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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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ハザマの考察

 結局のところ、ハザマが現在手がけているのは現在進行形の業務を効率化する仕事か、そうでなければ将来発生しそうなリスクを可能な限り軽減する仕事のどちらかということになる。

 このうち前者については、洞窟衆の組織化が進んでいけばある程度は自然に解消されていくはずだったが、後者についてはこちらから積極的に働きかけていかないと解消することはなく、それどころか放置しておけばそれだけ周囲に悪影響を与える確率と規模とが大きくなる性質があった。

 出来るだけ楽をしたいハザマとしては放置しておけるわけもなく、情報収集などをして本格的に介入する準備をする必要が出てくる。

 森東地域の問題が一番わかりやすい例といえたが、それ以外にも潜在的なリスクは多々存在するはずなので、それらについても出来るだけ早期に発見をして対処をする必要があった。

 将来的なことを考えると必要不可欠な業務であるといえたが、ハザマにいわせればこうした作業は退屈でもあった。

 なにより相手の出方を予想し、それに合わせた対応を取ることが基本形になる。

 つまりこれは、洞窟衆という組織がもはや新興勢力などではなく、周辺社会にも大きな影響を及ぼす立派な巨大組織へと育って来た証拠でもあり、その洞窟衆の最高責任者としてのハザマの仕事は、つまりは将来的な展望や戦略なども含めた経営者的な判断が必要とされる時期にさしかかっているわけで。

 支配欲や自己顕示欲が強い性格の人間であれば、現在のハザマの立ち位置を喜ぶのかも知れなかったが、幸か不幸かハザマ自身にそうした指向はあまりなかった。

 今手がけているこの手の仕事についても、

「結局みんな、守りの仕事じゃねえか」

 と、そう思ってしまう。

 これらの仕事はつまるところ、うまくやっても「現状維持」か「周囲の勢力との摩擦を軽減する」程度の成果しかなく、苦労をする割には目に見える成果があまりなかった。

 いや、森東地域についていえば、放置した場合、結果として大量の人間が死ぬ可能性があるということも十分に理解してはいるのだが、それはハザマの立場からしてみればあくまで「やつらの問題」であり、その森東地域とハザマ領と地理的に隣接しているという接点がなかったらここまで本腰を入れて介入しようともしなかっただろう。

 こちらの存在を軽減するためにしかたなくやっている、というのが本音であり、「その介入により犠牲者が減る」という結果もせいぜい副次的な効果に過ぎない、と、ハザマは思っている。

 別にハザマは聖人君子でもなんでもなく、この大地の上で起こっている不合理や悲劇のすべてをすべて解消しようなどとは思ってもいなかった。

 今回の問題についていえば、放っておけばハザマ領側にもかなり損害を被ると予想されること、それに、現在の洞窟衆の経済力や動員力を駆使すれば、どうにか解消可能な問題に思えたからこそ積極的な介入に沿って動いている。

 いや、完全にあそこの問題を解消することは不可能なのかも知れないが、大火事になるのを未然に防いで小火程度の被害で留める程度ならば、現在の洞窟衆でも可能であるように思えた。

 それに、そうした大量動員が必要とされる案件は、膨大な資金が動き、雇傭が発生すると予想されていた。

 そのことはこれまでの事例から明らかであり、この案件に関わればそれだけで洞窟衆にも膨大な利益をもたらす結果となる。

 洞窟衆の経営サイドとしては、この商機をそのまま見過ごすことも出来ず、介入をするという選択しかないのだった。

 この介入を成功させるため、十分に慎重になる必要はあったが、失敗を恐れて介入をしなかった場合は森東地域で数十万単位の死傷者が出た上でそこから逃れようとする人間がやはり数十万単位で周辺に流出しはじめるはずであり、いやすでに洞窟衆の関係者がそうした事例と接触したことがこの案件のはじまりであり、これ以上に躊躇をしている余裕はないのであった。

 対応が遅れればそれだけ最終的な被害も大きくなる物と予想され、その意味ではリンザがハザマの留守中に森東地域への介入を決断したことも決して間違いはなかったのだが。

 しかしハザマは、この件に関しては疑問を抱いていた。

 疑問というか、腑に落ちていない点。

 どういう指標を持ってこの案件を収束に持っていくべきなのか、その方針を決めきれない。

 それともうひとつ。

 これは、必ずしもこの案件だけに限定したことではないのだが、

「このまま周囲の状況に流されるままだと、自分の一生は受動的な姿勢で終わってしまうのではないか?」

 という疑問が、ことに最近はハザマの中で大きくなっていく。

 洞窟衆の首領にせよ、ハザマ領の領主にせよ、かなりの権限と責任を持った立場であり、その両者を兼任しているハザマは、この世界においてはかなりの成功者として見られている。

