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トカゲといっしょ  作者: (=`ω´=)


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公爵の顔

「なにか嫌な物が自分の中に入って来ている」

 王女はそういって顔を顰める。

「嫌な物かも知れないが、そいつらも好きでそうしているわけではない」

 ハザマは、諭すような口調で説明をした。

「迷惑だろうが、ここは王族らしく寛大に振る舞ってくれ。

 でもそいつらの意思に引きずられることはせず、反対にいうことを聞かせて自分の中から追い出すんだ」

 両者の混合がすでにはじまっている今ならば、意思の疎通を図ることも可能なはずだ。

 ハザマは、そう思いたかった。

「いうことを聞かせる?」

 王女は首を傾げた。

「わたしが?

 出来るの?

 そんなことが」

「なんといっても君はお姫様だ」

 ハザマはいった。

「無礼者を叱り、叩き出す程度のことは出来るさ」

 ハザマとしては、まだ幼いこのお姫様にも理解可能な言葉で説明をしなければならず、言葉探しの部分で忙しく頭を働かせている。

「無礼者」

 王女は、ハザマの言葉に大きく頷いた。

「その通りだわ。

 この子たち、叱ってもいいのね?」

「叱って追い出して、そして今後二度とこんなことをしないようにいい聞かせておいてくれ」

 ハザマはいった。

 不安に押し潰されてるよりは、こうして勢いづいていた方がいい。

 なにしろここは精神がそのまま反映される場所のようだからな、と、ハザマは思う。

「叱って、追い出して、いうことを聞かせる」

 王女はハザマの言葉を反芻してから、大きく頷く。

「わかった。

 やってみる」

 それから目を閉じて、大きく深呼吸をしはじめた。

 少しして、王女の輪郭がまたぶるんと大きく揺らぎ、次の瞬間、王女の中からなにかの物体がしみ出しはじめた。

 ゼリー状の物体が王女の中から大量に湧き出して来て、そして王女は半透明な状態から次第に色がついた、自然な外観へと変化していく。

 いいぞ。

 と、ハザマは思った。

 王女と召喚獣の混合がどこまで進んでいたのか定かではなかったが、ここまでは、王女が自分の意思で自身の状況をコントロールしている。

 これが出来さえすれば、今後も大きく困ることはないだろう。

 この件が終わった後、王女がどんな状態になるのかハザマには予想できなかったが、人間というのは生きてさえすれば多かれ少なかれ変化をしていく者である。

 さらにいえば、この世界には王族や貴族の中にさえたまに異能者が現れる。

 これまで普通の子どもでしかなかったこの王女がその異能者の一員になったとしても、そんなに困ることはないだろう。

 本当に困るのは王女の体のコントロールが召喚獣の側に奪われてしまうことで、ハザマとしてはその可能性だけは先に潰しておきたかった。

 本当ならば綺麗に召喚獣と王女様の要素を分断して元通りに戻すことなのだが、そこまで都合がいい方法が果たしてあるのかどうか、この手のことに疎いハザマには判断がつかなかった。

