正確な詳細はすぐに返ってこないように思えますが」

 まあ、王国の連中も慌ててはいるんだろうなあ。

 と、ハザマは思った。

 想定外の方向とタイミングで侵攻があった形であり、王国としてはなんの備えもしていないはずだ。

 あの広大な森自体はこれまで天然の防壁として機能をしており、王国側はまさかあの森を越えて組織的な武力侵攻がなされるとは想定をしていない。

 平地の人間にとってああした森の中は人外魔境であり、あそこを越えて来る軍勢が存在するとは、まるで思っていないはずだ。

「王国の出方を待っていたんじゃあ遅い」

 ハザマはリンザに宣言をした。

「やつらが反応をする前に、おれたちは独自に村を守りに行くぞ。

 むざむざ身内を見捨てたと知られたら、これまで築いてきた洞窟衆の信用が地に落ちる」

 王国やアルマヌニア公爵家の今後の出方次第では、手を組んでそうした敵に対抗する未来も十分にあり得た。

 しかし、ハザマとしてはそうした周辺勢力の出方が決まるまで待っているつもりはなかった。

 こうした突発事の場合、初動での出遅れが大きな被害を生むことも十分に考えられるのだ。

 あの広大な森全体に防衛線を構築するのは、今の洞窟衆にとっても絵空事でしかなかったが、それでも、洞窟衆が関係した開拓村の警護を厚くして周辺を警戒しておけば、かなり違う。

 場合によっては虎の子の転移札を蕩尽してでも、接敵の可能性がある村に兵員を送り込むつもりだった。

 コストはかかるが、仕方がないな。

 と、ハザマはそう思う。

 ここまで構築した開拓村を放棄するよりも、一時的な出費により村と人員すべての保全を図る方が、今回の場合、合理的な選択といえた。

 仮に村を放棄して安全な場所に逃げたとしても、その道中の安全を完全に保証することも出来ないのである。

 あるいは。

 と、ハザマは思う。

 敵の位置と規模とが、今後正確に把握出来た場合。

 その場合は、逆にこちらから討伐に行くパターンもありえる。

 現在の洞窟衆、特に冒険者ギルドには、森の中での行動になれた山地の連中も多数登録しているわけであり、相手の詳細さえ判明すれば現実的な迎撃計画を作成することも十分に可能なはずだった。

 むしろ、そうなってくれれば、被害を最小限に抑えることが出来る。

 ま、そこまで都合よい展開になる可能性は、少ないのだろうけど。

 ハザマは心の中でその可能性について、すぐに打ち消した。

 なにしろあの森は広大だった。

 その広大な森の中に兵を潜められたら、その現在地を把握するのは現実問題として、なかなか難しい。

「森の地図はあるか?」

 ハザマはリンザに訊ねる。

「森全体の地図はないはずです。

 これまで、作るべき理由がなかったからです」

 リンザは即答する。

「ただ、うちが管理する開拓村の位置を記した地図はあります」

「とりあえずは、それでいい」

 ハザマはいった。

「その地図の写しを、少し多めに作っておいてくれ」

「急ぎ、作らせます」

 リンザはハザマの言葉に頷く。

「何枚くらい用意しますか?」

「出来るだけ多く」

 ハザマは答える。

「多すぎて困るということはない」

「至急、手配をします」

 とにかく、相手の情報が欲しいな。

 と、ハザマは思う。

 このままだと、目隠ししながら将棋をするようなもんだ。

 相手の位置や人数がわからないことには、こちらも有効な対策を打つことが出来ない。

『こっちは大変な騒ぎになっているわよ』

 そんな風に考えていた時、王都公館のハヌンから通信が入った。

「それで、森の中に入ってきた連中の詳細はわかったのか?

 接触した場所だけでもわかると助かるんだが?」

『それは、部外秘扱いでこっちまでは漏れてない』

 ハヌンは即答する。

『近衛と貴族の有志とで討伐軍を編成するようだけど』

「だったら、その討伐軍とやらの情報を集めてくれ」

 ハザマはいった。

「人数を見れば、王国側が敵をどう評価しているのかがわかる。

 兵糧を見れば、想定している移動距離なども推定できるだろう」

『わかった』

 ハザマの指示に、ハヌンは素直に頷いた。

『そっちは任せて。

 その代わり、うちの村もしっかり守ってよね』

 ハヌンやリンザの出身村も、あの森の中にある。

 敵の出方次第だよなあ、とか心の中で思いつつも、ハザマは、

「最善は尽くす」

 とだけ答えた。

 虚言ではなく、実際にそうするつもりだった。



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