 客観的に見てもそれは否定しようがない事実なわけだが、ハザマにしてみれば周囲から持ち込まれた案件や巻き揉まれたトラブルなどを順番に捌いていたらいつの間にかこういうことになっていた、という程度の認識であり、決してハザマが能動的に現在の地位を目指した結果、現在のようになっているわけではない。

「いろいろやっていたら、いつの間にかこうなっていた」

 というのがハザマの実感であり、そのため、不本意に思う点も多かった。

 責任のある地位からはさっさと隠居して冒険者としてやっていきたい、という希望を最近になって公然と語るようになったのも、そういう思いが強かったからで、幸いなことにハザマの性格を知っている身近な者たちは強く反発するようなことはなく、そうしたハザマの希望を素直に聞いてくれる。

 ハザマ個人の思惑とはしてともかく、現在の状況を考えると非現実的な希望だと断じているのか、それとも本当にハザマならばやりかねないと理解しているのか、どう考えて素直に聞いてくれているのか、微妙なところではあったが。

 いずれにせよ、ここいらでちゃんと考え直しておかないと、洞窟衆は周囲のトラブルを機械的に解決するだけの組織になってしまうのではないか。

 ハザマは、そう危惧している。

 洞窟衆という組織がトラブルシューターとして機能すること自体は、正直にいうとどうでもよかった。

 それも仕事の一環であり、事実、これまでのトラブルシューティングから洞窟衆は有形無形の利潤を勝ち取っている。

 ただその仕事も、受け身のまま、外部からいわれるままに動くのは少し違うのではないか。

 少し前から、ハザマはそう思いはじめている。

 だからといって、今の洞窟衆が本気を出して特定の目的に向かって邁進をしはじめたら、周辺社会にも決して少なくはない影響を及ぼすはずで、受動的な状態が必ずしも悪いとはいえないのが、難しいところであったが。

 このままトラブルシューターに徹していればどこからも非難をされることなく、無難ではある。

 しかしその場合、将来的には洞窟衆という組織自体が、周辺諸勢力によって便利に使われ、徐々に消耗して先細りになる、という可能性もあった。

 冒険者ギルドを組織的に独立させ、洞窟衆とは完全に別の組織にすることをハザマが提案しているのは、この危惧も原因になっている。

 帝国との関係が強まるこれからならば、冒険者ギルドをそのまま独立させることも決して不可能ではなかった。

 この周辺地域よりも、多くの国々を抱えている帝国のような場所の方が、冒険者ギルドのような組織の出番は多いはずでもあり、少し時間はかかるものの、この構想はいずれ実現するだろう。

 国家の垣根を越えて仕事を依頼したり斡旋したりする冒険者のような組織には、それなりにニーズがある。

 また、何らかの事情により特定の組織に所属できない、卓越した能力の持ち主などに活躍の場を与えることにもなり、出来るだけ広い範囲で稼働をさせる方がメリットが多いはずだった。

 つまり、ハザマとしては洞窟衆が周囲の勢力から便利に使われる状況を可能な限り早く変えたいという希望があるのだが、現実的に考えるとこれはかなり難しい。

 特に、森東地域の件などは、解決するのに数年は必要だろう。

 この場合の解決とは、つまりは、関係者全員がどうにかして納得出来る結果を出す、ということだが。

 この案件の場合、その関係者自体の数が多く、しかも利害関係が複雑に絡み合っているので、その関係者全員を納得させることはなかなか難しかった。

 さらにいえば、混乱が続く山地から逃げ出した連中が進出を図っている。

 この周辺だけの問題ではなく、山地の周囲全域で多かれ少なかれ、問題になっているはずだった。

 ガダナクル連邦に駐留しているバツキヤからも、そんな報告がと届いていたし、かなり広範な地域で似たような摩擦が起こっているのだろう。

 そのすべてを洞窟衆の手で解決出来る、あるいは解決をするべきである、などとハザマは思ってはいなかったが、そうした混乱がこの先どういう変化をもたらすのか、容易に予測が出来なかった。

 おそらくは、山地の周辺に限っていえば、政治的な混乱はこれから激しくなるのではないか。

 どんどん面倒なことになるよなあ。

 と、ハザマは思う。

 不確定要素が多すぎて、将来の見通しは必ずしも良好とはいえなかったが。

 それでも、自分と自分の身の回りの者たち、それくらいの安全は確保しておきたい。

 現実的に考えると、この世界でその希望を叶えるためには相応の財力や影響力などが必要となり、つまりはこのまま洞窟衆を動かし続けるのが一番の早道であるともいえた。

「はやく身軽になりたい」

 というハザマ個人の希望にしても、厳密に突き詰めて考えると、現実と乖離している部分が多かった。


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