『おそらくは、無理であろうな』

 トスラタトテがハザマが思い浮かべた疑問に答えてくれる。

『程度までは不明だが、一度混ざった物質同士を綺麗に分離することは難しい。

 それが生物であれば、なおさらだ』

 だとしたら、ハザマのアプローチは正解だったことになる。

 心身の主導権を王女に集中させ、その上で王女から見れば不純物となる召喚獣の部分を出来るだけ、王女の中から追い出す。

 ベストとはいいかねるがベター、比較的マシな解決方法であるはずだった。

 今の時点でハザマがこの王女に対して出来ることは、せいぜいここくらいまで、ということでもあったのだが。

 そんなことを考えている間に王女の体から追い出された召喚獣の体が一カ所に集りはじめた。

 小さな王女の体から出て来た割には、どう見ても容積的に王女の体の数倍はありそうな大きさとなっている。

 半透明のゼリー状の物体がそれだけ集まると内部の見通しが悪くなり、もはや「半透明」とさえいえない白く濁った塊となる。

 その物質はどんどん大きくなり、今ではハザマの背丈よりも高くそびえている。

 一向に巨大化が止まらないその物質に不穏な物を感じたのか、もうすっかり普通の子どもと変わらない様子になっていた王女が怯えて、ハザマの背中に隠れた。

『こいつは倒しちまっても構わないんだな?』

 ハザマもその物体に対して不吉な雰囲気を感じたので、トスラタトテに確認をする。

『構わない』

 トスラタトテの返答は明快だった。

『もともと、こちらにはなかった生物であり物質だ』

 そういうことなら、と、ハザマはバジルを嗾けようとした。

 しかし、その時。

 その巨大な塊がぶるんと震えて、形を変えはじめた。

 顔だ。

 ハザマ自身よりも大きな人の顔。

 そしてそれは。

「グラウデウス公爵、か」

 ハザマは、声に出して呟く。

 そういえば、王女よりも先に、このおっさんが召喚獣と融合していたんだっけか。

 それだけ長期間、召喚獣と相互に影響を与え合って来たわけで、グラウデウス公爵の意思なり意識なりが召喚獣の中に残っていたとしても、不思議はない。

 だが、それは。

 と、ハザマは思う。

 本体であるグラウデウス公爵が倒された今、ここに残っているグラウデウス公爵の意識は、所詮残滓でしかなかった。

 残りかす、である。

 死んだ物の意識だけが残されていたとしても、それと独立した人格とを同一視するほどハザマは情感豊かなわけではない。

 その巨大な顔が口を開きかけたのを機に、ハザマは素早く腰の剣を抜いて上段に振りかぶり、そのまままっすぐに振り下ろした。

 グラウデウス公爵の顔がほぼ中心部で両断されて、左右に分かれる。

「き、貴様」

 そんな状態でも、グラウデウス公爵の顔はしゃべることが出来た。

「なんと無礼な!」

「死人はおとなしく死んでろ」

 ハザマは冷酷な声を出す。

「もはやこの世に、お前の居場所はない」

 気づくと、すっかり怯えていた王女がハザマの背中の服をぎゅっと握り、張り付いていた。

 王女にしてみればこのグラウデウス公爵は兄ともども自分を捕らえて召喚獣の中に押し込めた張本人なわけで、当然、恐怖の対象でもある。

「バジル!」

 ハザマは王女の肩に手をおいて軽く抱き寄せ、その上でバジルに告げた。

「その亡霊をきれいに食い尽くせ!

 そうだな。

 こういう場所だから、せいぜい派手に食ってやれ!」

 その声が終わらないうちに、バジルはハザマとグラウデウス公爵の顔との間に飛び出し、そこでなぜか唐突に巨大化する。

 せいぜい派手に、というハザマの意思を具現化しようとしたのか、それともバジル自身の意思なのか。

 ともかく、バジルはその場でグラウデウス公爵の顔よりもさらに大きくなり、グラウデウス公爵の顔を高所から見下ろした。

 グラウデウス公爵の顔が、明らかに怯えた表情になる。

 そのままバジルは大きく口を開けてグラウデウス公爵の顔に襲いかかり、何度か顎を開閉しただけで、綺麗さっぱりグラウデウス公爵の顔、その形をした召喚獣を食べきってしまった。

 召喚獣を食べきってしまうと、バジルは周囲を見渡してから詰まらなそうな態度で下を向き、そのまますっと元のサイズに戻る。

 どうやらバジルも、もはやここには食べるべき物が残っていないと、そう判断したようだった。

「よし」

 ハザマは口に出してそういった。

「ここでのおれの仕事は終わった」

 そして次の瞬間、ハザマの意識は切り替わった。


 気づくと、エルフのトスラタトテが間近にハザマの顔を覗き込んでいた。

「よう」

「やあ」

 ハザマとトスラタトテとは、短く挨拶をする。

「あれでよかったのか?」

「おそらくは。

 あれ以上巧妙に始末をつけることは、他の誰にも出来なかっただろう」

 トスラタトテがそういうんなら、そうなんだろうな。

 と、ハザマはそんな納得の仕方をする。

 召喚獣の意識の中とか、そんな非常識な状態はハザマが得意とする場ではない。

「ところで」

 ハザマは訊ねた。

「なんでおれ、膝枕をされてんの?」

「本格的に潜るとなると、物理的にも近い方がよいと思ってな」

 トスラタトテは澄ました顔で答えた。

「慌ててこちらに来て、倒れていたハザマをこうした」

 じゃあ、もう起きてもいいんだな。

 そう判断をしたハザマは、そのまま身を起こした。

 ハザマの腹の上に乗っていたバジルが、素早くそこから床の上に飛び降りる。

「肝心の王女様は?」

 立ち上がりながら、ハザマはトスラタトテに訊ねた。

「今、召喚獣の中から掘り起こしている」

 トスラタトテは即答する。

「残っていた召喚獣の体は、すべて体組織が崩壊しはじめたそうだ。

 無理にこの天地に留めていた物がなくなり、自身を構成し続けることが不可能になったのだろうな」

 その説明がどこまで正確な物なのか、ハザマには判断が出来なかった。

 そのためハザマは、

「そんなもんか」

 と心の中で軽く流して、そのことを忘れることにする。

 これ以上に被害が広がる恐れがないというのなら、ハザマと洞窟衆にとっては、それはもう終わったのと同然なのだ。

「無事に……とは、到底いえないが、最悪の事態は避けることが出来たってところかな」

 ハザマは、誰にともなく呟く。

 昨夜からの一連の騒動で、かなりの被害が出ていた。

 物理的、人的な被害とは別に、これから政治的な後始末も残っているわけだが、そちらはハザマというより、この王国や貴族社会で解決するべき種類の問題になる。

 そっちはそっちでかなり大変そうであるのだが、ハザマにしてみれば完全に他人事だった。

「これからどうする?」

 今度は、トスラタトテがハザマに訊ねる。

「ああ」

 ハザマは頷きつつ、答えた。

「逃げる」

「逃げる?」

 トスラタトテが厳しい顔つきになった。

「この状態の王都から、王城から逃げるというか?」

「いやだって、これ以上おれがこの場に居てもやることないでしょう」

 いいつつ、ハザマは懐中から目当ての転移札を取り出した。

「下手に居残っていたら、また難癖をつけられたり仕事を押しつけられたりしそうだし。

 今回は近衛のオングドラーデ子爵とか、事情を知っている人も大勢居るわけでさ。

 せめて後始末くらいはそっちの人たちに頑張って貰いましょう」

 いいつつ、ハザマは取り出した転移札を破った。

 その瞬間、ハザマはハザマ領はバジルニアの、自分の執務室に出現している。

 机に向かっていたリンザがふと顔をあげ、そこに出現したハザマの姿を認めて目を丸くしていた。



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